第5話 架橋祭 2
その日の朝、わくわくしすぎて、暗いうちから目が覚めた。
俺ってば、いい歳をして遠足の日の小学生かよ。
昨日、ネヒール川の大岩のアーチ橋は完成した。
職人さん達は、手すりの石までを積み上げて、トールケの火の山から噴き出したという火山灰になんか色々と混ぜて、石の隙間に流し込んでいた。
何回かに分けて、しっかり流し込むと、橋全体がとても強くなるんだそうな。
確かに、モルタルみたいに固まったので、びっくりしたよ。
通常の建物はここまでしないけど、橋は恒久的なものだから固めたってさ。
これによって、橋の歩くところも、結構平らになった。舗装みたいで、車輪は揺れなくて良いだろうね。
で、橋の全部を掃き清め、プラットフォームまでの階段に簡単な手すりをつけて、岩だったものは完全に人工の構造物になった。
エレベータの取り付けはまだだし、避雷針アンテナもまだだ。
でも、祭りの主役にふさわしい姿になった。
で、きれいになった橋を、できるだけ派手な色の紐を渡して封印した。今まで誰も渡っていないって状況作りだね。工事している人たちはもう、何回も渡っているし、そうでなきゃ仕事にならない。
でも、このあたりの演出の白々しさは、どこの世界でも同じなんだろうって思うと可笑しい。
避雷針アンテナは、ダーカスからの高架線を伸ばす準備をしているので、それがたどり着いた段階で立てる。あと3日ぐらいはかかるかな。すべての柱が立つまで。そうしたら、
アンテナだけ立てても、川の流れに魔素を逃しているだけならば、川面までのケーブルがもったいないだけだからだ。
無理してでも、少し高めのアンテナを立てたいし、エモーリさんに発注は済んでいるし、作業の工程は見えている。
ただ、この橋の上では、エレベータの設置と空間を取り合うといけないので、最終的にはエレベータを作っているエモーリさんのGo待ちになる。
エレベータは、その動力を水車に依る予定なので、ケーブルシップの動力の水車と合わせて上流から流して取り付ける。
ケーブルは、リバータのたてがみをちょっとだけ、エレベータ用に盗んでいる。
なお、「上流から流して」というのは、イカダを組んでそれに水車が付いている形だからだ。水位の変動に対応する仕組みなんだよ。だから、腰以下の深さで流れが緩やかのところでイカダを進水させて、結びつけたロープ2本で、両岸から大岩の取り付け位置までバランスを取りながら誘導するんだ。
そうすれば、イカダがどちらかの岸に寄り過ぎてしまう事態を防げるからね。
エモーリさんが、川の水位の変動に対応するために、浮力のあるイカダを大岩に遊動固定するって思いついたときには、どうやってそのイカダを作るかが課題だった。だけど、木材が安くなったから、金の空気タンク案もゴムの浮き袋案も採らなくて済んだんだ。
もしかして、あとからフロートを付けて安定性や喫水を調整するかもしれないけれど、最初っから水に浮く素材って、この世界では少ないからとてもありがたい。
そのイカダを大岩に遊動的に取り付ける石材加工は、発破の段階で終わっているから、あとはもう据え付けだけなんだ。
あと、ケーブルシップの発着のプラットフォームは、これからさらに大岩の下流側に伸ばしていく。
なんたって、橋ができてからの方が石材を運びやすいからね。
エレベータができれば、さらに楽に石材を運べるし、工事の手順としてはそれが1番省力できるものかも。
ともかく、今日の予定。
プログラム1番。
スィナンさんの挨拶
プログラム2番。
ケーブルを結んだゴムボートをネヒール川の南岸から流す。同時に、上流側からは水車が取り付けられたイカダが流される。
プログラム3番。
橋の渡り初め式。
プログラム4番。
ケーブルシップとエレベータの動力源の水車イカダの取付け。これは、参加型イベントみたいなもんになる。
プログラム5番。
商人組合提供の食事のお振る舞い。
プログラム6番。
ケーブルの反対側の端に別のゴムボートを繋ぎ、北岸から流す。そして、いよいよケーブルを、水車にセット。
プログラム7番。
トーゴから、ゴムボートの到着が光信号で届くのを受けて、ケーブルシップの完成と運用開始の宣言を、王様が行う。それを受けて、みんなで最後の歓声を上げて終了。
「ばんざーい」とか「えいえいおー」とか、決まった掛け声はここにはないから、いつも自然発生的な「わぁっ」って感じなんだけど、なんか考えてもいいかもね。
例えば「ヒッ、ヒッ、フー」とか?
− − − − − − − −
会場ってわけでもないけど、場所は何回も来たネヒール川の大岩。
芋にチーズをかけて焼いた朝食を頂いてから、ルーとダーカスの街中を歩きだした。
かなり予定時間より早い。
一応、スタッフ側という自覚はあるからね。
角を曲がったところで、横から見たら正三角形の鉄枠付いた台車が見えた。
その正三角形の部分には
それが、しずしずとネヒールの大岩への道を進んでいた。
祭りが始まる前に輸送を済ませてしまうつもりなんだろうね。
というか、王様の加わった渡り初め式以外は、結構、成り行き任せの進行。
流れ集合、流れ解散だし。
一番混むのは、お昼ごはんのお振る舞いのときかもしれないね。
この世界にはまだ、正確な計時機器はない。
でも、太陽の位置と、気が短くて人より先に歩き出す人達と、それに釣られて歩きだす人で、ぞろぞろとなんとなく集合はできる。だから、流れ集合以外の集まり方はないんだ。
ざわざわと街の人達が集まってきたところで、スィナンさんが声を張り上げた。
「さあさあ、お立ち会いの皆様。
日夜、ぶっ通しでロープを編む声も途絶えたことから、すでに皆様が予想されていたとおりのことが起きまする。
さあ、これより、『始元の大魔導師』様が退治し、ミスリル
これがどのような意味を持つか、みなさまご自身が、よっくご存知のこと。
これよりここが、ダーカスの玄関口となりまする」
もしかして、口上を練習してきたのかな。いつになく立て板に水じゃん。
拍手が湧いたよ。
あとさ、俺、リバータの退治まではしてないからな。
で、スィナンさんの言うとおり、ここは海と、サフラとサフラを経由しないと行けないエディとリゴスに対するダーカスの玄関口だ。
王様が「ここに橋を架けろ」って言ったとき、その意味まで正確には解らなかった。でも、今なら解るよ。
ここと、この周囲にできる商人街は、ダーカスの外交と豊かさの象徴になるんだ。
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