第4話 架橋祭 1
シュッテさんから、王様に報告があったそうだ。
あと数日で、ネヒール川の大岩に、架橋のための石のアーチの2つめが架かるそうだ。
架かって補強がされると同時に、アーチを支える材になっているリバータの骨はバラされてトーゴの
木材が暴落したので、この計画も変更かな。
リバータの骨はなんだかんだ言って貴重品なので、別の目的に取っておこうって話に。
急遽予定が変更になっても、木材は川に流せばそれだけで運べるから、輸送も問題ない。
まぁ、下流側できちんと拾い上げてくれれば、だけど。
ま、それはともかく、アーチが架けられたあとは、角石がさらに隙間なく積まれて橋としての体裁を整える。当然、これで強度も増す。
石で造ってすら、補強のない状態の一重のアーチはふらふら揺らぐ。アーチを支える材を撤去する前に、きちんと考えてバランス良く補強しておかないと、石と石の間に滑りが生じて、アーチの弧が歪み、あっけなく崩壊してしまう。だから、石が滑る方向に補強石を積んで抑え込まないといけないのだ。
と、シュッテさんの受け売り。
だって、電気工事士の俺が、石のアーチ橋の作り方を知っているはずがないだろう(ちょっと逆ギレ風味)。
とはいえ、ここまでくれば、完成は見えているんだとさ。
で、この橋が架かったら、サフラ方面の陸路と海への道が開く。
今までサフラからの物資は、ダーカスの目の前まで来てからネヒール川の渡河で大変だったからね。
荷車で効率よく運んできても、最後の渡河は浅瀬を選んで、人間が担いで運んでた。荷物が運び終わると、それを積んでいた荷車も担いで渡河って、ちょっとマヌケな事態。これがなくなるから、行商人は喜んでくれるはず。
で、ルーから聞いたんだけど、行商人に嫌われると物資が入らないんだそうだ。
街の店舗を持つ商人が注文した量が街に運び込まれ、最低量が確保される。それに加えてフリーランスの行商人の物資が入ることで値段が下がる。そのフリーランスの行商人が来てくれないと、需要と供給がぴったり一致しちゃうから、値段が一切崩れなくなるんだ。
ルーに、「需要と供給がぴったり一致している方が本当は良くないか? 無駄も出ないし、儲けも確実に計算できるし……」って聞いたら、「無理無理無理」って。
そもそも最初の発注量が、経験とかに基づく不確かなものだから当てにならないと。だから、往々にして、足らなくなって暴騰を呼ぶ。1回2回であれば、それもウハウハだけど、繰り返されると、フリーランスの行商人が必要以上に増えるようになるし、そうなると街の人は店舗で買わなくなる。
暴騰を呼んで恨みを買っているから、誰も助けてくれないんだと。
こんな事例が数回起きたら、店舗を持つ商人も行商人を歓迎するようになる。
なんだかんだ言って、店舗持ちの商人の方が信頼があるから、値が高くても品物は売れる。で、値下げ前提での価格付けをするから、結局、そう損はしない。となれば、行商人が来てくれる方がリスク分散になる。
と、ルーの説明の受け売り。
だって、電気工事士の俺が、行商人の商売を知っているはずがないだろう(かなり逆ギレ風味)。
また、できあがった橋には避雷針アンテナの設置も予定しているから、この周囲の安全も確保される。魔素流に焼かれることはない。
そしたら、こことダーカスを結ぶ道を、市街地にする予定になっている。
まぁ、商業専用区域だな。
電気工事士の俺でも、第一種住居地域とかの土地の利用区分は齧る程度には知っている。一応は建築業界の端っこにいるから、ね。
少なくとも、さっきの石のアーチ橋の造り方や行商人のことよりは知っているよ。
一度、王様と、このことについても話をしたことがある。
おぼろげな知識としても程があるけど、都市計画法とか農振除外とか農地転用とか、そう言う法律の話をした。
家を建てたくても建てられない場所だな。
ま、そういう法律があるってのは知っているし、市役所で手続きするのも知っている。王様に聞かれても、残念ながらそれ以上なにも知らなかったけど。
だって、電気工事士の俺が、都市計画法とか農振法の具体的な条文を、人に説明できるほど知っているはずがないだろう(まったく理解できていないので、完全に逆ギレ風味)。
この世界、というより、ダーカスの土地利用は、王の専権事項だ。個人所有も認められているけど、実はそう多くはない。結果として、土地の利用区分がなんとなくされている状態。
王様、無意識にも商業とか工業とか住居とかエリア分けしているからね。
ただ、王様が、空き家の一軒に至るまで利用の是非を聞かれるの、もう限界だって。だから、参考になってありがたいって。
一応、持ってきた本の中に六法全書があるから、あとは王宮の専門の書記官さんの仕事だよね。
話が横道に逸れた。
ともかく、橋の完成が見えたので、完成日に架橋祭をしようってことになったんだ。
収穫祭もあるから祭りが続いちゃうけど、ケーブル打ちも順調で、ケーブルシップ本体も目処がつきつつある、と。
そうなると、なんらかの形でお祝いしたいじゃん。
で、収穫祭はこの国の伝統のお祝いだから、絶対に他のものと一緒にできない。お祝いできること自体が少なかったから、「せめてこのお祭りだけは」って残されてきたらしいんだ。
それに、王様が祀る豊穣の女神様が主役だから、それを奪っちゃいけないよね。
やだよ、俺、宗教論争に巻き込まれるのは。
って、こないだのエモーリさんとルーの冗談の思いついた元ってば、こういうことかい。
「豊穣の電気工事士様」
……語感が異常だよ。正気の沙汰とも思えない。
まあ、いい。
ともかく、架橋祭には、ゴムボートを連結したケーブルを流すイベントを同時にすると楽しいかもなんて話が出てる。
収穫祭と別のお祭りって感じが出せるし、作業を見ている人は飽きないし、ゴムボートがトーゴに着いた瞬間は、パーラさんの鏡のおかげで判るから、遠隔地で同時にイベントができるからね。
これは前例がないから、盛り上がると思うんだ。
そしたら、俺、いよいよ南のトールケの火の山に行くぞ。
避雷針アンテナを立てる位置、トーゴとダーカスの間では目処が立っているけど、海沿いを南に進んだ方はまだまだ手つかずだ。
こちらにもアンテナを立てて、それから
それからもう一つ、大きな仕事がある。
トールケの火の山に温泉を見つけないと、温泉回ができない。じゃなくて、王立の保養施設が作れない。
当然、移動しながら海岸に出て、きれいな入り江も見つけておかないと、水着回ができない。じゃなくて保養施設が作れない。
これは、『始元の大魔導師』あてじゃなく、侯爵あての仕事と王様が位置づけたからね。だから、個人としてはどっちも俺だけど、貴族としてダーカスの民への責任ある仕事をしてくれって意味だと解している。
ノブレス・オブリージュだ。
ま、銀貨は王様からたくさん貰っているし、がんばっちゃいますよ、俺。
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