第4話 密かな依頼
「ということで、『始元の大魔導師』様。
我々は、ギルドを通しての忠誠を誓っている以上、戦乱、紛争からは距離を置きます。
で、なにかできることはありますか?」
とケナンさん。
一瞬、俺、悩んだ。
ケナンさんの腹芸に対して、どう出るかを、だ。
今までの計画に、ケナンさん達はなにも仕事を割り振られてはいない。
ギルドにも、だ。
「人を集めて」って依頼も、それ以上でもそれ以下でもない。ギルドの規範は尊重しているからね。
こちらとして集めているのは、あくまで作業要員なんだよ。
でも……、不意に思った。で、それが声に出た。
「ルー、ダーカスはギルドを利用していないけど、サフラは利用しようとするかもしれない。
その場合の対抗策って、なんかできるのかな?」
って。
ギルドは安全って、完全に思い込んでいて、死角に入っていた。
でもよく考えると、これはギルドという組織にではなくて、ハヤットさんへの信頼だ。だって、ギルドのサフラ支部も同じくらい信じられるか? って聞かれたら、それは無理だもん。
ギルドが組織として自覚してにせよ、してないにせよ、敵に回る可能性は潰しておかなきゃならない。
「ではケナンさん、お願いがあります」
ルーが話しだした。
なにか、案が浮かんだんだろうな。
「サフラに、出稼ぎに行ってきて貰えませんか?」
「出稼ぎですか?」
「はい、普通に、いつものとおりにサフラのギルドに行き、良い依頼があったら受ける。それだけです。
ギルドとしても、冒険者としてもルール違反は一切なしにです」
ルーの言うことに、意味はないようにも聞こえる。
でも、ケナンさんは察したみたいだ。
「……狙いはなんでしょうか?」
質問として聞いているけど、顔は笑っている。すでに理解していて、あくまで確認のつもりなのだ。
「サフラがミスリルクラス冒険者を戦乱に利用しようとしなければ、それで終わりの話です。
ですが、もしもそういう依頼が非公式にでも来たら……」
「ルールに則って、大騒ぎをして拒絶しろということですよね?」
「はい。
なに1つ、やましいことなく行動し、ミスリルクラス冒険者として他の冒険者の規範になっていただければ、と」
「素晴らしい。
私らは餌ですか」
「申し訳ありません」
これは、思わず俺の口が出た。
「いえいえ、餌というものは、魅力がなければ相手は食いつきません。我々のパーティーはダーカス出身者がいませんからね。さぞや魅力的な餌でしょう。
餌として認めていただけたのは、ありがたいことです」
「アヤタさんも、これならば、どこに対しても気を病まなくて済むと思うのですが……」
ルーが言う。
「そこまでお気遣いいただいて、ありがとうございます。
きちんと筋を通してきますよ」
晴れ晴れとした顔で、アヤタさんも応えた。
ルー、それに対して、付け足すみたいなことを言った。
「ええ。わざわざサフラまで行くわけですから、平和的にサフラを発展させるような依頼があれば、それが一番いいのですけれどね」
「ルイーザ殿がそれを言うと、逆の意味に聞こえますね」
セリンさんがそう言って笑った。
あん?
もしかして、俺以外の人から見たルーって、もしかしてツッコミ担当で、少し意地悪だったり性悪だったりを演じているように見えるのかな?
初めて、そんな疑問が湧いたよ。
俺に対してもなんだかんだとちょっかいは出すけど、普段俺に向ける眼差しは、信頼感に満ちていると思う。だから、俺もルーの前では無防備でいられるんだけどな。
とはいえ、そんな俺から見ても、正直に言ったら『豊穣の現人の女神』は違和感がある。
『豊穣の現人の小悪魔』が正確かもしれないなあ。
ま、異世界に行ったら、天使みたいな女の子に囲まれた、の方が可怪しいもんね。存在するんなら、次はそういう世界に行きたいけれど。
……ルーも連れて行かなきゃかな?
なんか不意に、手綱を付けられているような気がしてきたのはなぜなんだろう?
話し合いの後、ケナンさん達は、そのままダーカスに戻らず、海沿いを北上していった。
「サフラに赴く依頼料は?」
って聞いたら、タダでいいって。
「移動して、移動先のギルドで仕事を受ける」なんて依頼は成立しないってさ。成立しないのに、依頼料が発生するのはありえないって。
なんで、俺、前回はネヒール川の河口から南下して探検してもらったけど、北上をお願いした。探検であれば、依頼料が発生するからね。
ハヤットさんには、ギルドを通していないから、事後承諾になっちゃうのは謝らないとだけど。ここんところ、いつもだからね。
南には、狂獣リバータと呼ばれるほどの、巨大な化け物ウツボがいた。
さて、北にはなにがいますやら。
面白いものの発見を期待しております。
ルーも、ケナンさんたちがダーカスに戻らないことに賛成した。
ケナンさん達は目立ちすぎるって。で、ダーカスは今、サフラからのスパイで溢れているから、必ず存在を報告されるって。
で、そのケナンさんたちがダーカスからサフラに来たってことになると、必ず警戒されると。
ルー、ここんところ、諸葛孔明みたいだな。
そういう才能でもあるのかよ。
− − − − − − −
ともかく、もう2日を要して、
俺としては、心ゆくまで本業(
リングスリーブも、久しぶりにたくさんカシメた。
とはいえ、戦乱が終わったら、3000個のコンデンサを繋ぐから、この30倍はカシメないとなんだけど……。
言ってて目眩がしてきた。
やっぱり、差込形電線コネクタ、なんとかならないかなぁ。
まぁ、持ってきたコンデンサも94個を繋いで、チェックもできている。これは、サフラに渡す分。さらに、ヴューユさんたちが使う分は、別の配線系統として繋いである。それぞれに安全のためのヒューズも入れた。あとは、魔素流待ち。
これは10日ほど先になる予定。
昨日、ダーカスには手紙を出してある。それを受けて、ネヒール川北岸の土塁工事に、サフラから来た人たちが移動しているはずだ。
土塁工事は、ただ単に土を方形に積み上げるだけだから、数日もあれば十分だろう。
石工さん達も、仮橋の工事を並行して行っている。架橋は実質3回目だし、渡れればいいだけの手抜き工事ってことになっているから、組み上げだしたら速いって。
ただ、土台は手を抜くと、いくらサフラの軍が補強してくれても役に立たない橋になるからって、それは頑張ってくれている。
俺は、
火薬は危険なので、運ぶのは工事の前日だ。雨なんか降っても困るからね。
とはいえ、火薬は防水加工できるから、それほど神経質になる必要もないんだけれど。
堀を掘るための火薬の仕掛け方なんて、俺には全然分らない。けど、ヴューユさんがイメージで堀の形を作ってくれるから、なにも考えずに量だけ突っ込んでいけばいいんだ。
これこそ、チートってもんだと思うよ。
チートって、人が使うのは嫌だけど、自分が使うのならば快感だよねぇ。楽にもほどがあるよ。
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