第14話 夜の王宮にて
その夜、密かに王様から呼び出しが掛かった。
ルーの言語教室から、大っぴらに逃げられて嬉しい。
母親さんからはああ言って貰えたけど、サボるのはそれはそれで良心がちょっと痛むからだ。
確かに、この世界の言葉を直接話せた方がいいのは、俺にも判っているからね。
ケナンさんと、アヤタさん、実は、大量のお土産を持ち帰ってきていた。
1つ目。リゴスとサフラの王様、ダーカスの王様の提案を了とするそうだ。
2つ目。ケナンさん達、ミスリル
認定証は、公式に書類が作られたら送られてくるそうだ。これについては、単純にめでたい。
3つ目。ケナンさんと、アヤタさん、荷物を背負った大人数を引き連れて帰ってきている。
で、10人がかりで担いできたのは、サフラの王からの贈り物だという、ゴーチの木の樹液。これだけあれば、相当の量のゴム加工ができる。
ボートを6隻という予定数を作って、なお余る量だ。
でも、もうサフラのゴーチの木からは、今シーズン、樹液はもう採れないって話じゃなかったっけ……。
王様の話って、それ絡みかな?
夜の王宮に、ヤヒウの脂のロウソクが燃えている。
タペストリーの文様が、ロウソクの炎が揺れるたびに刻々と変化していくように見えた。
この世界には、俺が持ち込んだミツバチ以外の昆虫はいない。だから、夏の夜でも、窓は全開でいられるのは素晴らしい。
呼ばれたのは、今やダーカスの重工業王ともいうべきエモーリさんと、同じく化学工業王のスィナンさん、ギルドのハヤットさんに筆頭魔術師のヴューユさんと俺。
で、俺はルーとセット。さらに、王様が王宮から出る時にいつも一緒にいる護衛のごつい人がいて、王様と大臣を加えて、この部屋にいるのは9人。
会議は、
「スィナン。
今回持ち込まれた、ゴーチの木の樹液、質はどうだ?」
「良質です。
今シーズンで、どこにこれほどのものが残っていたかと」
「リゴス産のものと観るか?」
「いえ、色と粘りからして、サフラ産のものかと」
「サフラの王、ゴーチの木の枯死を選んでも、この贈り物としたか……」
大臣の顔色が変わった。
「それの意味するところは……、我が王よ……」
「そうだ、おそらく間違いない」
えっ、どーいうこと?
「おそらくは、サフラの王、早ければこの冬前、遅くとも来春までには、ダーカスに攻め入るつもりであろう。
来年のゴーチの木の樹液の収穫期前に、だ」
ちょ、待てよ。
「サフラにとって、国庫を支える収入のうち、ゴーチの木の樹液が占める割合がそう多いとも思えぬ。
だが、ダーカスとの付き合いの中で、相当の成長株であることは論を俟たない。
ゴーチの木が絶滅するとも思わぬが、それでも数年以上の十分な再生産は叶うまい。それを犠牲にしきれる以上、ダーカスはすでに亡きものとして次の
……間抜けめ!
この量の10分の1であれば、余も疑わなかったものを!
多ければ手放しに喜んで、警戒を忘れると思ったか!?
舐められたものよ」
王様が吐き捨てる。
王様、そのまま言葉を続けた。
「ヴューユ、次のトーゴの
「問題ありませぬ。
今ですら彼我の持つ、魔素の量はあまりに桁違い。
勝負になりませぬ」
「『始元の大魔導師』殿。
コンデンサの作られた数と、その使用について、数の齟齬はありやなしや?」
「判りません。
最初期は、ギルドで大車輪で作り、できるそばから
「『始元の大魔導師』殿、
……要は盗電ってことだよな。
「リゴスを含め、
最悪、火事になるでしょう。
ただ……」
俺、最悪の想像をしていた。
「トーゴの
となると、あそこにいる20人の見習い石工の中に、犯人がいます」
……盗電ってのはさ、下流で盗むほど安全なんだ。
家庭用電源だって、家の隣の電柱までは6600ボルトで来ている。「これから盗電するのでケーブルを結びますから、電源落としてください」なんて言えないし、通電中に素人工事で結線しようとしたら、確実に死ぬ。二種の免許しか持っていない俺には、電気工事士といえど触れない世界なんだ。
ちなみに、電気が流れているままの電線を、活線って言うんだぜぃ。
ま、盗電ってのは、隣のうちのコンセントからってのが一番安全なんだ。
ま、ケーブルドラム持って忍び込むとか、バカみたいだからやるもんじゃないけどね。過去の例だと、線が繋がっているもんだから、言い逃れもできずにそのまま逮捕って事例もあるんだ。
そう考えれば、
コンデンサ自体は構造も単純だし、真似て作ることはできるだろう。ただし、完成後の絶縁検査はなしだ。
また、コンデンサは形にしても、
ダーカスの、
おそらくは、「無駄ななにかがついている」としか思わないはずなんだ。
でも、それを省略する勇気がなければ、その下流にコンデンサを繋ぐはずだし、それがダーカスの
しかも、配線材含めて、新造の現場ならば、山積みのパーツをちょろまかすのはそう苦労ではないと考えているかもしれない。
相手は、相当に手慣れている。
そんなことを、俺、訥々と話した。
「ハヤット、石工見習いの20人、身元の確認は?」
「通常のギルド登録の確認はしています。
ただ、王よ、それに意味はありません。
もしも『始元の大魔導師』様の見込みが正しいとすれば、ギルド登録のときの身分保障はサフラ王に連なる者が行ったはず。
怪しい者として警戒するべき点は、すべてクリアされた上で登録されているはずと考えます」
王様、腕組みをして唸った。
「『始元の大魔導師』殿の見込みが正しいとしたら、サフラに対抗するためにトーゴの
エモーリさんが答える。
「はい。
ただ、ネヒール川に橋がかかり、その橋をかけるために使った部材がトーゴに運ばれない限り、トーゴの
時間はまだあります。
その間に、つけ込むことはできるでしょう」
でも、王様、首を横に振った。
「いや、それは希望的観測がすぎるな。
サフラが攻め入る目的が嫌がらせであれば、充填されたコンデンサの入手ができない場合、トーゴの
ただ、戦争の目的が占領であれば、破壊まではしないだろう。豊かさを盗めないからな……」
うーん、こういう嫌がらせ含めて、政治について考えるのは、王様が1番徹底しているよ。
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