第11話 発破
とりあえず、ルーの、この世界の言葉の読み書き教室からは逃げ出している。
そりゃ、もう必死。
だってさ、ルーがいそいそと棍棒の準備をしだしたので、「ネヒールの大岩の発破処理が終わるまでは、寝不足とかは、致命的な失敗につながるので堪忍して欲しい」って逃げた。
だいたい、デミウスさんの棍棒での体罰調教が嫌だって言ってるのに、なんでその棍棒用意しだすのか……。
解らん。ルーの考えは解らん。
単に、俺に絡みたいだけなら、その「教育的指導」以外にも方法はあるだろうに。
ひょっとして、ルー、ツッコミ特化が過ぎていて、他の方法を知らないのかな? 出ちゃった反応ならともかく、意識してはどうすればいいか判らないとか……。
違うだろうなぁ。
って、近頃、自覚してはいるんだけどね、俺。人付き合いが上手じゃないんだよ。本当に自覚している。
ただ、ルーが人付き合いが下手とは考えられないので、やっぱり……。
「棍棒が最も効果を発揮するのは、威嚇においてのみです!」ってことかな?
くわばら、くわばら。
ともかく、発破のための配線は、間違えたらそのまま死ぬのは解っているので、線材に色を塗って絶対に間違えないようにした。
あくまでミスの防止の為で、それ以上の意味はない。
だって、電熱線の使用にプラスマイナスの極性はないからね。
で、リバータの骨の足場から、命綱も張れるだけ張って配線を済ませた。
ヴューユさんともう1人の魔術師さんも来てくれて、『力場の防壁魔法』の準備をしてくれた。やっぱり正確に位置がわからないと防壁もイメージできないからって、足場まで来てくれたけど、やっぱり高いところは相当に怖いらしい。
ま、そらそうだ。
日常的に現場にいるのと違うからね、この人達は。
石工さん達にしても俺にしても、2階建ての屋根くらいの高さならば日常のうちなんだけどね。
で、ヴューユさんが難しい顔をぴくぴくさせて、足場から川原の水面を見下ろしているので、リラックスさせてあげようかなーって思って、ちょっと悩む。
さすがに、後ろから「わっ!」って声を掛けたら殺されるだろうな。
かといって、「怖くない。……おびえていただけなんだよね」って慰めるのも、なんの役にも立たないだろう。
基本、自覚と慣れのもんだからね。
ただ、あまりの緊張で、『力場の防壁魔法』の設定位置がズレることだけは堪忍して欲しいから、リラックスはして欲しい。
俺からすれば、魔素流を
まぁ、そんなもんなのかもしれないね、人の恐怖感なんて。
きっと、死んで幽霊になったら、お仲間の幽霊は怖くないよ。怖い対象は、今、自分がいる場所で変わるんだ。
火薬の扱いだって、花火師の人は、用心はしていても俺ほど怖がっていないだろーさ。
ともかく、ヴューユさんからオッケーがでた。
設計図と現場の大岩が、きちんと重ね合わせてイメージできたと。
てっぺんはエモーリさんの考えたエレベータを支える部分と、シュッテさんの設計した橋としての通路。エレベータを支える部分のさらに上には、避雷針アンテナ。
川の流れの上流側は、エモーリさんの設計の水車の浮遊固定設置。
両川岸に面した側2面はアーチ橋の土台。
下流側側面はエレベータの昇降路。下流側の下側は、ケーブルシップのプラットフォームに繋がる。
なお、手で今まで彫り込んだ階段は非常用通路として、きっちり残す。
結構、複雑な形状なんだよ。
どれほどの爆発でも、この形は、力場で守られて崩れない。
すべての準備が完了。
使者が王宮に向かって走る。
発破は、王様にも見てもらう予定だからだ。
これは、先日、ヴューユさんの屋敷で話した、王権(政治)と魔術師の権利(魔法)と『始元の大魔導師』の権利(科学)を分立させるための、基本の共通体験だからね。
じゃ、いっちょ、やりますか。
黒色火薬の円筒を束で持つのは怖いので、数本ずつ仕掛けていく。
いつもは腰に工具をぶら下げているんだけど、今回はすべて外した。
川の流れに落としたら回収不能だし、鉄の工具が打ち合って火花を散らしたら死ぬかも知れないし。
ただ、そのかわりに、ヤヒウの脂を詰め込んだ壷を腰から下げた。
筒状の穴に火薬を差し込んだら、脂で穴の入り口を塞いで、火薬が川の水飛沫を吸い込まないようにしたんだ。
きっと、こういう火薬の扱いには資格が必要なんだろうけど、この世界に来てからはもう、ホントに仕方ないよ。
ただ、どんな資格でも、危険回避の考え方は一緒だ。
そういう意味では、とんでもなく無謀なことは、しなくて済んでいるんじゃないかな?
ま、希望的観測だけど。
1時間もしないうちに、すべての仕掛けが完了した。
王様とお供の小さな行列も見えてきた。
持ってきてあるコンデンサを直列、並列に幾つか繋いで、待機。大岩からの配線をこいつに繋げたら、点火になる。
電熱線は、金を細く細くしたもので、発熱と点火は実験済みだ。
本当は、爆発のタイミングとかを図るとより効果的なのは解っているけど、手動スイッチでは無理。きっと、アメリカあたりのビルの解体みたいなことはできない。
でもね、俺達には魔法があるから。
王様、到着。
実は、王様に今日の詳細は話していない。
びっくりさせようっていう計画。
王様を特等席に座らせて、そのすぐ後ろには護衛の人。
俺達は全員、さらにその後ろに控える。
ヴューユさんともう一人の魔術師さんが、魔素を得る目的のコンデンサからのケーブルを握って、呪文の詠唱を始めた。
ヴューユさんの担当は、大岩の発破の効果を制御するための『力場の防壁魔法』。
これで、エレベータの設置立坑から、橋を架けるための足場までを一気に完成させる。
もう一人の魔術師さんの担当は、その際の岩の破片から俺達を守るための防御スクリーンとしての『力場の防壁魔法』。
たぶん、本当に発破の工事をしている人達からしたら、チートにも程があるだろうねぇ。
俺だって、火薬の分量とか威力、無制限に上げるつもりでやっているからね。きっと、プロが見たら、「元の大岩ごと吹き飛んじまうぞ」って量かもしれないけど、足らないよりはいいって簡単に考えられるのも、『力場の防壁魔法』のお陰。
ふと、横を見たら、ルーがぎゅっと目をつぶって、握りこぶしを作っている。
……そか、ルーってば、相当の怖がりだった。
「復讐するは我にあり」、か……。
今こそ、その
魔術師さんたちの、呪文詠唱は続いている。
「ルー、ルー、ちょっと、大変だ(大嘘)」
「えっ、どうしたんです? 大丈夫ですか?」
「ちょっと、見てみて!」
詠唱完了、ヴューユさんが俺に手を差し伸べる。
俺、コンデンサに配線を繋ぐ。
一瞬の間を置いて、大爆発が起きた。
衝撃波の白い筋が駆け寄ってくるのを視認するのと、轟音に耳をひっぱたかれるのが同時。
さらに次の瞬間、岩の破片が「ピキューン」みたいな、甲高い音を立てて周囲を飛び回った。
これって、音速を超えているかも。
きっと、防御スクリーンとしての『力場の防壁魔法』がなかったら、地べたに叩きつけられるとか、鼓膜が破れているとか、岩の破片に身体を撃ち抜かれているとか、酷いことになっていたと思う。
てか、こんなに危ないって知っていたら、『力場の防壁魔法』のあるなしに関わらず、もう少し距離をとっていた。
我ながら、なんてアマチュア感あふれる反省なんだ。
ルー、目の玉が落っこちちゃいそうな顔している。
……漏らしてなきゃいいけど。
ちょっと、やりすぎたかなぁ。
そんな反省をしながら前を見たら、最前列の王様がぐらって
あ、失神したかな!?
肝心の大岩は、白い煙に包まれて、全く見えない。
こんなに煙が出るもんかな、黒色火薬。
うーん、思い出してみたら、花火ってもくもく煙がでていたっけねぇ。
すぅ、って風が吹いた。
そこには、見事に人工的に造形がされた大岩がそびえ立っていた。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
黒色火薬って、煙がもうもうと立ち上るんですよね。
こんな感じって、Twitterにのせました。
https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1284651014222524416
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