第12話 ネヒール川航路の確認
その後、まずは、王様へのフォローが大変だった。
ヴューユさんと平謝りに謝って、俺達もここまでの威力があるもんだとは知らなかったってのは信じてもらえたけど、「子どもじゃないんだから……」って、高い声で言われたのには、ヴューユさん、地味にダメージ受けてた。
俺?
ほら、俺は、もともと
ただ、政治の三権分立に継ぐ、王権(政治)と魔術師の権利(魔法)と『始元の大魔導師』の権利(科学)の分立構想にはブレーキを掛けられた。
火薬の威力がそこまであって、そこまでの危険性があるのであれば、軍というものも考慮に入れろって。
貧弱なダーカスの軍事力を基準に考えていると、足をすくわれるぞって。
確かに、そんなこと、考えもしなかった。
ダーカスでは、職業軍人としてきちんと戦えるのは10人くらいで、あとは警察も兼ねたような30人と、魔法によるカバーで国を守る体制を作っている。
でも、リゴスには2000人規模の軍があるし、サフラですら600人規模の軍を持っている。非常時には、総動員でその3倍は想定する必要があると。
だから、ヴューユさんと俺の、実行力を相克させるという案自体はいいけど、その考えをきちんと大陸で通用させるためには、軍を王権のうちと無邪気に設定するな、だって。
予算という王の行政権で軍を掌握しているけど、その気になれば、軍も王権の剥奪ができるんだぞって。
これには、ヴューユさん共々、ぐうの音も出ないほどやっつけられた気がした。
ヴューユさんですら、「統治」に関しては素人なんだ。
いやぁ、参りました。
ただ、王様、このあたりの指摘をしたあと、実行力の相克のシステムについては考えてくれると。王宮の政治関係の宿老にも意見を聞いて、きちんとした形にしてくれるって。
次に大変だったのは、ルー。
「『始元の大魔導師』様。
ルーには、説明を求める権利があります。『ルー、ルー、ちょっと、大変だ』と、あのときに仰っしゃられたことの意味を教えて下さい」
「えっと、あー、そうだ、ほら、爆発を見られないと、きっとあとでがっかりするからさ……」
ルー、右手の指がさわさわーっと尺取虫みたいに動いて、ヤヒウの革を巻いた棍棒の柄を掴む。
細い指と小さな手で、その棍棒は重いだろ。止めといた方がいいよ。
なんで、こんな武器が用意されているときにしでかしたかな、俺。
走って逃げようかと思って、ストップの魔法、いや「ハールト」の魔法だっけ、掛けられたらもっと酷いことになるのは判る。
「さあ、『始元の大魔導師』様。
納得できるご説明を!」
「……ルー、君は、魔術師と王を結ぶ者にして、『始元の大魔導師』の代理でもある。
そして、『始元の大魔導師』の本質は魔法ではなく、科学である。
その科学の奇跡を見ずにして、なにが代理か!? 目を背けて、なんの覚悟か!?」
「……ナルタキ殿、今、思いつきましたね、ソレ?」
「……はい」
ルー、ため息をついた。
ルー、ぽつぽつと話す。
「申し訳ありません。
たしかに仰るとおりです。
たまたま今、思いついた答えだとしても、それは正しいです」
「……」
俺も馬鹿じゃないからね。無言で返す。
ここで「そうだ、そうだ」なんて言ったら、より酷い目にあわされるのはさすがに学習したからね。しかも、棍棒とか持っているし。
「『始元の大魔導師』様、申し訳ありませんでした。
ルーが不覚悟でした。
お詫びいたします。
つきましては……」
ぎく、ぎくぎく。
なにを言い出す、ルー?
「『始元の大魔導師』様のお覚悟も、そろそろ見せていただきたいと存じます。
岩の爆破も終わった今、今夜から、こちらの世界の言葉、学んでいただきましょう。
不肖ながらこのルー、微力を尽くさせていただく所存!」
ぶんっ、ぶんっ! って棍棒が振り回される。
ルー、君ってば、結構、力持ちなんだね。
ああ、目つきがマジだ。
これはもう、逃げられない。
この世界で家出ってできるかな。
だれか、ルーから俺を匿ってくれる人……。ああっ、誰もいないっ!
− − − − − − − −
ぎっちり締め上げられた翌日、げっそりした顔つきのまま、王様に呼び出された。
ネヒール川の大岩の発破も終わったので、具体的なネヒール川航路の確認をしておこうって。
打ち合わせの席には、オブザーバーとしてエモーリさんとスィナンさんもいる。
スィナンさんのところは、新たなゴーチの木の樹液が届くまで開店休業なんだけど、すでにゴーチの木の樹液で作った、6人乗りの小型のゴムボートの試作品が一つある。
これと、俺が自分の世界から持ち込んだ、見本の4人乗りのゴムボートの合わせて2艘があれば、とりあえずの確認はできるんじゃないかってこと。もっとも、この2艘のゴムボートは帆柱なんかないから、帰りに川を遡ることはできない。
だから、荷物として台車を積んでいって、帰りに空気を抜いたボートを積んで歩いて帰るってことになった。
あとはデミウスさんに渡し足す教材とか、開墾組と
これは、王様の配慮で、ミツバチの巣箱から、アルファルファの花の蜜を1回だけ収穫してみようって話になったんだ。で、ミライさんがおっかなびっくりで取り出したんだけど、いい時期の決断だったらしい。
心配していたのが肩透かしだってくらい、巣箱の中は蜜で溢れていたそうだ。で、金の壷3つに溢れんばかりに収穫できたので、そのうちの2つをトーゴに運べって。
残りの一つは、ダーカスに残っているシュッテさん達石工でって。
ただし……、これには条件があった。
「スプーンに、山盛り一杯分だけでいいから、余に舐めさせろ」
だってさ、王様。
全会一致で、その条件には同意。
で、誰が行くか?
って人選の話になって、いざという時の治癒もあるから魔術師から1名、ケーブルシップの駅の候補地も決めたいので、ダーカスの領土の地理をそこそこ解かっている書記官1名、帰り道のボート運搬ができる力のある人が4名、トーゴに戻る連絡役の1名の便乗ってとこまではさくさく決まった。
ケナンさんの探検も、陸からの観察だから、川側から見てボートを着けやすい位置って視点はないからね。
本当は、ケナンさんのパーティーの誰かが戻ってきてくれていればいいんだけど、まだ1人も戻ってきていない。とはいえ、あと10日ぐらいの間には全員揃うだろうけれど。
これで計7名だから、あと無理すれば3人は乗れる。2艘で10人と考えればね。
で、俺とルーって話が急浮上した。
なんだ、そのセット扱いは!?。
ただ、ルーが棍棒を構えている前で勉強しなくて済むなら、俺は大歓迎だ。
考えてみたら、俺、この世界での初めての旅行だよ。今までダーカスを離れたことはなかったからね。
たぶん、それをみんな知っているから、心遣いしてくれたんだと思う。
ここで、エモーリさんからの発言。
「ケーブルシップにしても、実際に設置をするとなったら、ネヒールの大岩との即時連携が必要です。ケーブルを制御している場所で、トーゴの船着き場の位置が判らないと、船の止めようがありません」
あ、そんな問題もあるんだ。
「現在、水車の浮遊固定設置の回転軸に、クラッチをつけるからくりを作っています。ケーブルは往復するものですから、水車の回転を伝える過程で、逆回転させる機能が必要なのです。
また、これがあると、船着き場でケーブルを停止させることもできます。
エレベータもしかりです。上りと下り、そして停止ですから、エレベータを吊るケーブルを巻き上げたり巻き戻したり、動力から切り離す必要もあるのです」
なるほど。
「エレベータは見ながらの制御でも問題ありませんが、ケーブルシップの方は、とても見られる距離ではありません。少なくとも、最初の1回はしっかり位置決めをして、ケーブルに印をつけておかないと、目も当てられません。
で、そのためにはネヒールの大岩とトーゴの間に、タイムラグのない連絡が必要です。
そのために……」
なんだよ、電話を引けってか?
電話はともかく、電球点けるくらいの工事ならすぐにもできるけど、この距離の電線はないぞ。
エモーリさん、話し続ける。
「金職人の、パーラを覚えておられるでしょうか。
『始元の大魔導師』様がこちらに来られてすぐ、金の鏡による調理器具やライターについて、教示していただきました。
その精密な鏡を磨く職人です」
ああ、いましたね。思い出しました。
エモーリさんの友達だって言ってたよね。
「彼に大きな鏡を磨いてもらい、トーゴからネヒールの大岩まで太陽の光を反射させて連絡を取り合いましょう。
伝える内容は、上り、下り、ストップの3種類しかありませんから、問題はないでしょう。
なので、残り一人の枠、パーラではいかがでしょうか?
下見をして貰った方がいいでしょうから」
全会一致で賛成。
考えてみたら、電話なんて概念、そもそもないんだから、それを引けなんて言われるはずもなかったよ。
出発は3日後と決定した。
食料とか含めて、いろいろ準備しとかなきゃ。
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