第22話 収穫祭が終わって


 前回の豊穣の女神像のモデルです。エフェソスのアルテミスです。

 神殿は世界の七不思議の1つだったんですよ。

 昔、ここで大理石の欠片を拾ったことがあります。きっと、神殿の一部だったんでしょうね。

 よろしかったらどうぞ。


https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1294285373065945089


 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 王様と、この街のいわゆる重鎮の考えって、祭りの終わったあとから聞こえてきた。

 俺にも、「ご注進」をしてくれる人が、数人はできてきているんだよ。

 どうやら、会食しながらの話題に最適だったらしい。

 酒の肴の話題でなくてよかったよ。



 − − − − − − −


 「『始元の大魔導師』様は、どうも、ルーに手を出せないでいるらしい」

 「両人ともやぶさかではないようだが、意気地がないと言うより、切っ掛けがないのであろうな」

 「ただ、このままずるずる行くと、あっという間に半年が経ち、『始元の大魔導師』様は自分の世界に帰られるという話になってしまう」

 「とはいえ、あの2人、すでに長年連れ添った夫婦のようでもある。

 余は先日、ルイーザに褒美を与える約束もしてしまった。さて、どうするべきか……」

 「我ぁが娘ながら不甲斐ぬぁい。その想いを遂げるためならぁば、いっそ押し倒してしまえぶぁ良いのだ。父たる私がぁ、それを認めると言っているのに、ぬぁにを躊躇うのだ」

 (……そのせいじゃないのか?)

 (……そのせいであろうな)

 (……そのせいだと思うが?)

 (……絶対、そのせいだ!)


 「いっそ、ですが、逆に手を打ってみませんか?」

 「逆とは?」

 「いつでも手を出せるからこそ、切っ掛けがない。

 奇しくも王が申されたとおり、『長年連れ添った夫婦』になってしまっているのでしょう。

 恋とは障害物があって初めて自覚し、燃え上がるものです。

 いっそ、ルイーザ殿を今年の『豊穣の現人の女神』にしてしまえば、これ以上の障害はない。

 しかもです。

 『始元の大魔導師』様が、自分の世界に帰られるのは半年先。

 ルイーザに手を出せなくなる期間は、これより1年。

 諦めて帰るか、それとももう半年こちらにいるかという判断を、『始元の大魔導師』様に突きつけられるのですよ。おそらくは、『諦めて帰る』という判断はしませんな」


 「そして、半年経ったら……」

 「ご明察のとおり。

 半年延ばせれば、あとはもう、ぐだぐだにしてしまえばよろしい。もう半年、もう半年と、なにかと口実を付けて延ばしていけば、帰るという選択はいつの間にかなくなるでしょう」

 「おお、それはよい案。

 押して通じぬなら引いてみよ、という古来からの教えにもかなっている」

 「御意。

 逃げるものを追うのが男の性。

 その辺り、ルイーザ殿もよろしくない。

 『手練手管も恋の内』ということを、まったく解かっておられぬ」

 「我ぁが娘に、なんの不足があるぉうぞ?

 そのような『手練手管』なぁど、必要ないわ!」

 (……アンタのせいだ)

 (……お前のせいであろうな)

 (……アンタのせいだ)

 (……間違いなく、アンタのせいだ!)


 「では、先走るようですが、1年経つ前に子を為してしまったりしたら、どうされますかな?」

 「『始元の大魔導師』殿のお子を収穫したのだ。なんの問題もない」

 「街の者も、納得するでありましょうや?」

 「私がぁ、校長として、街の者にぃ説明しようぞぅ」

 (……それだけは止めろ)

 (……それだけは止めろ)

 (……それだけは止めろ) 

 (……それだけは止めろ!)



 − − − − − − −


 俺、1年したら、きちんとするって言ったじゃねーか。

 なに、先走ってんだよ。

 まぁ、みんなが、気が短いのは知っていたけど。

 綺麗で賢くて颯爽としていて気まぐれな猫なんだからさ、手を出すのが怖いけど、俺なりに勇気をだんだん貯めているんだからさ、余計なことをするなよ。

 それに、もう半年したら、俺……。

 はぁぁぁ。



 王宮から、書記さんが俺のところに来た。リゾートの支配人になる予定の人だ。もう相当の年配らしくて、真っ白の髪で、鶴のように痩せている。この世界に来て、初めてだよ。俺が、貧弱って言われなくて済みそうな人に会うのは。

 で、俺のリゾートのイメージを聞いて、なんか、具体的に考えたいことがあるみたい。

 コンデンサ工房の面々と一緒に、トールケに下見に行くってさ。

 お歳を心配したけど、足は丈夫だって返されてしまいました。

 ま、俺としてはとても助かる。

 そろそろ俺も、トーゴに行かないとだからね。円形施設キクラの仕上げ工事だ。


 コンデンサは毎日作っていてもらったから、かなりの在庫がある。

 ケーブルも、だ。

 もちろん、リングスリーブも。

 畜魔素機も1つ持っていこう。

 それをトーゴまで運ぶのも、今は船便があるから楽。

 久しぶりに本業だな。



 なんて思っていたら……。

 俺の屋敷に来客。

 それも16人。多いぞ。

 顔を見れば、露天風呂を作ってくれた面々じゃねーか。あと、そのときにはいなかった女性が2人、加わっている。


 「『始元の大魔導師』様。

 お願いがありまして、罷り越しました」

 「なんでしょうか?」

 俺の腰、引き気味。

 だって、怖いじゃん。

 今回は間に合った。ルーの後ろ襟首摑まえるの。

 「メンドクサっ!」って思ったろ、今。


 「我ら、『始元の大魔導師』様を筆頭として、パーティーを組みたいと。

 ぜひとも、お聞き届けを」

 16人って、ドラ○エの最高パーティー人数、超えてるじゃん。むしろ、男○だよ。それなら、俺、塾長がいいな。


 「急な話で、よく解らないんだけど、どういうことかな?」

 「我々、『始元の大魔導師』様に惚れ申した。

 あのような、民全てに恩恵を与えるなど、他の方にはできようはずもござらぬ。

 我々、各国のギルドを流離さすらうは、より大きな仕事をし、民を救わんがため。

 是非にもお願いしたい」

 あー、自分探しとかで冒険しているタイプ?

 男○でも完全に中二病風味だわ、これ。女性が2人、混じってはいるけれど。


 「でかい夢を持ち、それに殉じたいと言うんだな?」

 「応っ!」

 「そのためには、どのような艱難辛苦も耐えると言うんだな?」

 「応っ!」

 「では、水が冷たくなる前に、2週間で全員、泳げるようになれ!」

 「ちょっと、それは……」

 おい、コントじゃねーんだぞ。なんでそこで日和る?


 「全員が泳げるようにならなければ、この話はなしだ。

 石材は撤去されたけど、この間の風呂の跡地は残っている。

 川だと流されるから、そこで頑張れ」

 「せめて、理由をお聞かせください。

 我々、泳いだことなど今までありませんでしたし、これからも必要とは思えません」

 「ダーカスはこれより船を持ち、最初は沿岸の航行になるにせよ、そう遠くないうちに外洋にも乗り出すことになるだろう。

 知っている国と交易し、さらなる豊かさをダーカスにもたらす。大陸を巻く、その航路の確立は、これ以上ないほどの冒険となろう。

 航路を作りし後は、未知なる世界を求めて外海に乗りだすのだ。新たなる大地の発見、未知の世界だ。

 おまえたちがそこから背を向けるのであれば、俺はお前たちを必要としない」


 ざあっ、って音がした。

 全員がいっせいに片膝を付いたのだ。

 「『始元の大魔導師』様。

 我々、どこまでも『始元の大魔導師』様に付いて行く所存にて、全員泳ぎを覚えて見せましょうぞ」

 なんか、調子いいな、おまえら。

 今ひとつ信用ならねぇ。

 中二病風味が美味しければ、なんでもするってことじゃねぇだろうな?


 まぁ、いいや。

 ガチだろうが、中二病だろうが、ネズミを捕るネコがいいネコなんだよ。

 「泳げるようになった奴から、王宮の図書館に入って良い。

 王には了解を得ておく。

 航海術、潮汐、気象、海産物等、得られるだけの知はすべて得ておけ。

 海の知識は全員で、それ以外の知識も、手分けして1人1分野は得ておくように。

 自然の中で人間はか弱い。

 だが、知があれば生き延びられる。儲けにも繋がる。

 海を、葬られることのない墓場にするか、宝の海とするかはお前達次第だ。

 漁師の候補もすでにいる。海を渡るも、その謎を突き詰めて収獲を得るも、まずは知識だ。

 いいな?」

 「応っ!」


 俺、ルーに向き直る。

 「ルー、王様に報告を。

 多少不安は残るけど、海に関わる人材は確保できたと。

 つきましては、王宮図書館をお借りしたし、と」

 小声だけど、俺にははっきり聞こえた。

 「めんどくさー」

 ちょ、おま、声に出して言うんじゃねぇよ。


 あとは船だな。

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