第2話 面接


 「ハヤットさん、なんでその人が先生に選抜されなかったのか、ラーレさんから聞いてます?」

 一応、聞いてみる。

 あんまり人の事情に、首ぃ突っ込みたくはないけどね。

 

 「独りで動くことにこだわっているみたいですね。

 パーティーを組むこともなく、常に独りですべてをやろうって人みたいです。

 ある程度は魔法も使うみたいですよ」

 「子どもの面倒を見るのは、苦手なんでしょうかね……」

 「授業はするでしょうね。

 子ども達が遊んでいて、全く話を聞いていなくても。

 ただ、ラーレが言うには、人と話をするのが苦手みたいだって。

 そして、教えるんじゃなくて、調教ならば上手だろうって」

 うーん、それは確かに難ありかも。


 「ただですね、今話している教育対象は、6歳の子どもじゃないでしょう?

 そのあたり、なんとかなるのかどうか?

 あと、依頼に対する完遂率はどのくらいなんですか?」

 まぁ、割り算をして出す「率」は出せていないだろうけど、幾つの依頼を受けて、幾つ失敗したかは、ギルドの記録に残っているはず。


 「完璧です。

 次にうちからシルバークラスに推挙するとしたら、彼でしょうね。

 できぬかもしれない依頼にはトライしないのかもしれませんが、ケナンたちですら完遂できなかった依頼が2つはあるんですよ」

 そうハヤットさんが教えてくれた。

 「それはすごいですね。その人、ここにまだいますか?」

 「いますよ。

 他の仕事も、ダーカスの景気ならたくさんありますからね。

 会ってみますか?」

 「はい、話してみたいかも……」

 「では、少々お待ちを」



 ハヤットさんが席を外して、待っている俺とルーに、ラーレさんがチテのお茶を入れてくれた。

 なんか、ちょっと気まずい。

 むしろ、ルーの方が屈託なく話しかけている。

 「これ、磨いたら、きれいなブローチになると思うんですけど、要りません?」

 「なんでしょうか、これ?」

 「海岸で拾ってきた、狂獣リバータの歯です。もう二度と手に入りませんし、骨ならともかく歯はかなりの『レア・アイテム』とは言えますよ」

 「そうなんですか。

 それは嬉しいです。

 貰っちゃいますよ、遠慮せずに」

 「どうぞー。

 冬になったら、外套マントを留めるのに綺麗だと思います」

 「嬉しいです」

 ルー、いつの間にか、そんなん確保していたんだ。



 そのあたりで、ハヤットさんが、やっぱりガタイのいい男の人を連れてきた。

 目付きが鋭い。

 こういうマッチョな人が並んでいるのを見ると、「キレてるよ!」とか「板チョコモナカ!」とかって言うんだよなって、帰った時にネットで得た不要な知識が頭ん中を横切る。

 さすがに実行すると、ますます変な人扱いになるので、口をつぐんで我慢する。


 「デミウスさんです」

 ハヤットさんが紹介してくれる。

 それに被せるようにして……。

 「用件を聞こうか」

 って。


 マジか?

 そういう人なのか、この人。

 このセリフだけで舞い上がっちゃうぞ、俺。

 じゃ、俺もそういうふうに話してみようか。


 「140人の無筆の男達に、住み込みで読み書きと計算の初歩を完璧に教えてもらいたい。このうちの20人ほどは、読み書きはできるらしいが、その実力は判らない。

 期間は60日間で夜のみ、報酬は銀貨60枚で、明日、現金で用意できる」

 「衣食住の保証はあるのか?」

 「衣食は保証できる。

 だが、住だけは、テント暮らしになるだろう。

 たぶん、2ヶ月では家は建たない」

 「方法は問うのか?」

 「任せる。

 ただし、テキストは用意する」

 「では、テキストは各20部、報酬は銀貨80枚でお願いしたい。

 増加分は、必要経費だ」

 「了解した。用意しよう」

 「分かった……。やってみよう……」


 うーん、ちょっと嬉しい。

 口調が同じなだけの別人なのは、さすがに分かっているけれど。

 欲を言えば、も少し眉毛が太いほうがいいし。


 で、報酬も、これが適切なのかも判らないまま、ノリで提示しちゃった。

 ギルドの取り分、どうしたらいいのかな?

 ま、最悪自腹になっても、侯爵様のポケットマネーの範囲ではあるんだけどね。まして、ルーの親父さんが校長先生になって、その報酬から家賃も貰っているから(俺は辞退したんだけど、に負けたんだ)、財布の中身に余裕はある。


 ハヤットさんはまだしも、ラーレさんは驚愕の表情を浮かべている。

 おそらく、その驚愕の対象は俺だ。

 きっと、「博打にもほどがある」って思っているに違いない。


 「デミウス、できるのか?」

 たぶん、ラーレさんの表情を見て、その意を汲んだハヤットさんが確認する。

 「ギルド長殿から、会う相手が『始元の大魔導師』殿と聞いてはいたが、さすがは英雄の資質を持つ方だけあって話が早い。

 詮索もせず信頼してくれた依頼人を、俺は決して裏切ることはない」

 うわー、ますます、言うことが同じじゃんか。


 「ルー、学校で準備しているテキストを20部、デミウスさんに渡しておいて。

 まだできていない分は、でき次第トーゴに送るということで」

 「分かりました。『始元の大魔導師』様。

 写しが必要になるので、明日には無理ですが、出発日までには渡せるように手配します。また、1部だけは先行してデミウス氏に渡しておきます。

 ついては、後学のために教えて下さい。

 『始元の大魔導師』様が、教師をデミウス氏に決定された根拠は、なんだったのでしょうか?」

 

 えっと、「ゴ○ゴ○3に似ていたから大丈夫と思った」だと、また怒られるよね。

 ……原作から引用しよう。

 「臆病だからだ」

 「はい!? 言っていることが解りません」

 「臆病だから、話をするのも用心深くなるし、失敗しないための手は完全に打つ。

 だから、依頼の達成率が完璧なんだ」

 「『始元の大魔導師』様と同じですね?

 話が下手なところとか、特に」


 くっ。

 それはない。それはないぞ、ルー。

 いくら、半死半生まで突っ込むのがこの世界の習いとは言え、失礼にもほどがある。

 デミウスさんに対してもだけど、俺を持ち上げろとは言わないけど、そこまで落とすな。そもそも、俺をもっと大切にしろよっ!


 「この街の、生き延びたという筆頭魔術師殿のご息女か。

 さすがは『始元の大魔導師』殿共々、正鵠を射る。

 ……今まで人に明かしたことはなかったが、そのとおりだ。

 なぜ、見抜かれたのか……。

 依頼を受託すると、心配で眠れなくなる。

 胃も痛くなるし、ハゲたこともある。

 だから、依頼は独りで受けることにしている。

 仲間からまで、現状がどうなっているかを聞かれたくないからだ」

 そ、それは隨分と豆腐メンタルな告白ですね……。

 その外見で、俺よりダメっぽいけど、大丈夫でしょうか……。

 あ、逆か。豆腐メンタルだからこそ、そこまで鍛えたのか……。


 ラーレさんが思わずなにか言いかけたのを、ハヤットさんが止めた。

 「己の力量を見切って受託した以上、その仕事にかかる権利は受託者にある。ギルドも、成立したその契約について口を出すことはできない。

 よろしくお願いする」


 ……俺、やっちまったかなー?

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