第25話 国交1
で……。めんどくさかったら、ここは飛ばしてくれていいんだけど……。
ちっとも事態を理解していない俺に、ルーがその夜説明してくれた。例によって、屋敷の台所でチテのお茶をすすりながらだけど、テーブルの上には地図が広げられていた。
前半は、ダーカスを取り巻く地理についてで、後半はそれとそれぞれの国力を踏まえた王様の考えだ。
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ダーカスは、大陸の東の外れにある小国だ。国土の中心に西から東へネヒール川が流れている。形としては、茨城県南部と千葉県北部、そして利根川の関係っぽい。
ただ違うのは、九十九里浜が短くて、河口からすぐにリアス式海岸になっちまうことだ。リバータのいる海だな。
西には、ゼニスの山がそびえ、ネヒール川の水源となっている。
その山頂が国境になって、向こうの西側はエディの国となる。でも、ゼニスの山があまりに高く人の流れを隔てているので、エディとの国交はほとんどない。
エディに行くとすれば、ゼニスの山を回り込むため、南のブルスか北のサフラを経由する必要がある。
ダーカスを出て、南のトールケの火の山まで行く。そのトールケの山の東側は、ネヒール川河口から南下したところのリアス式海岸が続いている。
トールケの火の山とそのリアス式海岸の間をさらに南下すると、南のブルスの国に着く。南のブルスとダーカスの国境は、トールケの火の山の山頂となっている。
そのブルス国内を西に進めば、ようやくエディだ。
逆に北上ルートだとこうなる。
ダーカスを出てネヒール川を渡り、北上を続けるとサフラに至る。サフラを西に進むと、ゼニスの山を回り込むことになり、エディに至る。
そのままサフラ国内を西進しても、一旦エディに入って西進しても、リゴスに至る。この大陸の西の半分はリゴスなんだ。
だけど、南のブルスはリゴスと国境を接していない。
それがこの大陸の状況だ。
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で、ルーの解説によると、今回のサフラの件で予定が前倒しになったけど、王様は、すでに
そもそも、戦争となったら、極端に人口の少ないダーカスに戦力はない。だから、どう独立を保つか、王様の悩みは深かったはずだと。
普段国交のないエディは、
しかも、そこは水源地で、大量の植林ができて、数十年後には大量の木材の供給も望める。
そして、その恩恵は、ダーカスとエディで等分される。
だとしても、エディがゼニスの山の山頂に避雷針アンテナを立てることに難色を示したら、ダーカスも広大な土地の緑化ができない。
で、エディが難色を示す可能性は高いそうだ。
ダーカスに
これだけで、実質国力は倍だ。
その上で、ゼニスの山頂に避雷針アンテナを立てたら、両国に膨大な魔素が手に入る。
シンプルに言えば、今のダーカスとエディの国力は1:2だ。これがゼニスの山頂に避雷針アンテナを立てたら、2:3になって、相対的にダーカスが強くなる。
だから、ゼニスの山頂に避雷針アンテナを立てさせないほうが、エディは国力でダーカスより優位に立ち続けられる。
だから、誤解が生じないように特使を遣わせて、きちんと説明をする必要がある。
その際には、レンジャーのジャンはエディの出身だから、特使に同行してもらう。
これには、2つの利点がある。
まずは、ダーカスの王の人となりを知っているエディ人という意味で、ジャンにはエディの王の疑問に正直に全てを答えてもらい、エディ側からの信頼の醸成に努める。
次に、アンテナを立て、魔素をエディと分け合うためには、結局はゼニスの山を越える道を作らねばならない。そして、そのために、ダーカスのいるエディ人としてジャンの存在を、エディの王様に認識して貰う必要がある。
なぜならば、道とは、行軍路にもなる。
ダーカスにとって攻めるにも守るにも有利、エディにとっては不利、そんな道ならばエディは不要だ。
だから、中立組織であるギルドに属しているエディ人の、自然環境をも知り尽くしたレンジャーのジャンが道を引くのであれば、エディの王も安心するはずだ。
ここまでルーから聞いて、だいぶ頭がくらくらしてきたけど……。
「ルー先生、質問!
この世界、戦争なんてもう起きないって聞いてました。
なんで、ここまでダーカスの王様は用心するんですか?」
「はい、ナルタキくん、良いところに気が付きましたね。
それでは、各国の国力と、『始元の大魔導師』様がしてきたことを振り返ってみましょう」
なんか、どっかで聞いた口調だな。
まぁ、ルーは、俺の世界で暇があるとY○u Tubeとかずっと見ていたからなぁ。
「まずは、各国の国力です。
サフラは
リゴスは、3つの
ブルスは2つの
エディは2つの
さて。
ダーカスは、王様の計画により、現在、4つの
しかも、
これを他の国が、黙って見ているはずがありませんね。
これが、『始元の大魔導師』様の成し遂げてきたことです」
「だって、ダーカスの王様、そんな覇権を持とうとはしていないでしょ?」
「では、ナルタキ殿がダーカス以外の国王だとして、ダーカスの王を全面的に信じて何もしないでいられますか?」
「……それはできないかも」
「ダーカスの王様は、極めて現実的判断をしています。
正義が強いのではなく、強いものが正義なのです。そして、自分が正義だからこそ、一番強くならなければって考えているのでしょう。
なので、永続的でなくてもいいから、この世界の方向性が定まるまでは、世界最強の国家でいようと考えています。
だから、焦っていますし、他の国への情報統制もしています。
戦争は始まってしまったら、お終いです。
破壊し尽くすまで終わりません。
始まる前に、ダーカスが抑止力にならなければならないのです。
その後も、無視されない程度の国力を維持できれば、戦争の抑止力として存在意義を保てます」
なんか、ため息しか出ない。
そして、サフラの王様の焦りも解る気がした。
『せかいのはんぶん』を餌にしてでも、俺を釣りたいわけだ。
サフラには
となると、最下位に甘んじるか、『始元の大魔導師』を封じ込めるしかない。
で、殺すと報復が怖いから、とりあえずは抱き込みに走ったんだ。
王様のジョークの意味も、改めて解った。
俺がサフラに捕らえられたら、サフラは、
俺は、
あとは、宣伝合戦だね。
「『始元の大魔導師』様が誘拐され捕らえられている」と、「『始元の大魔導師』様は自発的にサフラに協力してくれている」の争いだ。
なんか……、激しくやれやれだ。
俺、召喚されたのが、ダーカスで良かったんだろうなぁ。
リゴスあたりだったら、いきなり世界征服って話になったかも知れないんだ。
「世界征服」も「怪獣退治」も、とてもわくわくする言葉だけど、特撮ヒーローの世界から一歩でも踏み出しちゃうと、いきなりアウトの言葉だねぇ。そりゃもう、つくづくと。
ルーに説明されなきゃ、こんなの解らなかったよ。
てか、ルーはなんで、こんなの解るんだ?
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