第23話 他国への布石

 

 王様に会って、海辺でのリバータとの顛末はルーが報告済みだから、ただ単に無事帰ったという報告をして。

 で……。

 「この人、ご存知ですか?」

 って、まだ固まっている人を突き出す。


 王様は知らなかったけど、大臣が知っていたよ。

 「サフラの大臣の部下です。

 何回か、使節の一員として、ダーカスに来たことがありますね」

 って。

 で……。

 「誠に申し訳ないのですが、こういう話ってよく判らないので、この人、ここに置いていくので、あとヨロシク!」

 一通りの説明をしてから、こう逃げを打った。


 したら、王様がちょっとだけだから、本当にちょっとだけだから付き合えって。

 そう言われちゃ仕方ない。

 「ケナン殿のパーティーを呼べ。

 それから、書記官を2人来させるように」

 そう王様が命令して、15分ちょいで両方来てくれた。

 ケナンさんのパーティーは、トーゴの洞窟に出発する準備でギルドでトグロを巻いていたから、すぐに捕まったみたい。


 なんてやっている間に、ルーの「ストップ」の、いや、なんだっけ?

 ともかく、動きを止める魔法が解けた。

 ああ、動けるようになったボーラさん、困ってる、困ってる。

 で、それが可笑しいとか言えないほど、実は怖い事態なんだろうね、これ。


 「ボーラ殿。

 余がダーカスの王である」

 ……いきなり平伏ですか。まぁ、命乞いかもねぇ。


 「サフラの王に、伝えていただきたいことがある。

 お願いできようか?」

 あ、平伏した背中からでも安心したのが見える。

 生きて国に帰れる望みができたもんね。


 「なんなりと。

 ダーカスの王のおんため、務めさせていただきます」

 「それでは、書記官。

 これから余が話すことを書き留め、北のサフラ、サフラを隔てた西のリゴス、南のブルス、南西のエディに書面として遣わすように」


 そう言って、王様はボーラさんに向き直った。

 「サフラとダーカスは平和条約を結びたい。

 なお、この平和条約の使者は、ダーカス周囲の強大なる各国々、サフラを隔てた西のリゴス、南のブルス、南西のエディにも同時に送ることになる。

 その書面を持っていくとともに、口頭でも余が話すことを伝えよ。


 サフラの王の懸念のとおり、ダーカスは『始元の大魔導師』殿の助けにより、急速に国力を増している。貴殿が見られたように、草原すら得ている。

 また、サフラには縁がない話かもしれぬが、円形施設キクラの新築、故障した施設の再稼働も、『始元の大魔導師』殿は可能としている。

 各国に対する、技術供与の準備がダーカスにはある。

 その『始元の大魔導師』の秘法を、平和条約を締結した後、半年後を目処に各国々には公開していきたい。円形施設キクラに関する技術もだ。

 これは、ダーカスが、諸国とともに発展をするためだ」

 ボーラさん、話の規模が大きいからか、半分口を開けて呆然と聞いている。


 「ここからが重要なので、よく聞いていただきたい。

 『始元の大魔導師』殿に対する抜け駆けは、ダーカスと平和条約を結んだ全ての国を敵に回す可能性がある。これは、サフラに留まる話ではない。

 仮にリゴスが同じことをしたら、サフラはダーカスに協力し、リゴスと敵対するであろう?

 国家間の力とは、そのように動くという話をしている。

 特に、サフラは円形施設キクラを持たぬ。

 それゆえに『始元の大魔導師』殿のことに関しては、円形施設キクラを持つ、全国家を敵に回す可能性が常にあることを心されたい」

 ああ、これは、俺を守ってくれたんだな、王様。

 各国が勝手に牽制しあって、俺は無事でいられる。そんな風に各国を誘導してくれたんだろうね。


 それに俺、この世界に来たときに結論を出している。

 コミュ障の俺が、たとえ王になれても、その王権を維持できるはずがない。だから、分不相応の望みは持たないって。

 半分どころか、世界の10分の1だって無理だよ。それに、ダーカスの王様を見ていて思うけど、とても俺には務まらない。清濁併せ呑める器が、俺にはない。

 そもそも、考えが足らなくて暗殺される未来が、ありありと見えるよ。「ブルータス、お前もか」って、そのブルータスすらいないからね、俺には。

 ルーはいるけど、酢豚スブタが足らない。



 「なお、新たなる年が来る頃には、各王と一堂に会し、話をしたい。疑念を解き、協調の足並みを揃えるためだ。ここ、ダーカスに諸王を招待する。

 日時は各国の祭日等考慮し、後にお知らせする。

 そして、その会議において、最古の王家の名と名誉にかけて、ダーカスは協調をお約束しよう。

 以上であるが、ボーラ殿、よろしいか?」

 ボーラさん、我に返ったように、こくこくと頷く。


 「ここに、ダーカスのギルド及び国王たる余の連名で、ミスリルクラスに推挙している、ケナン殿の冒険者パーティーがいる。

 パーティーの各位にお願いする。

 一旦トーゴの件は措き、それぞれサフラ、リゴス、ブルス、エディに遣わすダーカスの使節に対し、護衛として自分の出身国まで同行していただきたい。

 特にリゴスへの使節は、サフラを隔てているため、もしかしたら危険が伴うやもしれぬ。だが、その危険は、このボーラ殿が打ち払ってくれよう。

 ケナン殿も、ミスリルの剣、リゴスにて砥ぎをかけて来られるが良い」

 おお、それぞれの出身地だもんね。

 それぞれの王が、ダーカスの王は何を考えているんだっていうときに、ダーカス王の使節だけではない情報源というか、判断基準を与えようってことなんだろうね。



 「よく解りましてございます。

 サフラの王に伝えます。

 ですが、1つだけ、お尋ねしてよろしいでしょうか?」

 「答えられることであれば」

 「ダーカスの王と『始元の大魔導師』殿は、どにようにして巡り合われたのでございましょうや。

 それが解れば、サフラの王も、納得するものと愚考いたします。

 他の王もそうだとは思いますが、『始元の大魔導師』殿が自国に現れなかった理由が知りたいはずなのです」

 もしかして、この流れは……。


 やめろ、やめてくれよぅ。


 「ボーラよ。

 『始元の大魔導師』殿がダーカスに現れたのは、余と『始元の大魔導師』殿との前世からの浅からぬ因縁のためなのだ。

 余はそれを忘れてしまっているが、『始元の大魔導師』殿はそれを覚えていて、余とともに、いにしえと同じ人の世の栄光を取り戻そうとしてくれておる。

 余としては、『始元の大魔導師』殿の善なる意に、最大限に従っているのみなのだ」

 ……もう堪忍してください。恥ずかしいです。前回から間が空いていないので、余計にダメージもデカイです。

 二度とこんな嘘はつきません。

 中二病の後遺症ってか、尻拭い、一生尾を引くのかねぇ。

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