第15話 墾田永年私財法(対応策2)
「次は、トーゴの鍾乳洞だが……」
司会の大臣が話を進める。
「引き続き、ケナンさんのパーティーに探検をお願いしてはどうかと。
海からの物流倉庫として、食料を含む荷物を低温の場所に置けるのはいいことじゃないでしょうか?」
そう提案する。
これは無条件に、全員賛成。
ケナンさんの能力ならば、きちんと調査してくれるだろう。
「『始元の大魔導師』様、その依頼を受託するにあたり、コンデンサの貸与を再びお願いしたいのですが……」
「構わないですよね、皆さん?」
そう確認を取る。だって、コンデンサ、俺の私物じゃないからね。俺の世界に持ち込んだ分は、うやむやにしちゃったけど本来は、きっと良くない。
てへっ。
「今回は、貸与はしよう。
ただし……」
この含みは、王様、何を言い出すんだろ?
「ケナン、これが仮の名であることを余は知っている。
ダーカスに来た時の、騒ぎの顛末も知っておる。
君たちはどこかの時点で、本名を名乗るつもりはないのか?
それによって、我々も、君たちとの将来に渡る付き合い方を考えねばならない。
また、これは、君達自身がミスリル
余は、この世界の国々を、紛争にならないよう、平和的に豊かにしていきたいと思っている。しかし、それには、微妙な舵取りが必要であることは、君達も解ると思う。
君たちが、ダーカスから去る前提であれば、どこかでそのバランスを崩す存在になりうる。すでに、『始元の大魔導師』殿と深く関わっているからな。
余は、君達にどこまでの仕事を依頼できるか、君達の出方で見極めなくてはならないのだ」
ちょっと間が空いた。
「お申し出、ありがたく聞かせていただきました。
しかし……。
私は西のリゴスの出、魔術師のセリンは南のブルス、弓使いのアヤタは北のサフラ、レンジャーのジャンは南西のエディの出です。
不敬かつ非礼ではありますが、王の『紛争にならないよう、平和的に豊かにしていきたい』というお言葉を、どう捉えてよいのかの判断ができないのです。
言葉通りの意味であれば、パーティー全員が歓迎できることになります。
しかし、ダーカスの覇権を秘めた言葉だとしたら、我々はその目的の下僕にはなれぬのです」
うっわ、王様に対して、「疑っている」って面と向かって言ったよ。
「なるほど、道理である。
では、3日の猶予を与えよう。
その間に、余のことを調べるといい。
ダーカスの民、ギルド、魔術師、豊穣の女神を祀る者、誰に対して聞いても良い。好きなようにせよ。
余は最古の王家を継ぐ者として、恥じぬ行いをしてきた。
その積み重ねは、今の君の言葉で揺らぐものではない」
うっわ、王様も受けて立ったよ。
俺、そんな自信を持って生きていないよ。
ルーから言われて、ちょっとだけは自信を持とうと思っているけど……。
こうでなければ、王様としては生きられないのかなぁ。
これはこれで、プレッシャーの掛かる生き方だよねぇ。
王様、それで終わらなかった。さらに付け加えた。
「さらに言おう。
余は、王権の制限を考えておる。
3年、長くても5年を目処に、民の代表による議会を立ち上げ、法と裁きの場については王権の外に置く。
これも『始元の大魔導師』殿の意見に従うものだ。
その詳細について、『始元の大魔導師』殿が持ち帰られた書籍による検討を進めている。近いうちに触れが出せるだろう」
あ、やっぱりやるんだ、三権分立。
1000年後にも語り継がれるほどの改革だし、しかも、それを王様からのトップダウンでやるって……。
俺の世界でも、そう例はないよね。
普通は、こういうのって、権利を求める民衆側からボトムアップでされるもののはずだ。
そして、やっぱり王様、俺が持ち込んだ本を読み込み続けているみたいだ。
あ、ケナンさん、固まってる。
予想を遥かに超える言葉だもんねぇ。
覇権どころか、その逆の権力放棄を語られたら、一瞬どうしていいか判らなくなるのは解るよ。
「それはどういう……」
ケナンさんがようように質問するのを、大臣がシャットアウトした。
「会議を続ける。
ケナン殿の疑問については、別の場を設けたい。
今は、議題に沿った検討をお願いする。
次は、トーゴの鍾乳洞の先、大湿地帯の基本整備方針かと思う。
この地域の交通を、水路のみに特化するというわけにもいかないとは思うが、いかがなものか?」
また、俺、聞いてしまう。本当に知らないことばかりだからね。
「イコモが生えているとのことですが、刈り取ってその種子を食用にして売ったら、収入としては労力に対して釣り合うものですか? 高価なのは知っていますが、釣り合うかを知りたいのです」
この世界に来てすぐ、米が食べたいって駄々を捏ねてたら、王様に伝わって気を使ってごちそうしてくれたんだ。俺、このイコモ、もとい、王様には足を向けて寝れないよ。
それにね、俺の世界からコシヒカリを持ち込んではいるけど、ピラフにするならばこのイコモの方が美味しいと思う。
俺の疑問に、タットリさんが答えてくれた。
「数少ない天然食材ですからね。
高いですよ。
食材としても、芋以外で腹にたまるものはこれしかありませんから、あればあるだけ売れるでしょう」
「じゃあ、湿地帯をイコモとコシヒカリの水田にしませんか。
輸送と人の移動はケーブルシップもありますし。
で、区画整理をして、農道を作って、海とトーゴを結べれば……」
うちの近くにもある、田んぼの光景を思い出しながら言ってみる。
「食物が、余って余って仕方がなくなるなぁ」
「『始元の大魔導師』様、徹底して食い物作りに拘りますねぇ」
ひそひそ、がやがや。
人のことを、究極の食いしん坊みたいに言うなや。
てか、俺の世界って、そんなに食べ物の確保に執念を燃やされていたんだ……。
人口の規模が大きくなるわけだ。
で、ここの人達は、周囲がみんな農地になるなんて、想像もできない光景なんだろうね。
ましてや、見渡す限りの市街地なんて、さらに想像の外。
そうは言っても、俺、まだまだそんなに開発した気がしていなんだけどね。だって、まだ、ケナンさんが歩いた線の話で、ダーカスを中心とする面としての広がりの話にはなっていないんだよ。
面の話にするには、
王様の声が再び響いた。
「食物が、余って余って仕方がなくなってこそ、世界は発展できる。
その食物を原資に、
そして、我々は、明日をも知らぬ不安な運命から解放されるのだ!」
一斉に拍手が湧いた。
俺も手を叩いた。
願わくば、王様の声の質のせいで、これがケロ□軍曹の演説っぽく聞こえちゃうのがなければ言うことないんだけれど。
拍手がおさまって、王様は再び話し出す。
「地形は、魔素流の影響を受けない。
『始元の大魔導師』殿の言う区画整理は、
ついてはハヤット、リゴスから呼び寄せた、骨を運んだあとの100人は、報酬を与えてリゴスに帰すのか?
もしも、引き続き労力化できるのであれば、今年の増産分の食料の一部をこの100人に回し、区画整理を進めたい。
その100人に対しては、この1年を食料のみが基本の報酬である、ただ働きとする。ただし、1年後に区画整理後の土地の権利を与えよう。
水の心配をしなくても良い農地の拡大は素晴らしいし、イコモ、コシヒカリと、草の種の特産化ができれば更に素晴らしい。
その100人は、2年後には収穫を得て、それなりに豊かになれるはずだ。
ダーカスとしては、この100人が作った大量の食物が永続的に得られる」
えっ、1年食い物付きで開墾したら、土地をくれるっていうことだよね!?
なんか、どっかで聞いた話だなぁ。
って、屯田兵? それとも、ああ、墾田永年私財法だよ!
俺、参加しようかな。
ハヤットさんが答える。
「御意。
トーゴ周辺を、ダーカスの副都市として発展させる礎として、入植させ、発展させるのは良いお考えかと。
また、得られた収穫は、トーゴの港から運び出すダーカスの特産物にもなりましょう。
そもそも狂獣の骨を拾うという依頼を受託するなど、ブロンズ
1人あたりに十分な面積をお与えになれば、ここでその100人は留まって耕作を行い、妻を娶り、子を成し、さらなる発展がなされるでしょう。
その子にもまた、開拓と区画整理後の土地所有を認めれば、50年の間にトーゴの平地はすべて農地となりましょう。
『始元の大魔導師』様に、魔素流を避けるアンテナを設置していただかなければなりませんが」
むー、すげーな、これが詐欺の話じゃないのが凄い。
俺の世界で、土地をくれるなんて話があったら、まずは詐欺を疑うよね?
そこで、スィナンさんが手をあげた。
「水利の専門家だけは、どこかから招聘したほうがよろしいかと。
ネヒール川が暴れたら、王の構想のすべてがひっくり返ってしまいます」
「さすがはスィナン。
良いところに気がついてくれた。
大臣、水利に関する人材について、一任してよいか?」
「お任せください。
これで、この問題も既決事項になった、と。
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