第11話 狂獣


 スィナンさん、ヴューユさん、それから、一番若い魔術師さんと打ち合わせ。

 狂獣リバータをシビれさす機器の開発について、だ。

 ルーは、と、先生予定の3人のお手伝い。そっちは、開校日が決まっているから、大忙しになっている。

 お陰で、俺はの威圧感から逃れられているよ。



 やっぱりさぁ、燃えるよね、怪獣退治。

 殺さない前提で、本当に退治しちゃダメなんだけど、それでも、すげーぜ。

 人生の中に、この四文字熟語が入る人間が何人いるかねぇ? 俺の世界でも、ここの世界でも、さ。


 ヴューユさんにはまず、狂獣リバータについて教えてもらう。

 コレ、魚の前提でいたけど、クジラの仲間だったら困る。

 水の中にいるってだけで、無条件に魚と思っていたからね。哺乳類かもって考えついて、「どうしよう……」って思ったよ。

 だって、哺乳類を感電させたら、もしかしたら溺れちまうかも知れないだろ? 肺呼吸だし。

 それに、骨も魚とは形が違う。細くて長い骨が何本も欲しいって、魚ならいいけど、哺乳類だと絶対無理。


 で、ヴューユさんが、古くから受け継がれてきたっていう、羊皮紙に描かれた狂獣リバータの絵を見せてくれた。


 ……ウツボだ、これ。どう見てもウツボっぽい。

 そか、で、体がデカイから、巣穴に潜ると言うより、入り江1つを占領しているんだ。

 ここには、鳥っていないから、空からの攻撃は絶対にない。入り江近くに、避雷針的なそれなりに高い岩でもあれば、魔素流もそちらに流れるだろう。つまり、入り江にすっぽりってのは、極めて安全なんだ。


 「狂獣は、なにがどう『狂』なのですか?」

 と、ヴューユさんに聞いてみる。

 「昔の話ですが、深海から上がってきて入り江を占領したときに、退治しようとしたことがあったんだそうです。

 しかし、網も効かず、銛も効かず。

 その時の荒ぶりようは凄まじく、海面の船だけならばまだしも、陸上に設置した基地まで、すべて薙ぎ払われたそうです。

 砂浜から岩場まで、陸上を人を圧殺しながら泳いだと、言い伝えられています」

 「魚なのに陸を泳いだから、『狂』なのですね?」

 「はい。『恐』は、まだ道理があります。

 その範囲を超えた生き物なのです」

 そか、洒落にならんってことだな。


 ヴューユさんは言葉を続ける。

 「100人からいて、生き延びたものは10人に満たなかったという話です」

 ウツボの超特大が暴れまくったら、さもありなん。新幹線以上のサイズのが、陸上をのたくり回して、人を押しつぶして回ったら、その恐怖たるや、だ。生き延びた人間もまた、『狂』となってもおかしくない。

 どう考えたって、モンスターとしても最大級だからね。ゲームの世界までランキングに入れても、なかなかいない大きさだよ。


 確か、岩場で魚を絞めていたら、その血の臭いでウツボが海面から這い登ってきたって聞いたことがある。ウツボは、陸上、行けるんだよね。

 あれは、本郷から、釣ったっていうメジナを貰った時の土産話だった。

 で、ウツボは質悪たちわるいほど生命力が強いから、「ソレを摑まえて」って話にもならなかったんだと。締めてクーラーボックスにしまってさえなかなか死なず、クーラーボックスの蓋を開ける度に噛み付いてくるって。

 だから、噛まれないように蹴飛ばして、海に追い払ったって言っていたなぁ。



 ……こいつの動きを止められたら、もう1つ、王様が肩書くれないかな?

 「狂獣を制し者」みたいな、さ。



 こりゃあ、よっぽど性根を据えてかからないとだ。

 電気ショッカー、一発勝負で大電流で行こう。それも、できれば、至近距離から。

 2回使うのならば、もっと持ち込むコンデンサの量を増やさないと、だ。トーゴに造る円形施設キクラの設置量の倍くらいは持って行きたいな。


 いっそ、そこまで行けば、金の電気銛ってのも手……、いや、だめだな。

 相手が1匹とは限らない。入り江に子供も含めて何匹もいたら、銛を撃ち込んで感電させるって手は使えない。やはり、海中に電気を流すしかない。


 想定する配線の断面積も倍だな。となると、リールに巻いておいた配線を伸ばすっていう案も変わる。太さ的にケーブルっていうより、金の棒になるからね。


 あとは、地形の問題もある。

 地形に助けられれば、海に配線を浮かべなくても済む。

 このあたりの決定は、ケナンさんの帰着報告待ちだ。



 も1つ、ヴューユさんに確認。

 「ストップ」とかの魔法はないかって。

 生き物の動きが止められれば、そもそも電気ショッカー要らないからね。

 まぁ、そんな魔法があれば、御前会議のときになにか言っていただろうけど。


 「ありますよ」

 あっさり返されて……、あ、あれか!?

 「羊の毛刈りのときの!?」

 「はい」

 「じゃ、それで狂獣リバータの動きを止めれば、問題全部解決じゃないですか?」

 「できません。

 相手の生物の大きさと、止められる時間は逆関係なんです」

 逆関係って……。


 それまで黙っていた、若い魔術師さんが補足してくれた。

 「相手の生物の大きさと、止められる時間を乗じた値は一定なんです」

 ああ、反比例するってことか。


 「羊、1000頭分の重さの生き物ならば、羊の1000分の1しか動きを止めておけません。

 狂獣リバータの重さなんて想像も付きませんが、1万5千倍としたら、1鼓動の20分の1くらいしか止めておけないでしょう」

 あー、それは無理だ。

 魔法はあっても、役に立たない。

 すごいのは、この魔術師さん、掛け算を使いこなしている。

 教科書を翻訳しながら、独学で相当勉強したんだろうね。


 でもさ、裏を返せば、小動物は長い時間を固めておけるね。

 鶏とか、生きたまま運ぶのには最適な方法かも。


 ま、今回のはやっぱり、電気ショッカーで行くしかないってことだ。



 あとは、スィナンさんとの話し合い。

 スィナンさん、俺が自分の世界に戻っている間に、雰囲気が変わっている。

 なんていうんだろ、上から目線の言い方になっちゃうけど、素直になったというか、オヘソが正面に固定されているようになったっていうか。

 錬銀術師をやっていたときに比べて、あまりに毎日必要とされているから、拗ねてる時間がなくなったのかも知れない。


 スィナンさんとの議題は、充電されたコンデンサ輸送に関すること。

 電圧がかかっているコンデンサを長距離輸送するわけだから、コンデンサから出ている金線に絶縁キャップをしておく必要がある。

 そして、そのカバーを付けたり外したりが、安全にできないとだ。

 まして、海沿いは、塩気で電気が流れやすいから、作業する場所も考えないといけない。ゴムシートとか作ってもらう必要もあるだろうね。なんせコンデンサを直列繋ぎに繋げば、外装部分から漏電しまくりになっちゃうからね。絶縁体の上に置かないとだ。


 スィナンさんも、従来品の受注に加えてゴムボートと黒板の開発もあって、相当にすったもんだしている。でも、労力をエモーリさんから回してもらえたってことで、ゴムシートと絶縁キャップは考えてくれることになった。


 あとは、ケナンさんたちが帰ってきたら、その状況でまた作ってもらうものが増えるだろうね。

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