第12話 東方見聞報告会1
ケナンさん(仮名)達が帰ってきた。
顔を合わせてすぐに、セリンさんには「ごめんね」って謝っておく。前後不覚に気絶させちゃったからねぇ。
したら、パーティー全員から、土下座せんばかりに恐縮された。
いや、別にいいんすけどね。
王宮で、再び御前会議みたいな感じで報告会。
参加者多数。
ギルドのハヤットさん、さすがだよね。出発前のケナンさんに、羊皮紙とペンを渡しておいたみたいで、風景のスケッチとか、地図とかの図がかなり多めにある。お陰でとても解り易そうだ。
旅の話って、ワクワクするよねー。
ここからは、俺が感想とか注を入れますが、ケナンさんが語ったそのまんまです。
「我々は、剣士のケナン、魔術師のセリン、弓使いのアヤタ、レンジャーのジャンの4人のパーティーだ。
ダーカスに来て、ギルドで一悶着あったものの、一財産を稼ぐほどの大仕事の依頼を受託できた。
その仕事も無事果たすことができ、報酬も受け取った。ここにいる王を始めとする、関係者各位への感謝の念に堪えない。
また、引き続き、今回の仕事を受けさせていただくことになり、ありがたい限りだ。
私事ではあるが、お陰でシルバー
それでは、報告させていただく。
我々は15日前に、ここダーカスを発った。
装備は、それぞれの職業に関係するものと、保存食20日分、そして革袋だ。水は、川に沿って下るので、革袋に詰めず最小限しか持たずに済ませた。
加えて、小さなネコ車と金の傘、コンデンサと呼ばれるものを3個貸与された。
まずは、この羊皮紙をご覧いただきたい。
今回の経路だ。
この図の線のとおり、我々は、ダーカスを出て、東に流れるネヒール川を河沿いに下った。
ダーカスからそう離れないうちから、地形は河岸段丘の様相を呈する。
川下り自体は単調なもので、荒涼とした岩石砂漠の中を歩くのみで変化がない。これは、川の流れが河岸段丘に挟まれ、まっすぐだということにも因る。
陸路は、河岸段丘の段の一つに沿って歩ければ比較的平坦で歩きやすいものの、季節によりダカール川の水量が増えた場合は、より上の段を歩かないと、道となる地形自体が水没するだろう。
また、ところどころヤヒウの餌となるような草が生えている以外、特筆すべき資源もない。
なお、船による輸送路の開拓という話を聞いていたので、河床の状態に注意して進んだが、いわゆる難所になる場所は2か所あると思う。
1か所目は、ここダーカスからそう遠くない位置で、場所によれば街中からも見える。そこで川の流れの中心に大岩が屹立しており、火炎や氷結の魔法では手に負えまい。爆発系の高位呪文でなんとかするしかないが、極めて危険が伴うだろう。長年の浸食に耐える岩の質は、相当に硬いことが見込まれるからだ。
岩の撤去を諦めるのであれば、これは、船の衝突事故が起きないように注意が必要なものだと思う。流れが取り立てて早いわけではないものの、流れの向き自体がよくない。いくらか草の破片を流してみたが、吸い込まれるように当たる。おそらくは、岩の根の形状のせいだろう。船で通るのであれば、吸い寄せられる前に離れておかないと危険だ。
2か所目は、トーゴ鍾乳洞の近くだ。
ここまでに、徒歩で太陽の3分の1を要した(鳴滝からの注:日照時間の3分の1なので、この季節だとおよそ4時間となる。行程がなだらかな下りということもあり、またシルバー
岩の侵食が激しく、川筋も複数に割れ、その幾つかは急峻に細くなっている。一番太い流れは問題なく船が通れる幅を保っているが、運悪くそのような支流に迷い込んでしまったら、流れに逆らって戻るに戻れず、立ち往生となるだろう。
なお、一番太い流れであっても、それを遡るのは風に恵まれていても難しいかも知れない。ロープを張るなりして、安全策と陸上からのサポートを考えておくべき場所だと思う。
我々は、ここで日がまだ高かったものの、野営の準備をした。
川の水を汲み、金の傘で調理は可能だったし、地形が急峻であるということは身を隠す場所に困らないということで、良い場所だった。
野営準備はレンジャーのジャンが1人で行い、3人は川筋の調査を行い、このように地図として描いてきた(鳴滝からの注:羊皮紙に詳細な河道状況図が記されていた。さすがはシルバー
翌朝、地形の確認と地図作成を引き続き行った。
午後は、野営地からほど近いトーゴの鍾乳洞を確認した。
魔術師のセリンの光の魔法を使っても照らしきれないほどの広い空間があり、残念ながら入り口近辺を見たに留まる。
その入り口近辺は、この世界が
だが、そこから一歩踏み込むと、足場も悪く、未知の世界が広がる。
鍾乳洞内部は当然のことながら暗く、冷たく、底には水が流れていた。
その水の中には、さまざまな生き物が
またそのためか、どことなく生臭い臭気が立ち込めていた。
普通の魚だけではなく、足の生えた魚もいて(鳴滝からの注:トカゲの類かもしれない)、おぞましさを抑えられなかった(鳴滝からの注:やはり、この世界には昆虫はいないようだ。また、それを餌とするコウモリの類もいないようだ)。
なお、弓使いのアヤタが、水面から背を出した大魚を仕留めた。
驚くべきことに、この魚には目がなかった。かなり勇気を要したが、塩を振って焼き、口にしたところ食味は極めて良かった。
先々、この近くの場所で
その際の、工人たちの食料採取及びその保存に、鍾乳洞は最適な場所かも知れない。
午後いっぱいを使ったが、残念ながらこの程度の探検にとどまる。
もしも、ある程度以上の調査が必要であれば、この鍾乳洞だけで最低で10日は必要となるだろう。小さな枝穴まで調べるとなれば、どれほどの時間が要すか想像もつかない。
もしも、我々にこの鍾乳洞のクエスト依頼をいただけるのであれば、喜んで受託しよう。
あえて、このようなことを言うのには理由がある。
鍾乳洞内の流れにこれほど生き物がいるのであれば、その奥になんらかのボスたりうるモンスターが潜んでいる可能性は否定できないからだ。
人が踏み込まなくなって1000年、巨大化した生き物がいてもおかしくない。
再びここで野営をし、翌朝、我々は再び川を下った。
トーゴの鍾乳洞近辺を抜けると、海を見渡せる。ネヒール川の流れは一気に落ち着き、駘蕩たる流れとなる。海からここまでであれば、手漕ぎでも船は容易に流れを遡れるだろう。
ただし、湿地帯が増えるので、泥地が多く、歩くのには苦労する。時間あたりの移動量は通常の半分にも及ばない。膝まで沈む湿地帯に四苦八苦したが、最後は魔術師セリンに凍結の魔法を使ってもらい、凍った上を歩いた。
物資の運搬を陸路で行うならば、しかるべき整備をしないと不可能だろう。
むしろ、このあたりは、船による移動の方が遥かに早いと思われる。
なお、このあたりは、ところどころイコモの群生がある以外、目立つものはない。
イコモの群生地には、小魚や得体に知れない小動物がそこそこいたが、口にする勇気は湧かなかった。また、イコモを脱穀する道具もなかったので、野営食にはできず、そのままとなった。
イコモの群生地を抜け、真水が得られるうちに水を汲み、トーゴの鍾乳洞から太陽の2分の1を歩いたところで、ようやく海についた(鳴滝からの注:かかった時間と、歩きにくいということを考えれば、鍾乳洞から海岸線まで5キロとは離れていないだろう)。
ここで、少しばかりの乾いた海辺の場所を見つけ、3泊目の野営地とした。
ところが、我々が失敗したのは、ここまでの平地で海に近いと、潮の満干の影響があまりに大きいことだ。夜中に荷物を抱え、目につく高地に走ることになった。
魔術師のセリンの光の魔法と凍結の魔法がなければ、全員溺れ死んでいただろう。ともに複数回の呪文詠唱を行ったので、この段階でコンデンサが一つ空になった。しかし、セリンの体内の魔素だけではこれだけの魔法は賄えず、我々が生き延びることができのは『始元の大魔導師』殿のお陰である。
潮の満ち引きは話には聞いていたが、たった一晩の中で、あれほど海水の高さが動くものとは思わなかった。
また、イコモの群生地が海岸から一定の距離があったのもよく解った。
つまり、イコモの群生地から出なければ、潮の満干の影響を受けなくて済むのだ。
翌朝の午前中いっぱい、残念ながら我々は動けず休憩となった。
さすがに、夜中の全力疾走は
午後から我々は、海岸線に沿って南下を開始した。
これはネヒール川があって、それを渡河しないと北へは行けなかったからだ。もっとも、北へ行くということは、魔獣トオーラとの遭遇の可能性が高まる。ネヒール川の存在もあり、南下は極めて安全な選択ということができるだろう。
ネヒール川の河口を離れるにしたがって、泥地は砂地に変わり歩きやすくなっていった。おそらくは、ネヒール川の浸食と堆積の結果だろう。
光景としては、左手には海、右手には湿地帯を眺めることになる。
この海岸線の状況は、やはり図に描いたので見て欲しい(鳴滝からの注:測量したわけではないから距離、方角は正確ではないだろうし、大雑把でもあるが、書き込みが詳しく、再訪する際には十分に使えるものだろう)。
そのまま太陽の10分の1行程も歩くと、海岸線は緩やかに西に折れ曲がって行った。同時に、砂浜が減り、磯の岩地が増えてきた。ダーカスからの直線距離はむしろ近くなっているかも知れない。
我々は、そこで小さな入り江を発見した。
こここそが目的地かも知れないと感じたため、安全を考えていくらか引き返し、そこで4泊目の野営地とした。
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