第8話 何が起きた!?
なんでだ? なんで座っているだけの会議の方が、きちんと働いている時より疲れるんだろ?
慣れないからかねぇ……。
疲れ果てて、その日の晩は俺、ダウンした。
ルーは
ま、ルーの能力ならば、親父さんに言うことを聞かせるのも、簡単なんだろうね。
翌日は俺、ギルドで留守中に作られたコンデンサの検品。
1日、テスターを当てて、過ごす予定。2つの端子が絶縁されていなかったら、それは不良品だからね。
検品ができたら、できるだけ強力な電気ショッカーを作らなきゃならない。
マイカコンデンサだから、もともと高電圧に耐える。
むしろ、狂獣の近くの海上で、放電用の電線を設置する方法を考える方が大変かもね。なんせ、元気いっぱいの、狂獣本人の目の前でやらないといけない作業なんだ。
俺とルー、ギルドの広間のテーブルを前にして座っている。
テスターを当ててコンデンサの検品するのは、頭を使わなくてもできる。
実際に
で、つまりは落ち着いて話せる機会なので、雑談がてらルーにいろいろと疑問を確かめるつもり。
「第一陣と第二陣、送る方は1日の差だったじゃん。
こっちではどのくらいの差だったか聞いた?」
「13日間だったって話ですよ」
そか、それならば牧草も芽を出すし、苗も根付くね。
本当に、このタイミングのズレを活かせるならば、利用価値は高そうだよ。
次の疑問。
「ルー、俺って侯爵様じゃん。
他の貴族ってどこにいるの?」
もしかして、社交界とかもあるのかな?
ダンスとかも覚えたほうが良いのかな?
「いませんよ」
さらっと返されて、「はあっ!?」 ってなった。
いないのかよ?
「基本的に、男の子が生まれないと家名は断絶します。
親戚から養子を貰ってまで家名を残せるのは、王家だけです。
ダーカスの王家は、司祭でもありますからね。
豊かだった時代には、貴族は後宮を持っていて家を維持できてたみたいですけど。
今はそもそも、領地となるべき土地が失われていますから、よほどの現金収入でもなければ、そんなの維持するのはとても無理でしょうね。
そうなると、結局、どこの家も、10代とか男の子が生まれ続けるのは難しかったみたいです」
仕組みとして、没落貴族みたいのも、続かないから生まれないってことかぁ。
「……俺も、後宮持って良いの?」
「ナルタキ殿……、つくぅづく、懲りませんね」
びくっ……。
口調が変わった。怖い。
「おどおどしながら後宮持っても、冴えませんよ?」
ど、ど、どやかましいわい!!
でも、ルーの目を盗んで、1回くらいはラーレさんと話してみたい。
口説くとかとは別に、どんな人かは知りたいじゃん。
見た目は思いっきり好みなんだけど、中身は肝っ玉かーちゃんみたいなギャップがある。しかも、思いっきり顔も広い。
その人が、しおらしくなったりしたら、さらにギャップ萌えが……。
ルーには悪いけど、淫行条例に引っかかっちゃいそうな歳の差は、それはそれでちょっと怖いんだよ。ルーのことを理解できないかもって思うじゃん。ラーレさんならその辺も安心かも。
ルーの親父さんも天下り先が見つかったわけだし、もう、ルーが路頭に迷うこともないし。
で、チャンスは案外早く来た。
ルーの親父さんが、目論見通り、校長の仕事を引き受けてくれることになったって。で、ルー、親父さんが王宮に行くことになったから同行するって。
すけべぇ心と言いたければ言え。
男の探究心は止められない。
特に、あんな風にルーにけっちょんけっちょんにやっつけられたあとは、なんとか自信を取り戻したいというか、気分転換というか、気晴らしというか……。
なんか、こう……、あるだろ?
「ラーレさん、私が留守の間、コンデンサ作りの人達のお世話してもらって、ありがとうございます」
なんて、声を掛けてみた。
「いえ、侯爵様。
微力ながら、お役に立てて嬉しく存じます
みなさん、好き放題にされているので、制するのが大変でした」
伏し目がちに答える、清楚で綺麗な横顔がたまりません。
漫画だったら、背景に花が出るパターンだ。純白のチューリップなんかが、すっごく似合いそうだ。
いつもルーには、真っ正面から見据えられているからね。
新鮮ですよ、この反応。
「いえいえ、本当にたすゅかりました」
あ、噛んだ。
緊張するといかんなぁ。
ラーレさんの頬が、ちょっと緩んだような気がした。
「なにか、お礼をさせていただこうかな、なんて……」
「侯爵様、それよりも、侯爵様の年収をお教えくださいませ」
「……はっ?」
「やはり、こういうことは、きちんといたしませんと」
「……な、な?」
「これからも、お助けさせていただくためには、必要なことでしょう?」
なになになになに?
何が起きた?
何を言われた、俺は今?
えっと、コレ、こっちの世界の風習?
「す、すみません。
まだ来たばかりですし、侯爵様もなったばっかりで判りません!」
「そうですか。
それでは、判りましたら、また、ぜひ……」
「いえっ、判らなくゅて、すみませんっ!」
怖い。
怖いから、背中を向けないようにじりじり距離を取る。
い、一体全体、なんだったんだよ!?
テスターのプローブを何回か落っことしながらも、機械的にコンデンサの絶縁の確認を続ける。
頭ん中、呆然。
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