第8話 何が起きた!?


 なんでだ? なんで座っているだけの会議の方が、きちんと働いている時より疲れるんだろ?

 慣れないからかねぇ……。

 疲れ果てて、その日の晩は俺、ダウンした。


 ルーは滅気めげずに、親父さんと校長就任依頼の件で話をしていたらしい。

 ま、ルーの能力ならば、親父さんに言うことを聞かせるのも、簡単なんだろうね。


 翌日は俺、ギルドで留守中に作られたコンデンサの検品。

 1日、テスターを当てて、過ごす予定。2つの端子が絶縁されていなかったら、それは不良品だからね。

 検品ができたら、できるだけ強力な電気ショッカーを作らなきゃならない。

 マイカコンデンサだから、もともと高電圧に耐える。円形施設キクラで充電できているのも、魔素流の直後は50ボルトを超えていたから、直列繋ぎを10個にして、あとはひたすら並列繋ぎで電流量を稼ごう。いっそ、2つに分けて、2回電撃できるのも悪くないかも。

 むしろ、狂獣の近くの海上で、放電用の電線を設置する方法を考える方が大変かもね。なんせ、元気いっぱいの、狂獣本人の目の前でやらないといけない作業なんだ。



 俺とルー、ギルドの広間のテーブルを前にして座っている。

 テスターを当ててコンデンサの検品するのは、頭を使わなくてもできる。

 実際に円形施設キクラ据え付けるときは、もう一度チェックするから、それでダブルチェックにもなる。

 で、つまりは落ち着いて話せる機会なので、雑談がてらルーにいろいろと疑問を確かめるつもり。


 「第一陣と第二陣、送る方は1日の差だったじゃん。

 こっちではどのくらいの差だったか聞いた?」

 「13日間だったって話ですよ」

 そか、それならば牧草も芽を出すし、苗も根付くね。

 本当に、このタイミングのズレを活かせるならば、利用価値は高そうだよ。


 次の疑問。

 「ルー、俺って侯爵様じゃん。

 他の貴族ってどこにいるの?」

 もしかして、社交界とかもあるのかな?

 ダンスとかも覚えたほうが良いのかな?


 「いませんよ」

 さらっと返されて、「はあっ!?」 ってなった。

 いないのかよ?

 「基本的に、男の子が生まれないと家名は断絶します。

 親戚から養子を貰ってまで家名を残せるのは、王家だけです。

 ダーカスの王家は、司祭でもありますからね。

 豊かだった時代には、貴族は後宮を持っていて家を維持できてたみたいですけど。

 今はそもそも、領地となるべき土地が失われていますから、よほどの現金収入でもなければ、そんなの維持するのはとても無理でしょうね。

 そうなると、結局、どこの家も、10代とか男の子が生まれ続けるのは難しかったみたいです」

 仕組みとして、没落貴族みたいのも、続かないから生まれないってことかぁ。


 「……俺も、後宮持って良いの?」

 「ナルタキ殿……、つくぅづく、懲りませんね」

 びくっ……。

 口調が変わった。怖い。

 「おどおどしながら後宮持っても、冴えませんよ?」

 ど、ど、どやかましいわい!!



 でも、ルーの目を盗んで、1回くらいはラーレさんと話してみたい。

 口説くとかとは別に、どんな人かは知りたいじゃん。

 見た目は思いっきり好みなんだけど、中身は肝っ玉かーちゃんみたいなギャップがある。しかも、思いっきり顔も広い。

 その人が、しおらしくなったりしたら、さらにギャップ萌えが……。

 ルーには悪いけど、淫行条例に引っかかっちゃいそうな歳の差は、それはそれでちょっと怖いんだよ。ルーのことを理解できないかもって思うじゃん。ラーレさんならその辺も安心かも。

 ルーの親父さんも天下り先が見つかったわけだし、もう、ルーが路頭に迷うこともないし。



 で、チャンスは案外早く来た。

 ルーの親父さんが、目論見通り、校長の仕事を引き受けてくれることになったって。で、ルー、親父さんが王宮に行くことになったから同行するって。


 すけべぇ心と言いたければ言え。

 男の探究心は止められない。

 特に、あんな風にルーにけっちょんけっちょんにやっつけられたあとは、なんとか自信を取り戻したいというか、気分転換というか、気晴らしというか……。

 なんか、こう……、あるだろ?


 「ラーレさん、私が留守の間、コンデンサ作りの人達のお世話してもらって、ありがとうございます」

 なんて、声を掛けてみた。


 「いえ、侯爵様。

 微力ながら、お役に立てて嬉しく存じます

 みなさん、好き放題にされているので、制するのが大変でした」

 伏し目がちに答える、清楚で綺麗な横顔がたまりません。

 漫画だったら、背景に花が出るパターンだ。純白のチューリップなんかが、すっごく似合いそうだ。

 いつもルーには、真っ正面から見据えられているからね。

 新鮮ですよ、この反応。


 「いえいえ、本当にたすゅかりました」

 あ、噛んだ。

 緊張するといかんなぁ。

 ラーレさんの頬が、ちょっと緩んだような気がした。


 「なにか、お礼をさせていただこうかな、なんて……」

 「侯爵様、それよりも、侯爵様の年収をお教えくださいませ」

 「……はっ?」

 「やはり、こういうことは、きちんといたしませんと」

 「……な、な?」

 「これからも、お助けさせていただくためには、必要なことでしょう?」

 なになになになに?

 何が起きた?

 何を言われた、俺は今?

 えっと、コレ、こっちの世界の風習?


 「す、すみません。

 まだ来たばかりですし、侯爵様もなったばっかりで判りません!」

 「そうですか。

 それでは、判りましたら、また、ぜひ……」

 「いえっ、判らなくゅて、すみませんっ!」

 怖い。

 怖いから、背中を向けないようにじりじり距離を取る。

 い、一体全体、なんだったんだよ!?


 

 テスターのプローブを何回か落っことしながらも、機械的にコンデンサの絶縁の確認を続ける。

 頭ん中、呆然。

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