第3話 御前会議 1
翌朝。
久しぶりにヤヒウの乳と芋の朝食。
やっぱり悪くない。
思いっきり俺、ファストフード中毒だったのに、今はこっちの方がいい。
食べ終わったら、ルーと王宮に向かう。
一緒に行くと言い出した親父さんは、強引に押し留めた。
「回復が一時的なものかもしれないので、もう少し大事を取ってください」って。
逆に、ルーが昨夜からおとなしいのが、ちょっと心配。
もしかして、親父さんが元気になると、ルーが
そういうのは、ちょっと勘弁して欲しいなぁ。
王宮の広間には、いつもの仲良しメンバー。
さてさて、どんな問題が山積しているのやら。
90%は不安だけど、10%は楽しみでもある。
王様の高い声のあいさつがあって、大臣が司会してと、いつもの流れ。
で、いきなり最大級の問題を2つ突きつけられた。
1つ目、水。
魔術師が作付けに合わせて雨を降らせたので、今は作物類みんな順調。だけど、1年間に降る以上の雨は魔術師にも降らせられない。無から有は生じないからね。
作物類がさらに大きくなったら、灌漑が絶対に必要だけど、ネヒール川の上流から水を引くとなると測量から始まる遠距離の大工事が必要になるし、そうなると、完成が今年の農産物に間に合わない。
さらにタットリさんが言うには、長距離の水路は水が染み込んでしまうので、水路が完成してから畑まで水が届くのに年単位で掛かるかもって。
2つ目、肥料。
元々、土が痩せているので、定植のためにダーカス中の有機物をかき集めて鋤き込んだんだと。で、もう、日々の住人とヤヒウの排泄物以外の有機物がない。
作物類がさらに大きくなったら、必要な追肥も膨大な量になるけど、もうどうにもならないって。
通商路の整備とか、
けど、水と肥料はどうにもならないとさ。
ま、そりゃそうだ。
隣の国から革袋に入れて、人が担いで輸入なんて、絵空事にもほどがある。ネコ車を使って運んだって、事態はそうは好転しない。
ホームセンターで売ってた肥料ってのは、優秀だったんだねぇ……。
で、早速、
だって、案ということで、仕組みはルーがスケッチして注を入れて、こちらに送ったはずだからね。
なのに、なんで検討されないかと思ってさ。
でも、話しきらないうちに、即、却下。
なんでよ!?
あまりに当たり前の答えが帰ってきた。
「金では作れず、石でも作れず、エボナイトでも無理。樹木もまだとてもとても材を取るには程遠く。
鉄では錆びますし重い。金で覆えば錆は防げても石より更に重くなります。そんな重いものが回るわけがない。
『始元の大魔導師』様の案自体はよろしいのですが、実現ができません」
諦めきれない俺、聞く。
「魔獣トオーラの骨だったら、なんとかなりませんか?」
ギルドのハヤットさんが答える。
「さすがに、無理かと。
トオーラは通常、人の身長の3倍くらいの大きさです。その体内の骨となれば、1本1本はさらに小さくなりますから、とてもこのようなものは作れません」
「じゃ、狂獣ってのがいるんでしょ?」
反射的に聞く俺。
新幹線並の生き物ならば、骨だってでかいはず。
なんなんだ、このドン引きの雰囲気は。
王様は天井を仰いでいるし。
そんな変なことを言ったかな?
ルーが説明してくれた。
「『始元の大魔導師』様、説明が足らなくて申し訳ありません。
魔獣トオーラは、この世界が開発しつくされた折には動物保護施設にいたものが、崩壊の折に逃げ出して今に至っております。そう言う意味では、生態も判っておりますし、リスクが高いとは言え狩りもできます。
それに対し、狂獣リバータは海に生息しており、その正確な大きさも生態も何も判っておりません。
生息地からは出てこないのです。
そして、もう1つ、リバータは豊穣の女神様の乗り物にして、海からの雲を呼び雨を降らせますので、昔から殺すわけには……」
ああ、そうですか。
いくら形ばかりとは言え、その女神様を祀る義務のある王様が天井を仰ぐわけだ。
じゃ、ダメかぁ……。
って……。
「殺さなければいいの?」
思わずオウム返しに聞く俺。
「とは?」
ハヤットさんが合いの手を入れるように聞く。
「えーっと、生息地が判っているってのは、そこ、岸から近くて浅いんでしょ?
で、ずっと生息地にいるのならば、同類の骨が浅いところに沈んでないかな?
それを回収するのは?」
「それが可能だとしても、我々の作業を狂獣リバータが黙って見てはいませんよ」
大臣が司会者業を止めて話す。
たぶん、王様の代わりに話さなきゃと思ったんだろうね。
ハヤットさんも言う。
「追い払おうにも、私達には『始元の大魔導師』様の持ち帰られたボートしかありません。また、棍棒程度の武器では、触られたほどにも感じないでしょう」
俺、コメカミを右手の人差指で押さえて、5秒ほど自分の考えを検証したけど、やっぱり成算ある。
「……殺さず気絶させて、浮き上がらせられるかも知れない」
どよっ。室内の空気が動く。
「『始元の大魔導師』様、それはまた、どういう方法で?」
エモーリさんが興味津々って感じで聞いてくる。
「私達が留守の間にも、
相当の数になっていると思います。
そのうち、東のトーゴの鍾乳洞の先の海辺に設置する
で、気絶ですから、作業は急がなきゃでしょうけど、その間に素潜りでロープを骨に結び、岸に向かって引っ張り上げれば。うーんと、効率的にやらなきゃならないだろうけど、無理ではないかも……」
実は、使うのは魔素じゃない。魔素と一緒にされた副産物の充電の方。
きっと、魔素流は海にも落ちている。けど、魔素で魚が浮くかは判らない。それならば、魔素をコンデンサに充填した時の、電気の方を使うと割り切れば、完全に俺の専門分野だ。
コンデンサを直列つなぎに繋げば電圧を上げられるし、並列に繋げば放電する電流の量を増やせる。
実は、これも、本郷が怒って断った仕事だったなぁ。
400V、5Aの電源が欲しいなんてオヤジが現れて、「なんでうちの会社なんかにそんな話を?」 って本郷が上手に聞きだしたら、電気ショッカー漁をやりたいって。
電圧で魚を痺れさせて、浮き上がったところを掬うって。
思いっきり禁止漁法じゃねーか。
コンプライアンス云々を説明しても、そのオヤジ、理解できなかったから、「お前が逮捕されたら、うちの会社が潰れちまう」って、本郷が判りやすく激怒して叩き出したんだった。
その時は、本郷がショッカーを叩き出したって、大受けしたんだよね。
でも、そのオヤジのお陰で、電圧と電流の値が判るよ。
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