第4話 御前会議 2
でもね、この提案でなんか、一気に雰囲気が熱を帯びた。
「ダーカスまでの輸送はどうする?」
「陸路で、狂獣リバータがいないところまで運んで、そこからはネヒール川を遡りましょう。
大きすぎるようであれば、引き上げた浜で加工し、軽くしてから運べばいい。
『始元の大魔導師』様からの資料によれば、この水車の直径は、人の身長の12倍、すなわち、この間
水車の直径は、水を運び上げる高さですから、これは小さくしたくない。
なので、さきほど、鉄で作れば重いと言いましたが、直径を通す主骨のみ鉄で作り、残りはリバータの骨で作るとなれば、強度と重さのバランスが取れるでしょう。
軸と軸受は、磨き抜かれた硬石であれば、常時濡れて滑ることもあって、そうはすり減らないはずです。
また、この構造であれば、狂獣リバータの骨の長さは最大でも避雷針アンテナと同じで済みます」
エモーリさんが一気にアイデアを話す。
つまり、水車の直径の丸と十字を鉄の輪と2本の鉄の棒で作り、その残りの扇形の部分はリバータの骨で補強して作るってことだよね。で、その主軸は、俺の世界で言う御影石で作るってことだ。
たしかに、それならば強度は十分だろうね。
エモーリさんは続ける。
「で、狂獣リバータの骨は、鉄と金でできた避雷針アンテナより遥かに軽い。所詮は骨ですから。
人海戦術で、1本あたり数人で担いで持って来るのも不可能ではありません。
ネヒール川を運ぶのであれば、ゴムボートを前後につないで、水中に沈めて運べば、ゆっくりとしか進めないでしょうが、水没した分重さが減るので、なんとかなる気がします。
少なくとも、永続的な仕事ではなく、1回限りの50本輸送と考えれば、決して不可能じゃない……」
それを受けて、ハヤットさんのギルドの地区長としての発言が続く。
「では、泳げる人間を100人ほど、リゴスのギルドに求人を出しましょう。
コンデンサの確保はともかく、それを魔素をいっぱいにするのは、少なくとも次の魔素流来襲まではできません。その間に、人は集められるでしょう。
ここのところ、ダーカスは仕事が多く、払いが良いということで求人への反応が良いのですよ。
一旦ダーカスに来てしまえば、立て続けに仕事を受けられて移動費用も要りませんからね。生粋の冒険者ならともかく、大部分の求職のためにギルドに居る人間は、少しでも落ち着いた生活がしたいものなんですよ。
もっとも、ギルドの仮眠所は、もうどうにもならない程いっぱいですが。
我が王よ、廃墟と化しつつある古い家の利用を許可していただけると助かります。
また、数人で家を管理してもらえば、先々人口と労力の確保にも繋がるでしよう」
王様、鷹揚に頷く。OKってことだ。
じゃ、うちも2人くらい引き受けて、掃除して貰おうかな。
もっとも、病人と若い娘がいるから、女性の方がいいかな。
スィナンさんも言う。
「エモーリ製作所から、従業員をいくらかでも貸してもらえませんか?
こちらは、従業員が少ない。しかも、1年は情報漏洩をさせないという方針ですし、うちはその秘密がたくさんあるので、ギルドに人手をお願いできないのです。
ともかく人手さえあれば、ロープはヤヒウの毛編みに防水した強度の高いものを用意できると思います。
ゴムボートというものも、昨夜見ましたが、そう複雑なものではないようです。次の魔素流までに、数隻であれば作ることもできるでしょうし、できたものからコンデンサ輸送と
これは川の流れに乗った下りのみですから、極めて楽でしょう」
なるほど。
ゴムボート、製作可能、と。
スィナンさんは続ける。
「また、エモーリのお言葉をひっくり返すようですが、王の許可が得られるようでしたら、常時の大量輸送を可能にするくらいネヒール川の河川流通体制を整えませんか?
車輪による陸上交通網の整備も進んでいますから、それを補強するように、海からここまでの河川輸送路も固めるのです。
河川輸送を固めておかないと、その先の海上輸送に話が繋がりません」
とスィナンさん。
うーん、ダーカスをハブとした陸上交通網の構想は、スィナンさんの原案だからね。
今回も、なるほどとしか言いようがない。
「その構想については、賛成ではあるが話としては後回しだ。今は給水の話を済ませてしまおう。
水車本体以外の用水路整備は、水車架台、揚水後の水路、それから給水設備まで明日から着工でも構わないわけだ。
石工組合には、避雷針アンテナを立てる時に使ったブロック石がたくさんある。それを組んで水漏れ処置さえすれば、時間もそうはかからずできるであろう」
と大臣。
「畑のどこそこまで水を引きたいという地図は、明日中に用意できます」
とタットリさん。
「その水路の末端を、将来的で良いので、街中まで引けないか?
街中の広場の片隅にでも、そう大きくなくてもいいから貯水池ができれば、生活上だけでなく、防災上も有利だ」
これは、王様。
そだね、今の地下水のみに頼り切りの状況から脱して、そこまでキレイな水でなくてもいい目的に使えれば、地下水位も下がらなくて済む。それに、火事が起きた時も水があるのはいい。
しっかし、王様ってのは、あちこちに目が届くゼネラリストでないと務まらないんだねぇ。
最後にヴューユさんが口を開いた。
「スィナン殿の、河川大量輸送を現実化すべしという意見に賛成だ。
そのゴムボートには、帆が張れれば、それに向けて魔法で風は吹かせよう。
昨日の魔素流でコンデンサはすべて満たされている。魔法の利用は無制限に近い。『始元の大魔導師』様が仰るとおり、頼り切るのはよくないにせよ、今回は特例としてよいだろう。
ただ、これもエモーリ式蓄波動機を船上で使えるようにして、輸送に関わる人間が直接に魔法の恩恵を得られるようにして欲しい。魔術師が輸送の全便に同乗するのは、現実問題として不可能だ」
そりゃそうだ、な。
蓄波動機、魔術師の保護の目的で作ったけど、
ヴューユさんは続ける。
「なお、『始元の大魔導師』様から出発前に聞かれた、製塩魔法の復活ができている。
2つ目の肥料の問題に先走るが、海の底にも草が生えると聞く。また、それを食する小動物もいるだろう。
そのような雑多なものも含め、採れた海産物はすべて河川大量輸送によってダーカスに運ぼう。食料になるものや利用できるもの以外は、製塩魔法で塩を抜いた後に腐らせて、野山に撒こうではないか。これで、肥料の問題はいくらかでも片がつく。
付け足しだが、製塩魔法で得た塩は、重要な交易品になる。
なお、水が引けるまでの間、もう1回くらいであれば雨を降らせることも可能だということを伝えておく」
すげーなぁ。
話が早いってか、どんどん現実に動くものになっていく気がする。
でも、急がないと。
もう畑に作物は植わってしまっている。
水の供給は1日も早いほうがいいだろうし、撒いた海産物がすぐに肥料になるわけでもないだろうし、ね。
それに今年は不十分でも来年はより成功したいから、その基礎作りになることだしね。
最後に、ハヤットさんがもう1つ話した。
「『始元の大魔導師』様、ケナンを覚えておりますか?」
俺、頷く。
生まれて初めて喧嘩を買った相手だ。忘れるはずがない。
「トオーラの大腿骨、20本を持って戻っております。
なので、引き続き、ネヒール川沿岸から狂獣リバータの入り江までの、偵察調査に行かせたいと思います。15日で戻らせます」
それはいい!
さすがハヤットさん。
この議題について、王様が締めた。
「次の魔素流は小さいが、20日後だ。
その日までに、『始元の大魔導師』殿、狂獣を気絶させるやり方の目処を立てて欲しい。
スィナン殿はネヒール川の輸送に必要な船の目処を。引き続き、ゴーチの木の樹液については最優先で供給する。
エモーリ殿は、40日後の水車の実現を目指して欲しい。
大臣、タットリ殿は、用水経路の検討と、工事をすぐにでも始めてくれ。
水車の完成と同時に、畑地潅水の実現を目指す。
ハヤット殿は、人の割り振りと全体の調整を引き続きお願いする。
魔術師殿は、このそれぞれが成功するまでの、雨による繋ぎ、風による手助けを引き続きお願いしたい。特に、この後、午後の議題である、
以上だ。
王命、果たすべし」
俺たちは全員で、右手を胸に当てて礼をした。
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