第四章 召喚後90日、再召喚後から30日後まで(農業振興)
第1話 帰還、変わり始めた世界
気がついたら、見慣れた
タイミングが良かったんだろうか?
熱くも痛くもない。
帰ってきたよ。
木綿のパンツを持って。
聴覚が戻ってきたのか、きゅーきゅー、みゅーみゅー、みーみー、聞こえてきた。
横に、ルーがいるのも確認する。
魔術師さんたちを見下ろして、「ただいま」って。
どやどやと、たくさんの人達が
「魔素流の後のスパークが来るかも知れません。急いで運び出しを」
はぁっ、それは怖い。
高いところにいるから、すぐに手当り次第、
放りながら気がついて、「これはガラス!」って叫ぶ。
途端に受け止める人の顔色が青くなって、必死に胸で抱え込んで運んでいく。
ルーは、小動物たちを、慎重に床から背伸びしている人達に手渡す。
渡された荷物はすぐに、バケツリレー方式で
なにかを叫ぶ間もなかった。
荷物を不均等に投げ下ろしていたせいもあったのだろう。アルミの脚立が外された瞬間、俺はフレコンバックのてっぺんから転げ落ちた。
俺を受け止めたのは、ヴューユさん。
下敷きになって「ぎゅう……」とか聞こえてきた。
痛い。
「なんの恨みがあって……」
ようやく、下から意味のある言葉が聞こえてきた。
「火傷の恨みがないと言ったら嘘に……」
「それは解かったから、どいてくださいよ」
へいへい。
ありがとね。
その間にも、荷物は運び出されている。
2分とかからず、
外に運び出しきれない分は、まだ壁際にうず高く積み上げられているし、バケツリレーも続いている。
なんか……、帰ってきたんだなぁ。
実感が湧いてきた。
なんで、こんなに「ほっ」としているんだろう?
自分の部屋に戻った時も、こんな感じはなかった。
「浸ってないで、すぐに出てください!
後発スパーク、来ます!」
うわうわうわ、帰ってすぐに、あんなん見たくない。
周りを見渡したら、ルーが親父さんに捕まえられて、
俺もその後を追う。
背中で扉が閉じられるとほぼ同時に、ぐわんって、全身を掴まれたような衝撃が来た。
思わず見上げると、天空に浮かぶ
ああ、無事に働いているなぁ。
よかった、よかった。
その弧がすっと消滅した。
正直言って、怖いってことがなければ相当に壮大で素晴らしい眺めだと思う。
とりあえず、スパーク、終わりかな。
ああ、ひさしぶり、エモーリさん。
「まだ、ダメです。
『始元の大魔導師』様。
もう3つは来ますから……」
「えっ、3つ!?」
思わず口走るのに、エモーリさんは被せてきた。
「アンテナのために、ここに来る魔素の量がおそろしく増えたんです。
気をつけてください」
そか、そりゃそうなるか。
じゃあ、
天から、再び淡く輝く魔素流が降りてきて、再び避雷針アンテナに繋がる。
俺は、ただただ、それを見上げていた。
俺、この世界の自然現象を変えちゃったんだなぁ。
魔素流が去って。
気がついたら、エモーリさんもスィナンさんもいる。
ミライさんも、タットリさんも。
挨拶はできなかった。
いきなり後ろから目隠しされた。ついでに、手足を抑え込まれる。
藻掻くけど、まったく動けない。
「ハヤットです。『始元の大魔導師』様。
そのまま、ほんの少しだけご辛抱を」
そう言われて、俺、抵抗を止めた。
なにしろ『始元の大魔導師』様は「お貧弱」でございますから、なにをしても無駄だからね。
そのまま、軽々と持ち上げられて、ものの数十歩。
地に降ろされて、解放されて、目隠しが外された。
目に入ってきたのは、まだ淡い色合いながら、一面の草原。
おおおおおぅ。
すげーよ、草だよ草。
俺、駆け出していた。
まじかよ。
なんか、涙が出てきた。
ルーが草原を転げ回った時の喜びってのを、ようやく俺も理解できた。
近寄ってみれば、まだ小さい芽だし、土の方が遙かに多く見える。
遠くからだから緑に見えただけで、真上から見れば、まだ茶色が大部分だ。
それでもね、5日後、10日後、どうなるかってのは明確に判るんだよ。
牧草2種類の種、荷物の隙間に詰め込めるだけ詰め込んだ。計で40キロくらいは入れたんじゃないかな。
それが生えているよ。
「今日は、もう休憩されますか?
それとも、もう少しあちこち見てみますか? 『始元の大魔導師』様」
「見ます! 見ます!」
思わず叫ぶ俺。
ネヒール川の上流、安全圏のぎりぎり(予想より半径にして500メートルほども広かったよ)には、堤防が作られていて、その上にはニセアカシアが一列に植えられていた。
こんなに本数を送った覚えがない。
「切って、挿し穂を取ったんです。
ミライが植物の治癒魔法をかけると即座に根が出るので、『始元の大魔導師』様の送ってくれた5倍の数にして植えました」
それは、ズルいけど素晴らしい。
挿し芽だって、定植だってみんな季節があるはずだと思う。
でも、それをミライさんの魔法で、ある程度でもクリアできるのであれば、あっという間に数倍の数になってしまう。
しかも、これが一斉に咲きだしたら、この世界でも蜂蜜の甘味が満ちるよ。
コシヒカリもまだまだ少ない面積だけど、田んぼの予定地を見せてもらった。苗床に苗も伸びてきている。
サツマイモの挿し芽も、ミライさんが大量に増やしていた。
その他にも、たくさんの芽と、たくさんの根付いた苗。
葉野菜類なんかだと、早ければ30日後には初収穫が望めるだろう。
副産物の紙も、綿とかの植物繊維も、みんなみんな手に入る。
ただ、ただ、すごいよ。
豊かさが、足音を立てて近づいて来ている気がするよ。
3時間以上(今はスマホを持っているからね。時間は正確なんだよ)、みっちり歩いて、あちこち見て歩いて。
最後に王宮に着いた。
で、王様にあいさつ。
「『始元の大魔導師』殿、よくぞ戻ってこられた」
高い声で言われて、懐かしくってね。
そのあとに、いいもの見せてやるって。
なんじゃらほいって、王様のあとについて行って……。
国庫の倉庫だっていうんだけど、いきなり銀貨の山がひとつ無造作に積んである。高さ25センチくらいの小ぶりな富士山型だ。成層火山って言うんだって、中学で習ったような気がする。
「これが、皿の売上よ。
銀貨にして1万枚。皿一つが銀貨100枚にも相当した」
マジかよ。
俺の感覚だと、スープが銅貨6から7枚なので、銅貨1枚=100円って考えていた。
ただね、外食するってのはめちゃくちゃ贅沢なので、こっちで生活している人達の感覚としては1200円くらいにも相当する。だからこそ、スープ1杯でも満腹するように作られているんだ。
そうなると、ここにあるの、2億円!!
くらっ。めまいがした。
「すでに、4つの
ガラスと鉄の刃物にも期待している」
あまりに進展が早くて、びっくりだよ。
いったい、第一陣の召喚から第二陣の召喚の今日まで、何日の間が空いているのだろう?
「だが、あまりに重大な問題もある。明日、会議を開く。
『始元の大魔導師』殿のお知恵を貸していただきたい」
電気工事士の俺に、何を求めるんだよ?
農業のことなんか聞かれても、分かんないぞ。
でも、断るにも断れない。断れるわけなんかない。
なにもできないとは思うけど、まぁ行きましょうか……。
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