第10話 帰還3日前、準備その1
次の魔素流まで、あと3日。
前回の会議のあと、王様からヤヒウの肉の煮込みを掛けたハヤシライスみたいな料理が届いた。
ルーの親父殿も食が戻ってきて、ようやく一人前は食べられるようになっている。とはいえ、元々の体格が大きいわけだから、まだまだ少ないとは思う。
近頃、ルーが米の味を覚えてきたのが可笑しい。王様からの差し入れに、俺よりも大騒ぎする。俺が洗脳しちゃったのかなぁ。
こりゃあ、是が非にも、コシヒカリを持ち帰らにゃあかんでしょう。
包丁とコップと皿が100個ずつは、この国に対して肩入れし過ぎかもとは正直思う。
でもさ、俺が来るまでは、この世界、貧しくても平和ってか、大量消費である戦争なんかできないくらい貧しかった。さらに貧しくなったら、略奪戦争が始まったのかも知れないけど、そこは攻撃魔法の強さが抑止力になっていたんだろうね。
そんな理由とかは抜きにしても、「俺が来たから戦争が起きた」は、単純に嫌。
絶対にそれは止めて欲しい。
で、3つの国の交わる地であるこの国が平和だったら、少なくともその3つの国も必ず平和だ。
それでいいじゃんか、と。
どこか遠くの国のことまでは、責任取れないし。
包丁とコップと皿の100個ずつが、この国を平和でいさせてくれるのであれば、俺は後悔しないよ。
明日も
他の
でも、すでにこれも1000個を遥かに超える増設が済んでいる。トータルで無理くり5000個が見えてきているけど、そろそろ
どうも適正規模は3000個くらいだから、床下の床面積が足らなくなってきた。って、床下の床面積って……。うーむ、そうとしか表現できないけど、言葉ってのは不自由なもんだな。
もっとも、二重にすると下の段は見えなくなるわけだから、それはそれでメンテを考えると怖い。おまけに、このコンデンサ、材料が材料だから重さも相当なものだ。これを5000個支える強度のある床を、床下に新たに作るのは相当に大変だろう。石材では厚さがありすぎるしね。
10,000個を目指すより、さっさと次の
もっとも、安全は最重要項目だから、部分部分で配線はやり直した。ヒューズが作動しなかったら、すべてが壊れてしまうかもしれない。それを避けるために、コンデンサ500個ごとにヒューズを入れる方法に作り直したんだ。これで、何かあった時に、被害が他に広がりにくくなるはずだ。
あとは、元の世界からパーツとか、知識を仕込んで、より安全な方法を考えよう。
少なくとも、複数の
とりあえず、今日、俺は一番若い魔術師さんと打ち合わせをしている。
まだ、名乗ってもらっていないけど、年齢的にも俺よりも下で話しやすい。
電気の話をして、
湿度と経年変化、ディレーディング(定格以下での使用)だけは理解してもらったよ。
もう一つ、俺がいない間に、魔素流が来るとヒューズが切れちゃうからね。その修復方法も学んでもらった。
これで少なくともダーカスは、俺がいなくても魔素には困らなくなった。
ついでに、彼には、大変に失礼なことをさせてもらった。
若いとは言え一代貴族でございますから、立派なお屋敷に暮らしているわけで、そのトイレの壁に、サインペンでこの世界の数詞で九九を書き殴ってきた。俺が戻ってくるまでに、全部覚えておくようにって。
淀みなく記していく俺は、ルーとその魔術師さんの二人からドエライ天才を見るような目で見られたけど、そのせいで「俺の世界では、10歳になる前に全員が覚えなきゃいけないことなんだ」なんてのは言えなかった。
彼には、中学の数学までは勉強してもらおうと思っているので、まずはこれが一歩目。
で、俺がこの世界に戻ってきたら、4桁の加減乗除のドリルをやってもらって、そのあとは、関数とが図形とかも。
ま、教える俺がそんなにできるわけじゃないから、独習できる問題集を買ってこようと思っている。
そういえば、中学の同級生で、進学校から教師になったのがいるから、問題集を選んでもらってもいいよね。とはいえ、10年ぶり以上でいきなり連絡すると、引かれるかも知れない。こういう時、陽キャは羨ましい。
高校レベルの数学になると、完全に俺自身が怪しいので、本から独習してもらうしかない。
一方で、ケナンさん(仮名)のパーティーは、魔獣トオーラ狩りからまだ戻ってこない。
こちらが出発する前に、トオーラの骨が確保されたのを見たかったけど仕方ない。蓄波動機もお預けだ。
もっとも……、狩った動物から取り出したばかりの骨って、生々しくてダメかも。
俺、豚のスペアリブぐらいならば喜んで食うけど、それでも後ろ足丸々1本とかだと、結構えげつなく感じるかも知れないね。
ただ、出発前に否応なく確認できることもある。
次の魔素流が来て、俺とルーに派遣魔法がかけられる直前に、この間設置した避雷針アンテナが機能するかは判明する。
今までの手順よりも早く魔素流が
この
今は、最大で3kmくらいしかないんだ。
あと、「タットリさんが、仲間の農家に声を掛けて」というのは、魔素流がこちらに向かってくる際と、ここから去る際と、両方の地点を記録したいからだ。
そうすれば、おおよその安全地帯の円が描けるし、それが済めば耕作も始められる。
今はまだ、安全地帯の面積を増やせた達成感と一緒に帰れるかは判らない。
ヴューユさんと話して、いろいろを召喚という形で持ち帰る際の問題も解決した。
正確には、解決したことにした。
だって、「やってみないと判らない」ってことが多すぎるんだ。
でも、解決したことにできたのは、いいアイデアがあったからだ。
人間を1人とか、大量の荷物をなんて複雑さや量があるならば大変だけど、紙一枚ならば召喚も派遣も、大して魔素を使わない。魔素流の規模がなくても、コンデンサの魔素で十分にフィールドを作れそうなんだ。
ということは、あらかじめ時間とか、封書の形態は決めとかなきゃだけど、郵便が開通できるんだよ。
召喚する荷物の写真をデジカメで撮って、即プリントアウトして送れば、魔術師は明確なイメージを持って召喚魔法が使える。
だから、成功率はずっと高まるはずだ。
それでも、召喚には相当の制約もある。
召喚は、
さらに正確に言えば、そこには魔術師が立っているから、その面積も引かれる。
ただね、横のものも縦にすれば面積は減るからね。とはいえ、
あと、重さは問題ないらしい。あくまで、
あと、ヴューユさんを始めとする魔術師さん達が召喚魔法を使うときの明確なイメージについても、より解りやすくする検討が必要。デジカメの写真だけじゃ無理な気がしている。
というのは、持ち込むものが多岐にわたりすぎて、現実には写真を撮ってすら数とジャンルの広範囲さでイメージ化は無理。だから、できるだけ大きな
イメージ自体は必ずしも画像というわけではなくて、概念でも大丈夫なんだけど、さすがの魔素石翻訳でもあまりにこの世界に概念がないものだと訳せないし。
あ、フレコンバックてのは、建築現場で廃材とか捨てるのに使う大きな手提げ袋のことだ。もちろん手提げ袋ってのは形がそうだというだけで、1トンも入る巨大な規模だから、ユニック車のクレーンで持ち上げて運ぶ。
この袋なら、俺の記憶に嫌ってほど残っているから、魔術師さんたちに事前にイメージを伝えられるし、魔術師さん達に写真を送ればさらに確実にできると思うんだ。
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