第8話 再び無双。そして基本計画の見直し?


 

 「いにしえの円形施設キクラは、ネットワークを組んでいたって話はないですか?」

 「ネットワークとは?」

 「うーんと、各円形施設キクラは、太い線でお互いに繋がれあっていた。みたいな話です。

 今でも、円形施設キクラはそれぞれの街にありますし、それぞれの街を結ぶ道も昔から変わっていないでしょう?

 その道に沿って、私が作った電線みたいなものが埋まっていたり、空中にあったりしませんか?

 電線自体でなくても、空中架線のための等間隔な柱の痕跡でもいいです」


 俺の食い気味の説明に、ちょっと引きながらもギルドの若い衆が手を上げてくれた。

 「ありますよ。

 柱かどうかは判りませんけど、どこへ歩くにも道沿いに等間隔に塚があるので、そこで休むんです」

 昔の一里塚かよ?


 「そこに、何かを建てていた基礎とか石積みとかはありますか?」

 「ありますよ。

 石積みがあるので、日陰があって休むのにいいのです」

 「その石積みは、鉄の錆で赤茶色く染まっていませんか?」

 若い衆、二人とも顔色が白くなった。炎天下だと言うのに、血の気が引いたってやつだ。

 「『始元の大魔導師』様、仰るとおりです。

 ご覧になられることもなく、すべてをお見通しなのですね」

 「『始元の大魔導師』様、あなたのお考えは、どういうことでしょうか?」

 俺よりも食い気味にルーが聞く。


 周りの人達を慮ってのルーの口調だけど、俺、思いつきを整理するのでいっぱいで、それには付き合っていられなかった。

 「おそらくだけど……。

 3600個の円形施設キクラは、すべて金の線で繋がれていた。

 これによって、どこかで魔素流が地に降り注ぐと、それを受け止めた円形施設キクラから、魔素を他の円形施設キクラにまで分け与えていたんだ。

 1000億人もの人が魔素を使っていたら、円形施設キクラから魔素流を反射させなくて全部貯めていてさえも、たぶん使い切っちゃう。そのあと、10日とか100日とかも魔素なしじゃ厳しいよ。

 だから、この星のどこで魔素流が降ってきても、各円形施設キクラで魔素を融通しあって、魔素が切れないようにしていたんだ」


 エモーリさんが深く頷いた。

 「それはよく解ります。

 私たちは、円形施設キクラが繋がっているのを見たことがない。そういうものだと思っていますけど、『始元の大魔導師』様の仰るように、円形施設キクラを網状に配せれば、コンデンサに常に魔素を貯めておけます」

 「しかもです。

 配線経路の一定の距離ごとに、鉄の柱と金の配線、金の避雷針アンテナを持たせれば……」

 「なるほど!

 魔素流を面として受け止められますね!」

 これはタットリさん。

 魔素流を面として受け止めることは、広い農地の確保と同じことだからね。

 興奮もするよね。


 エモーリさんが聞く。

 「ではなぜ、そのネットワークが失われたのでしょうか?」

 「簡単ですよ。

 金の配線と金の避雷針アンテナがあったのは、地が魔素流で焼かれる以前ですから、金に価値があった時代です。食糧不足から起きた混乱期に、奪われたのでしょう。

 そして、鉄の柱は、100年もしないうちにすべて錆びて倒れた。

 まだ実験できてないですが、たぶん金は魔素を通すけど、鉄は通さないのでしょう。避雷針アンテナを支える柱まで金で作ると、魔素が地に逃げてしまう。

 だから、鉄の柱が倒れると、金の配線もアンテナも地に接して意味を失った。

 そうなると、奪われずに維持されていた最後の金のアンテナや配線も奪われることになるでしょうね」

 「なるほど、円形施設キクラの床下のコンデンサと同じですね。もしかしたら、屋根の上の避雷針アンテナも持っていかれた……」

 「はい」

 「円形施設キクラの内部文様が、金だったら危なかったですねぇ……」

 「まったくです」

 炎天下なのに、鳥肌が立つ気がする。

 俺、口には出さなかったけど、国同士の争いに負けて、円形施設キクラを破壊される時には、相当酷い略奪があったんだろうと思うよ。


 深刻な雰囲気になってしまったのを、ルーはなんとかしようと思ったのかもね。

 敢えてという感じの明るい声で言う。

 「では、どうしましょうか。

 新しい円形施設キクラの計画は?」

 「御破算でしょうね。

 建造しだす前で良かった。

 たとえば、今は、このネヒール川の街側に作る予定でしたよね。3つ目は東のトーゴの洞窟の先の海辺に作りたいなんて夢を語っていました。今のことから考えるのであれば、いきなりトーゴの洞窟の先の海辺を含む位置の高台に円形施設キクラを配し、ここの円形施設キクラとの間を避雷針アンテナを付けた金の配線で繋げば……」

 「安全な土地の範囲は、円形施設キクラが倍になったから倍ではなく、1つの円形施設キクラあたり遙かに多い面積が安全になりますね」

 「ええ、2つ目はそれほど効果がありませんが、3つ目以降は……」

 そう言って、砂の上に図を書く。

 「円形施設キクラが2つでは、あくまで線というか、辺しか作れない。でも、3つになれば、三角形という面が描けます。一気に利用できる土地の面積が増えますし、しかもその中に山とかを含めて、その山頂にも避雷針アンテナを設置できれば水源までが一気に安全になります。

 3つ目以降は、常に三角形を描けますから、大きな面積をどんどん安全にできます」

 「なるほど……」

 エモーリさんが口の中で呟く。

 

 「私は本来、電気というものの技術者ですが、不思議だったことがあります。

 コンデンサは元々電気を貯めるものですが、普通は数日から一週間で逃げてしまうんですよ。でも、魔素は逃げない。さすがにヤヒウのケーシングを使ったものは一週間くらいで逃げてなくなってしまいますけど、雲母のコンデンサの魔素は、一週間経ってもほとんど減りません。

 これって、凄いことなんですよ。

 この性質を利用すれば、相当に距離が離れていても、複数の円形施設キクラでコンデンサを持ち合えば、大量に魔素が貯められます。自然に目減りしないんですから、これは強いです。

 ひとつあたりの円形施設キクラの床下に置けるコンデンサが案外少ないのも、魔素流の来る間隔とかも含めて、これで辻褄が合うんです。

 当然、この星の大きさと、安全な面積とかの矛盾も解決です」


 「では、残念ながら、このあたりの土地の開墾は、少し先になってしまいますね」

 タットリさんが言う。本当に残念そうだ。

 工事の規模が遥かに大きくなったことから、時間がかかるって判断したのだろう。

 きっと、思い切り広い土地を耕してみたいんだろうね。とはいえ、先日円形施設キクラに避雷針アンテナ立てたから、すでに倍は広くなったのにさ。


 「いいえ、そうはなりませんよ。むしろ早まります。

 なぜならば、今の円形施設キクラから金の配線を伸ばし、このあたりにアンテナを立てればいいだけの話です。ここに新たに円形施設キクラを建てるよりは遥かに手早いでしょう。

 また、その線はさらに延長させて、その先に新たに円形施設キクラを建てる工程にすればいいんです。

 コンデンサも大量に作り、今の円形施設キクラに無理にでも置いておければ、新たな円形施設キクラができたら運ぶだけで済みます。豊かさは先取りできるんですよ」

 しーんとした。

 なんか、よく解らないけど、俺以外の全員が幸福感に浸っているみたいだ。


 「エモーリさん……」

 「言われなくても解っていますよ。

 アンテナ製作と、アンテナを支える鉄の柱の製作ですね。任せてください。10日でやります。ただ、その期間で作っても、次の魔素流には間に合いませんね。

 ただ、金の配線は太さも必要でしょうし、長さも街を囲むほどに必要でしょう。そちらのほうが大変でしょうね。さすがに、街の金の在庫が尽きるでしょうし……」

 そか、それほど憎まれるほどあり余っているものでも尽きるのか……。


 「私達が集めてきますよ」

 とギルドの若い衆。

 「金なんて、あるところにはいくらでもありますから、大丈夫です」

 「おお、よろしくお願いいたします。

 ハヤットさんには話をしときますから」

 「ありがとうございます。

 『始元の大魔導師』様、あなたの御心のままに」

 ……俺は神様かってーの。

 頭のいい人ならば、円形施設キクラによる安全な面積の問題なんて、もっと早くに気がついていただろうよ。

 それくらいの問題なんだけどね。

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