第7話 現地視察
面積にしたら、25平方kmくらいしかないのだ。与那国島とほぼ同じところで、800人が衣食住すべての自給自足をしていて、釣りや野草の採取は基本不可なのだから、条件は極めて厳しい。
正直言って、無理ゲーにもほどがある。
微々たる蓄えを必死に積み上げても、不作の年はすべてを食いつぶして振り出しに戻るのだろう。
ともかく、片道3kmちょい、半日フルに使えば、候補地の2つくらいは見ることができる。
どうしたって、候補地は川に近い方に寄るから、その2つは距離的にも近いしね。
作業服は暑いので、Tシャツになって、ルーとエモーリさんと3人で歩き出す。
革袋に、水を入れたのも忘れない。きっと、水がなかったら、歩きながら干からびちゃうからだ。
木々もないから、見通しはいい。
歩きだしてしばらくしたら、ハヤットさんから言われたっていうギルドの若い衆が2人合流した。それから数分遅れて、タットリさんが見えだす。
さすがに農作業で日々鍛えているだけあって、あっという間に追いついてきた。
ホント、見通しが良いと、待ち合わせとかの手数っていらないよね。
「放牧地と畑を作るのに、土地の質もあるでしょうから、候補地が良い場所かを見てもらいたいんです」
そうお願いする。
俺、初めて街を出たよ。
眺め自体は良いから、見渡して土地勘は掴んだつもりでいたけれど、実際に歩いてみるとイメージは結構異なる。
案外平らではないし、一抱えもあるような岩も多い。開墾は思ったよりも大変かも知れない。
エモーリさんが、「開墾用に、岩を動かす大型の車を作らなきゃ」って話すのに、全員で頷く。
おそらくは、ここは川の氾濫が定期的に起きているんだ。だからの、砂と岩。河原と変わらない。まぁ、当たり前ったら当たり前だ。山に木がないんだから、雨が降れば即洪水に決まっている。
家を建てる時に、給排水と電気は真っ先に確保されるべきものだ。農地だって人間が利用する土地と考えれば、状況は変わらないだろう。
ただ、街の飲料水は井戸に頼っているけど、農業用水は量的にそうはいかないだろうね。
山に木を植えるとなれば、
うん!?
話が可怪しいよ!
山に
確か、
よっぽどこの星が小さければ納得だけど……。
思わずしゃがみこんで、砂地に指で書いて計算を始める。
中1の数学だ。
3×3×π=28.3 ・・・
28.3×3600=101,736 ・・・ 世界の安全面積。単位はkm^2。
4πr^2=101,736 ・・・ 球の表面積からその半径rを計算すると、この星の半径は90km。
いくらなんでも、直径180kmしかない星じゃないよ、ここは。
そもそも、180kmって言ったら、本州の幅より狭いじゃねーか。
いくら海があったって、たとえ、それが陸地の十倍の面積あったとしたって、そんな小さな星、ありえない。
重力だの何だのの計算までは、俺にはとてもできないけど、もしもここがそんなに小さな星だとしたら地平線が急な弧を描いているはずだ。地球で見ていた光景に比べて違和感がないのだから、そこまで小さい星とは考えられないよ。
「ルー、確認させてほしいんだけど、昔、
いきなりしゃがみこんで謎の行動を取り出した俺を、遠巻きに見ていた全員が頷いた。ここの人達は、プラスマイナス以上の計算の概念がないから、俺がなにかの儀式を始めたように見えただろうね。
「間違いなく、3600個ですよ」
それでも、口々に答えてくれる。
そか。
昔話とかおとぎ話として、この世界の全員が子供の頃から聞き続けてきたことだったね。
「どう考えても可怪しいんだよ。
3600個の
大部分の土地は昔でも焼かれ続けていたはずなんだ……」
「3600個もあって、まだ足らないのですか?」
これはエモーリさん。
たぶん、他の全員は3600という数字を具体的に理解していない。ここは掛け算、割り算のない世界だ。
歯車を作るエモーリさんだけが、比とかをおぼろげでも理解している唯一の人だ。
「全然足りません。
100倍の36万個あっても、まだ足らない。
そろって呆然とされた。
ああそうか、100という数字は銀貨と銅貨のレートだもんね。いきなり規模の違いを理解できたんだろうな。銀貨100枚を銅貨にしたら小山のようだよ。
「昔、1000億の人口がいたことも間違いないよね?」
さらに確認を続ける。
炎天下で、頭を使うのにはぼーっとする環境だけど、それでも俺の計算は間違っていないと思う。
「ええ、間違いありません」
思わず、近くの岩の上に座り込んで、腕組みしてしまう。
一番簡単に説明をつけるとすれば、言い伝えられてきた数字が間違っているってことだ。
ただ、過去の繁栄まで嘘ってのは考えにくいよね。
ただなぁ、
また、東京タワー形式で、鉄塔の中に
規模が全然うんだから、大きい鉄塔の方のがきれいに忘れ去られているってのは可怪しいよ。
今の100倍も
また、3600個であれば破壊し尽くせても、36万個ならば完動品が1つや2つ残っていても良いかも知れない。
どう考えても、ただただ、ありえない。
「ルー、基本に戻った質問をさせてくれ。
「ええ、そうです」
「一部を利用して、大部分を反射させているんだよね。
そうでないと、そこの地が焼かれる」
「はい」
「今まで気にしていなかったけど、反射された魔素流はどこに行くかな?」
「さあ……」
うーん、
「夜に、
これには、タットリさんが答えてくれた。
「畑は魔素流で焼かれるギリギリの所まで作っていますけど、その線で、薄い膜みたいな感じで魔素流は降ってきますよ」
ん、さすがは、境目のフロンティアで生きているタットリさんだ。
結局は、周囲の地表に降りてくるのか。でも、エネルギーの密度が低くなっているから、問題は生じないのかもねぇ。
「
現に、魔素を貯めたりもできている。
……俺の知識からだと、2つしか可能性を思いつけない。
1つ目だけど、魔素流の反射だけを行うとしたら、
ルー、俺の疑問の根本は理解していないかもしれないけれど、考えて答えを返してくれる。
「無理だと思います。
魔術師か法具の制御がなければ、
『始原の大魔導師』様の蓄波動機があれば、自動での魔素流の反射もできるかもしれませんが、それでも
やっぱりな。
反射ってのは、なんらかの力場が必要だ。これは、単なるアンテナを伸ばせばいいというのとは違う。
「2つ目だけど、じゃあ、金の杭を地面深く掘って埋めて、魔素流をそこに誘導したらどうなる?」
「えっ、考えたこともないですが……」
「例えば、地下水源まで金の杭を伸ばしたら、魔素流は地表を焼かないんじゃないか?
そうすれば、農地や山の山林に
悩み悩み、そこまでなんとか口にする。
俺の横で、同じく腕組みをしたエモーリさんが異議を唱える。
「『始元の大魔導師』様の仰っしゃりたいことは、おぼろげにでも理解できているつもりですが……。
『始元の大魔導師』様の仰っしゃる金の杭が、例えば100万個あるとして、それによって陸地が安全になっているとして、です。なぜ、3600個しかない
また、杭を打って、魔素を地下に逃がしても、地を焼く熱量が広がり薄まるわけではない。また地下水の温度を際限なく上げることになったら、やはりどこかで歪みが吹き出すような気がします」
「エモーリさん、ありがとう。
指摘をもらわないと、こういう問題は、1人では推理しきれないので助かります。
ただ、この簡易な避雷針の増設というアイデアは、
あっ!
やっぱり、神様っているのかね。
将来、『始元の大魔導師』様の活躍が漫画になるんだったら、古い表現だけど、俺の頭の横に電球を描いて欲しいよ。
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