第33話 お祝いと報告、そして叙勲
その夜、王宮で、お祝いの会が開かれた。
初めて見る顔もたくさん。
で、とんでもない無茶振りがされた。
スピーチをしろって。
よりにもよって、この俺に、だよ。
いくら魔素翻訳のお陰で、この世界では話せるようになっていると言ったって、俺はね、内気・消極的・人見知りのコンボなんだからな。
スピーチなんぞ、できるかってーの。
でもさ、考えてみたら、現状の説明はできる。てか、それはしないといけない。
それに、お礼を言いたい人もいる。
だから、スピーチではないけどって前置きして、以下の報告をした。
1、
2、
3、魔素流の対処に魔術師の犠牲はもうなくて済むこと。
4、現在、大量の魔素のストックがあって、当面の間、魔術師も呪文による消費があっても困らないこと。
5、その魔素のストックは持ち歩きができて、ギルドの冒険者達が魔獣トオーラと戦っても、ほぼ生きて帰れるようになったこと。そして、これは、ギルドの依頼に限らず、他の目的にも使えること。
6、王様を始めとして、魔術師、ギルド、街の職人さん達すべてに感謝していること。
以上、6項目。
1つ1つ、拍手をもらいながら話したよ。
そして、次にエモーリさんを指名した。
エモーリさんも、人に話すのが上手い方じゃないんだろうけど、やはり報告ならばできるからって、続いてくれた。
1、魔法を使う時の、魔術師の手から出る魔素の波動の記録に成功したこと。
2、蓄波動機を蓄音機として生産できたら、恐ろしいほどの高額商品として売れそうなこと。すでに、商人組合の後ろ盾のある複数の旅商人から、具体的な引き合いが来ているとのこと。
3、家庭用の反射傘の注文が300を超え、この国、この街の竈の数に匹敵する勢いだということ。
4、反射傘については、ほぼ同数の引き合いが、旅商人から来ていること。
5、大規模な反射集光炉によって、鉄の溶融が可能になり、まずは農地拡大に対応する鉄製農具と、『始元の大魔導師』様からの依頼のネコ車の試作を始めたいこと。
6、ネコ車ができれば、荷を自分の背に負っていた旅商人や、他地区のギルドからも莫大な受注が望めること。
7、エモーリさんの父親の新たな遺言状が見つかり、そこで身を慎み一切の歌舞音曲を遠ざけて生きるようにと記されていたこと。
以上、7項目。
最後のは、誰も信じていなかったけど、まぁ、許してやる頃合かなって感じになった。この世界はツッコミは激しいけど、尾を引くこともないんだよね。
そのあとは、スィナンさんにスイッチ。
1、ゴーチの木の樹液の扱いに習熟し、硬軟自在な素材生産ができるようになったこと。
2、ヤヒウを飼う者たちや旅商人だけでなく、この街の住人からも雨具、履物の引き合いがあまりに多く、すでに500を超えていること。
3、エボナイトによる自由造形が可能になり、木材喪失後、初めての金以外の軽い加工素材が産まれ、産業革命が起きつつあること。
4、ゴーチの木の樹液に硫黄を混ぜたものを焼き付けることで、賢者の石の影響を防ぎ、金属の金化を抑えることができたこと。
5、エモーリさん製作のネコ車に関連して、タイヤというものを作ることができ、初めて岩石砂漠でも実用に耐える車輪が作れそうなことから、二輪、四輪と、発展が望めること。
6、スィナンさん自身の分を超える発言だという前置きの上で、この国ダーカスを中心に放射状に道路整備し、タイヤによる荷車と組み合わせることで、交易の中心としての地位を確立するのは極めて容易なこと。
以上6項目。
最後の提案は、王様から、スタンディング・オベーションが出たよ。
ハヤットさんが、「世界を救える男」ってスィナンさんを持ち上げたのって、もしかたら半分マジだったのかもね。タイヤはともかく、交易路については、俺、なんも考えてないし、当然なにも言ってないからなぁ。
ハヤットさんからも、ギルドについて報告。
1、魔素の持ち歩きができるようになり、魔獣トオーラ狩りがある程度の成算を持って行えることから、他国からのクエストに値する依頼すら、相当する額で受けることが可能になったこと。
2、いわゆる本職の冒険者以外の、仕方なくギルドに属していた者たちの労働意欲は高く、ようやく若者に未来と夢を与えられたこと。
3、ただ、ギルド地区長の総力を持ってしても、労力不足はいかんともしがたいこと。
4、現体制からの拡充を図り、他の国、他の街からの冒険者もしくは労力を集めないと、すべてが破綻するリスクを感じていること。
以上、4項目だけど、確かにここ、ダーカスの人口は800人だっけ。
農地が増え、工業受注が増え、道路整備をしてって、どう考えても人手的に無理じゃん。
そもそも、王様の予算が足りるのかいな。整備してからの税収だから、資産をすべて食いつぶしかねない。
あ、それが見えていたから、ここのところやたらとガメつかったのかな?
そして、ルーからも魔術師を代弁して。
1、魔術師は、全面的に『始元の大魔導師』への協力を惜しまないこと。
2、魔素の確保ができたことから、今まではノブレス・オブリージュの務めを果たしきれないこともあったが、今後はほぼ全てに応えていけるだろうこと。また、ノブレス・オブリージュに規定されない魔法についても、全面的に受託が可能であること。
3、現時点に限るのであれば、5万人都市リゴスを超える魔法防衛力があること。4人しかいなくても、コンデンサに魔素がある限り、呪文無制限状態で世界最強とのこと。
4、ただし、ノブレス・オブリージュに規定されない魔法の依頼件数が増えると、報酬や優先順位の調整が不可欠になるため、魔術師全員がギルドに属すことを希望する。雑事で魔術師が魔法を使う機会が奪われるのは損失であり、ギルドの事務方にその調整を一任したい。
また、ギルドに出された依頼のうち、魔法で対処可能なものについて受託をすることで、人員不足への対策の一助となればと考えている。
5、魔術師親族で教養がある者に、教育というものについて伝承を済ませた。具体的な書籍があり、場所の確保ができれば、学校開設はすぐにも可能。
6、
7、魔素と生命力の関係にあらたな発見があったこと。魔素の使いすぎによる健康被害は、未だ確認中ではあるけど、改善が望めるかも知れないこと。
以上7項目。
これも、拍手をもって受け止められた。
ただ、きな臭い話もあったから、悩む項目は増えたよね。
前の時代の轍を踏まないって、やはりいろいろ考えなきゃだよ。他国に
最後に、予定外に王様からも話があると大臣が告げた。
一気に室内が静かになった中、王様の高い声が響いた。
まずは、国外政策に対して。
1、1年後を目処に、この大陸に残るすべての国に対して、平和条約締結と相互の出資による道路敷設を条件に、技術供与を考えていること。1年の間に、この小さな国であるダーカスが他国から呑み込まれない体制を作りたいこと。
2、数年に一度でも、各国元首にここダーカスに集ってもらう機会を作り、平和条約締結を更新すること。これにより、交易とともに政治でも中心国になり、この国の平和を守ることに繋げたいこと。
以上の2項目。
王様は、世界の中心にこの国を据えて、国連を作る気かよ。
最古の王家という権威は、こういう使い方でならさらに活きるかもね。
次に国内政策に対して。
1、徴税について、これより一律減税を行うこと。
2、これからの道路整備等に必要な額については、鉄の専売と国債の発行で賄うこと。
3、徴税官の試算によれば、減税しても、あまりの好景気で経済規模の拡大が望めることから、国庫収入は増えること。
4、ギルドの報酬表の見直しをして、報酬額を増やすこと。この増額分は国庫から支出する。これにより、冒険者の他国からの流入を促進する。
5、現在の地区ギルドに登録されている、この国出身者の中から職員として3人を増員し、その人件費の全額を1年間、王宮で負担すること。2年目からは半額を負担する。
6、王宮警護の人員と軍兵、警察の間で業務の整理と人事交流を進め、おそらくは生じるであろう他国からの新たな多数の冒険者の流入に対し、治安維持に務めること。
7、王者の務めとして例年行われてきた、他国で売買されている奴隷を買い取り、解放し仕事を与える事業を拡大すること。
新たな人口流入はギルドを介するものであり、冒険者の男女比から男ばかりが増えることが見込まれる。なので、予想される男女数のアンバランスの補正を、これをもって行う。
特に、新設教育機関等で見込まれる、女性労働力の深刻な不足をこれで是正する。男女比の均衡は、行き過ぎた風俗業の発展を抑制し、次の世代に繋がる繁栄の礎になるだろう。
8、人心の安定に食糧の確保は不可欠なので、早急に『始元の大魔導師』殿に
9、『始元の大魔導師』殿への叙勲。
10、最後に、これらは即日公布、施行されること。
で、叙勲ってなに?
勲章でもくれるのかいな? 勲章って、胸につけるバッジだよね。あまり要らないかも……。
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