第19話 学校も作ろう
「さらに、先の話になりますが、知識の元となる書籍については、基礎知識がなければ読んでも得られるものも得られない可能性があります。
社会を支える柱が増えると利潤も増えますが、当然そのためのコストが増えます。特に教育は、とてもとても重要です」
俺、中学生のとき、数学なんて必要ないと思っていたけど、数学ができないと電気の仕事は無理だった。だから、結局のところ、資格を取るための勉強と並行して、また資格をとったあとも理科と併せて勉強し直した。中学の時にもっと頑張っておくべきだったと、激しくあとの祭りの後悔をした。
結局、後から勉強するならば、学校で習うその時に勉強しておいた方が、人生の効率は桁違いにいいんだ。
俺の学歴は工業高校出だけど、中学の時に今できている分の勉強をしていたら、三流大学だとしても、工学部に行けたかもしれない。そういう差を、あとから埋めるのは大変なことだ。
こんなロスは、個人の人生だけでなく、社会のシステムとしたらもっと大きなものになるだろう。
だから、良い学校はこの社会を効率化して、豊かにしてくれるはずなんだ。
「なるほど。
今の親が子に教えるのでは不十分だということかな?」
「はい、技術は高度になるほど専門性が増します。バランスの良い基礎知識の上に、専門の勉強をした方が効率的です」
学校を作り、読み書き、社会や歴史を教え、感覚で憶測しているだけの世界に理科と算数、数学を導入する。
そして、その学校を出た子達からならば、統一的な統計の基礎になる数字が出せるようになる。そうなれば、王様もそれを元に政治判断できて、社会の安定はより増すはずだ。
そんなことを、言葉を選びながら話す。
そして、最後に付け足す。
「それと、もう一つ、教育には、目に見えない効果があります」
そう言えるのは、俺が相棒の奥さんが、常々教育費とか月謝とかが掛かり過ぎるって、愚痴をこぼしていたことも思い出したからだ。
今はこの世界、小学校低学年くらいの子までが働いて富を生んでいる。これが学校へ行き、教育費が掛かるとなればマイナスになる。子供が働くことで得る富を見込む親が減って、これも少子化圧力になるはずだ。
そしてそのマイナスは、結局のところ、100年の間に大きなプラスとなって返ってくることになる。
そんな話をしながら、なんか、変な実感が湧いてきたよ。
なんかさ、不条理に満ちていると思っていた俺の世界、案外うまくできていた部分もあるのかも知れないな。もっとも、比較できる対象がなきゃ、考えもしなかったけど。
王様は、深々と頷いてくれた。
「『始元の大魔導師』のお考え、よく解った。
ついては、その学校というものの準備をするにせよ、親たちの抵抗は大きいだろう。
個々の親としては、実質的な損になるわけだからな。
それをクリアするためには、実質的な利を与えねばならない。
誰もが読み書きできるというのは魅力ではあろうが、それだけではな……。
話が最初に戻るが、
そして、もはやこの地域が焼かれる心配なく、耕作面積が増えるということが明確になれば、子供を学校に行かせることについても皆も納得するだろう」
大臣が異議を唱えた。
「我が王よ、ただ、致命的な問題が。
子供が学校に行き、耕地が増えるとなれば、どう考えても労力が足らなくなるかと」
「ギルドの仕事を抑えよう。
それだけで、かなりの労力が確保できる。
代わりにだが、魔術師殿、辺界の魔物を抑えるための魔法障壁の設置をお願いしたい。これについては、先程のコンデンサがあれば、今の民の治癒と並行して可能にならないか?」
「魔素の供給さえ確保されるのであれば、十分に可能でしょう。
ただ、我々の体内ではなく、
「それは当然のこと。
さらにだが、魔術師殿、『始元の大魔導師』殿の仰る学校というものが、今ひとつ余には掴めぬ。
魔術師は魔法を代々伝えるに当たり、教え育てる仕組みを持っていると聞く。
その仕組を拡大し、子たちに良き知識を与えてやれないだろうか?」
「それは可能でしょうが、実質、我々魔術師は4人しかおりません。
また、辺界の魔物退治も魔素があってのこと。
すなわち、
なんか、もう、俺は出る幕がないというか、出なくていいよね。
前向きの話が楽しいのは、どこでも一緒のようだし、王様とか大臣とかってのは統治のプロなんだろうから、もうあとは任せておけばいいんだ。
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