第6話 セファー・ラジエール

 全力で道を駆け抜けながらも着々と準備を進める。思考を一気に加速させ得られる情報量を増やす。一気に深い感覚まで引き出した所為か頭痛が起きる。

「ッ!」

 一度に入り込む情報の量に思わず顔を顰める。多すぎるしヤバイ情報が多い。普通に考えるにこの情報だけでも完全に世界が覆る可能性があるだろう。

「申請」

 無意識の内にその言葉を紡ぐ。届くはずのないその鍵は思わなぬ形で破られる。

 リュックから蒼銀の光と共に真白き本が飛び出てくる。そして高速である程度ページが捲れていきとある部分で示す。

『付近に該当者あり。第二段階まで許可』

「そうかよ。《アクセル》」

 本の光がこの身を包み心身共に加速させる。

 速度強化魔法アクセル

 天使ラジエルが綴し全知全能の書に記させれるはこの世の全て。

 かつて魔法が繁栄していた文明から継承されしその加護は移動速度だけでなく思考速度すらも加速する。

 それにより先ほど何とか捉えたその光景すらもスローモーションで流れる。


 先ほどの連中…【ゴブリン】が俺の通う学院の女子生徒を性的に襲っている。彼女は幾度となく抵抗したのだろうが左足と右腕が潰されている。そしてゴブリンの側には空薬莢があり彼女のすぐ側に拳銃が落ちている。なるほど。該当者とは彼女の事か。

「取り敢えず《レイ》」

 右手人差し指で1番近くに居るゴブリンを指し示すとそこを起点として一条の光線が穿たれる。

 光線魔法レイ

 これもセファー・ラジエールに記されし魔法。威力としてはそこまで強いわけでもないが光線という特性上分子では威力こそ減衰するが距離では減衰せず1秒の間に地球を7周半する速度で一体目を焼き尽くす形で暗殺するとその間に投擲で届く範囲になりもしもの為のナイフを左手で投げると同時に鉤縄も一緒に飛ばす。ナイフが手前のゴブリンの頭部を掠めて少女を強姦しようとした個体に刺さる。鉤縄はナイフが掠めて個体を巻き付き引き寄せる。


「破断」


 右拳を心臓に撲ちつけて右に滑らすように移動させる。すると何故かそのゴブリンは紫色の小さな石を残して灰となって消える。その不思議現象に驚く間もなく喉元を狙い蹴り上げる。

 蹴術 剛段

 超速度で走る動作の一部として放ったそれは喉笛を容易く屠り灰に変える。


 連中が驚く内に少女を背後に庇いながらも《レイ》と破断で1体づつ殺す。ただ残った連中は剣にしろ槍にしろ棍棒にしろ何かしらの武装をしている。幾ら彼女が該当者とは言えども誤魔化せる範囲でしか魔法は使えない。

「貴方は…精霊の方舟スピリット・ノア?」

 微かな少女の声が全世界でほんの1部しか知らないはずの言葉。

「ああ。何処まで知っている?」

「それなりには。超越者スペリオルと言えば分かる?」

「上出来だ」

 ズボンのベルトを引き抜くと僅かに魔力を流して起動させる。まるで蛇のようにウネウネと動く刃。

 連接剣や蛇腹剣などの呼び名があるそれは俺の意思に従い2体の首を直剣で刎ねると手首を特殊に捻るとそのタイミングで慣性に従い3匹を巻き込み剛段と《レイ》を用いて殲滅する。

「えっ…」

「…っ」

 連中が居なくなった事を確認すると思考加速などが一斉に切れてその場に崩れる。ただまだやるべき事がある。

「《フォースヒール》」

 セファー・ラジエールを彼女に翳して唱えると彼女が負っていた怪我などを回復させていく。

 数秒の後に完全回復すると同時に再び気を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る