第98話 偽善的かつ怠惰な不滅、画一的かつ傲慢な破滅

 背筋が凍りつく程の静寂を切り裂いて、赤い瞳を揺らしながらレグルは笑った。


「可愛いお花と一緒に世界から消してあげる……安心しなさい、世界もすぐにアナタ達の後を追うわ」


「悪いがまだまだやり残したことが沢山あるんだ……今は世界を終わらせるわけにはいかないぜ」


「……誰が相手だろうと、この花は守り抜く」


 北の不滅の前に立ち塞がったリエゾンが、怯える様子を一切見せずに言い放った。今の内に北の不滅を回収しておいた方が良さそうだが……そんな隙を見せた暁にはため息と共に砂漠の餌食になること間違い無しだ。

 かといってそのままにしておくわけにもいかないし、戦闘中のゴタゴタを縫って花を引き抜けば折角の手向けの花が折れてしまう。出来るだけ良い状態で回収したいのだ。


 だが、緊急時にはそんなことを考えている暇はない。無理やり引きちぎってでもアイテムボックスにぶちこまなければ不味い。俺らが死のうと、データは必ず残るはずだ。その状態でリエゾンさえ逃がせれば俺達の勝ちは確定する。

 だが、目の前の破滅は『アナタ達』と言った。俺達全員を見渡してそういったのだ。それが意味するところは「一人も逃がさない」という事だろう。


 墓地の面子が集まっても話にならなかった『堕落』の尖兵よりも遥かな実力を持つ破滅の主……一人を逃がすだけでもキツいか?この砂漠は全てが彼女の庭、或いは指先だ。手を向けるだけで砂漠に埋まった髪留めをこちらまで運ぶことが出来るのだ。

 この広大な砂漠の砂、全てがレグルの武器であり射程範囲……。


「なんだよ、クソゲーじゃねえか……」


「楽しみましょう?」


 俺の呟きに合わせて、レグルが片手を指揮棒を振るように動かした。その動きとリンクして、砂漠の白い砂が隆起して巨大な人間の腕を形作る。数は俺達と同じ五つだ。大きさも俺達と殆ど変わらない……チッ、小手調べにって感じか。舐められてるな。

 クスクスと笑うレグルの脇を通って、白い手が砂漠を泳いで俺達に突っ込んできた。


「リエゾン、下がれ!」


「わかった」


「出来るだけ相手は受け持つが、個人でも回避してくれ!」


「了解です」


「と、取り敢えず頑張るよ!」


「隙があればあの……レグルに向けて攻撃するのも手よね」


 手というか、そうしないとじり貧だと返して盾を構える。久々に本気にならざるを得ない盾役で鈍っていないかが若干心配だったが、構えた盾は間違いなく手に馴染んでいる。しかし、相手である砂の手は間違いなくモンスターではないだろう。スキルの挑発は恐らく効かない。ならば、本体に向けて煽りを入れるしかないだろう。


「『ディフェンススタンス』、『シールドバトラー』……さあさあ、遊んでやるから掛かってこいよ!」


「ふふ……ええ、遊んであげるわ」


 クスリと笑うレグルのしぐさに合わせて、三体の手がこちらに狙いを定めた。近づいてくるその姿にはかなり威圧感があるが、砂自体はダメージがないのでそれほど痛い攻撃はない……筈だ。少なくとも最も驚異的である砂の研磨性は無い。ならば所詮打撃のダメージだけだ。そう予測して、グーを俺につき出す手を受け止めた。


「……っと、予想通りそんなに痛く……っぅぉ!」


 受け止めた拳は確かに重かったが、脅威を感じるほどではない。これなら五体まとめて掛かってきても大丈夫だ、と安心した瞬間に、二体目の拳が突っ込まれた。今度は指を伸ばした貫き手の形だ。なんとか右に逸らして前を見ると、三体目がビンタするように平手を構えていた。


「くっ……!このくらいなら夜まで付き合って――」


「挑発を入れてる時間なんてあげないわよ?」


「んなっ!?『ダークボール』!」


 ターゲットを固定させる為の挑発を遮り、最初の手がさらりと溶けて俺の目の前で急激に起き上がってきた。慌ててダークボールを撃って破壊したが、手応えは全く無い。弾ける砂の向こうからすさまじい速度で貫き手がこちらに飛んでくるのを、横っ飛びでかわした。ガシャン!と大きな音を立てて転がり、なるべく速く立ち上がろうとしたが、その瞬間には三つ目の拳が無防備な脇腹に叩きつけられていた。


「『硬化』――ッがぁ!」


 横殴りの衝撃が肋骨辺りを抜けて鎖骨に、首に、頭蓋骨を通って体を蹂躙し、抵抗できずに吹っ飛ばされた。ぐるぐると視界が回り、誰かの声が聞こえる。痛みと衝撃に転がった先の地面がざざざ、と揺れた。痛みを堪えながら白い地面に爪を立てて体を止めると、俺の隣の地面が爆発するように盛り上がり、鳥を捕食するワニのように巨大な腕が地面を突き破ってきた。


 あぶねぇ――それを言う前に盾を構えていた。天を掴むように伸びていた腕がさらりと溶けて鋭い槍のようになる。なんとか弾くと、本当に砂かよと疑いたくなるほど硬質な音が響いて盾の表面が粉になって散った。


「くっそ密度高めてるのか……!」


「さあさあ、踊って? アタシの退屈をやわらげなさいよ」


「チッ! 『ダークアロー』!」


「ふん」


 笑うレグルに苦し紛れのダークアローを放ったが、着弾する前に彼女の白い手のひらが闇の一矢を掴んで握りつぶしていた。風船が弾けるような、ガラスを踏み潰すような歪な音を立てて弓矢が弾ける。お返しだとばかりに地面が波打って、小さな矢のようなものが大量に飛んできた。


「『ランパート』! ……なんだこれ? 魚?」


「可愛いでしょう?」


「余裕綽々かよ……」


 弾丸のように俺へと突っ込んできていたのは、よく見れば白い砂で作られたトビウオのような魚だった。こっちは本気で戦っているのに、レグルは飛ばす砂を魚に加工する余裕があるらしい。俺を通り過ぎた二体の腕を何とかしようと奮闘するシエラ達の声が聞こえる。


「リエゾン! そっちに行ったわよ!」


「いや! お前の足元だカルナっ!」  


「危ない――っく! ……そんなに簡単に形を変えないでほしいよ」


「『ダークボール』! 『シャドウスパーク』! 『盲目ブラインド』……ダメだよ!状態異常は効かない!」


「物理も殆ど効かないみたいだっ……!」


「ふんっ! ……駄目ね、手応えが無さすぎるわ」


「中に核みたいなものがあったりしないですかね?」


「スライムみたいに?」


「取り敢えず凌ぎつつあの女を狙え!」


「りょーかい!」


 随分とてこずっている様子だが、物理無効のシエラは確実に余裕を残している。何しろ相手の攻撃が全てすり抜けるからな。今回の鍵は彼女かもしれない……そうやって少し思考を巡らせていると、いきなり地面から剣がつき出してきた。

 反射で弾くとキィィン!と耳障りな音と共に剣先があらぬ方向へと吹っ飛んだが、その直後に刀身がふやけてしなり、俺の腕に絡み付いた。


「蛇かよ!」


 剣はあっという間に蛇に姿を変えており、ミシミシと籠手に絡み付いて腕をへし折ろうとしていた。慌ててダークアローを撃ち込んで蛇を破壊すると、今度は地面が急激に沈降する。見れば砂漠がすり鉢状にくりぬかれており、真ん中には煙と共に凶悪な顎を打ち鳴らすアリジゴクのような生き物がいた。

 ふざけんな――それを口に出すより先に砂が崩れて体が揺れる。このままでは不味いと足を動かしてみるが、STR、AGI共に最低な俺が鎧を着ていては全くもって前に進めない。


 舌打ちひとつにアリジゴクへダークボールやシャドウスパークを撃ち込んでみたが、当たる瞬間に地面に逃げ込みやがった。最悪なことにダークボールの衝撃で地面の砂が弾けて崩壊し始めている。

 シールドバッシュで前に進もうとするが、崩れる足場のせいで全く意味をなさなかった。そんな俺を嘲笑うようにアリジゴクはガチガチ、と巨大すぎる牙を打ち合わせた。このままでは喰われる。ダメージは看過できるだろうが、その直後に晒す隙が致命的過ぎるのだ。どうすれば……考える俺の脳内に、白い雷電が通り抜けた。


「……そうだ……お前が居たじゃないか!『強酸アシッド』!」


 こいつなら砂ごとあいつを溶かせるだろう。伸ばした俺の手のひらからそこそこな量の黄色い酸が弧を描いて飛んでいき、煽るアリジゴクの体に直撃した。その途端にシュワァァ、と大きな音が鳴ってアリジゴクの体が溶ける。


 よし、やってやった。酸は砂に対して有効なようだ。砂に対して有効な攻撃手段を手に入れられた……そう喜ぶ俺の足元がドロリと溶けた。完全に本能で飛び退くと、そこからアリジゴクの体が飛び出してきた。


「ま、マジかよ……」


「効くわけないじゃない。バカにしてるの? あんな水みたいなの、逆に磨り潰して消せるわよ」


 アリジゴクの淵にしゃがんでこちらを見下すレグルに苦笑いした。一瞬期待させてから潰すの好きなんだなお前。良い趣味だよ。俺に向けてニッコリと凶悪な笑みを残したレグルは、さあ次よ、と片手を構えた。それに呼応して、地面から幾つもの腕が伸びる。


 五体、六体、七体……本当に、さっきまでお遊びの感覚だったんだな。いや、それは違うか。……今も、お遊び感覚だ。楽しそうな笑みを見れば嫌でも分かる。白い歯を剥いて、レグルは心底楽しそうに言った。


「さぁ、次は何をしてあげようかしら……」


「優しいので頼む……」


「嫌よ」


 相変わらずの即答にため息を吐いた。レグルの手がひらりと揺れて、それと同時にすり鉢の上から腕たちが雪崩れ込んできた。こりゃあ早めに見切りつけて逃げないとダメだ。本能で確信して、盾を構えた。



 ―――――――



 地面が波打って幾つもの刃物に変わる。冷静に後ろに下がって回避すると、それらは一纏まりになって射程を伸ばした。舌打ち一つにそれをいなすと、先端がドロリと溶けて縄のようになり、俺の体に絡み付いた。

 それに合わせて拳を握った腕が迫る。体の縄をダークアローで壊しながらランパートで拳を防いだ。が、拳は盾に触れると柔らかく溶けて盾に絡み付き、力強くランパートを握り潰した。


 なんとか拘束から脱出してレグルに向けて牽制のダークボールを撃ってみるが、手の甲で叩かれて消えた。MPの無駄だったようだ。ダークボールが弾けた衝撃で跳ねた砂が小さなナイフのようになって飛んでくる。盾で受けようと思ったが、それらは盾に触れる前に進路を変えて俺の盾をかわした。ナイフ達は俺の関節をしっかりと撃ち抜いて、更にはそこでコンクリートのように固まる。


 動けない俺を覆い隠す程の巨大さを持った砂の巨腕が、大きく上段に構えられた。それが正確にヒットすれば、鎧を含めた俺の体は足で踏み潰されたアルミ缶のようになること間違い無しだ。深く息をして、動かない体のままで魔法を唱える。


「舐めんな…………すぅ――『ダークピラー』」


 途端に俺史上最大の火力が空に向けて解き放たれ、空気を潰しながら迫る拳を打ち砕いた。手首から先が欠損した腕が地面に叩き付けられる……と同時に周りの砂埃を吸い込んで形を変え、巨大なドラゴンの頭を模した。

 これは来るな、と思って盾を構えてバフを詰める。


「『ディンススタンス』、『バトルヒーリング』、『硬化』、『フォートレス』、『シールドバトラー』……」


 盛れるだけバフを盛り終えたのと同時に、竜の頭部が歪み、大きくその顎を開いた。途端にすさまじい量の砂がその口から放出される。それらは確かな質量で俺の盾を押し潰そうとして来るが……こんなものではつぶれない。


「本家のブレスの劣化版で、俺を潰せると思うなよ……っ!」


「ふーん、やるじゃない……で?」


 ブレスを全て防ぎきった……直後に撒き散らされた砂がその形状を鋭利な棘に変えて、360°全方位から俺を串刺しにしようと伸びる。正面以外は甘んじて受け入れ、棘を生身で受け止めた。ゴリッと体力が目減りするが、まだ行ける……まだ戦える。 

 全身を棘に刺されながら、レグルに魔法を放とうとしたが、その直前に棘がピリリと震えて――大きな爆発を起こした。


「ぐぉぉっ……!!」


「意味がないのよ」


 一気にレッドゾーンへと突っ込んだHPが、シールドバトラーの遅延回復で持ち直した。しかし、爆発と共に舞った砂塵が形状を即座に変えて俺を切り刻み、更に変化し腕となって俺を殴り飛ばした。衝撃に呼吸が止まるのを感じ、無様に砂漠を転がると、追い打ちをするように地面が爆発した。視界が真っ白になっている。爆発と共に砂が顔にへばりついて固まったようだ。


 打ち上げられた俺の体に容赦なく全方位からの攻撃が降り注いだ。殆ど抵抗らしい抵抗も出来ずそれらに弄ばれて地面に叩き落とされる。


 ここまでの攻撃は一分間の間に行われていた。息をつかせない所ではない、子供が玩具を扱うような手荒な扱いで、俺は吹き飛ばされ、切り刻まれ、体を拘束されては爆破され、抵抗を打ち砕かれて地面に叩き付けられた。

 立ち上がろうとすれば後ろから膝の裏を打たれて体勢を崩されて、前から拳が叩き付けられる。


 瞬きの間に俺の全身を強い衝撃と痛みが駆け抜けた。立てない、動けない。作戦を考えて動きを読むとか、そういった次元に勝負が存在していない。強すぎるのだ。

 あまりにもその手数が多すぎて、抵抗をすればその次の瞬間に攻撃が迫っている。

 じゃんけんで俺がレグルの思考を読んだ手を出した瞬間には、彼女が産み出した三つの砂の手のひらがグーチョキパーを同時に出して笑っているのだ。


 自分のすべての行動の先の先を取られ、後の先を取られる。あまりにも隔絶した力量差は、もはや拷問に近い戦いを生んでいた。霞む視界の最中にカルナ達を見つけたが、彼女たちも全身がズタボロで、シエラもMPが切れたのかおどおどと立ち尽くしている。途中で逃げるように忠告したのだが……やはり逃げることすら出来ないようだ。砂の壁が四方に張られている以上、逃げ道が存在していないのが問題なのだろう。


 北の不滅は……どうやら回収してくれたようだ。カルナか、コスタか……恐らくこの場で一番死ぬ可能性の低いシエラが持っているに違いない。


 何とか盾で目の前の攻撃を防ぐが、その瞬間に背中を切りつけられた。圧倒的な白の暴力はとどまるところを知らない。足に力が入らない。視界が半分欠けている。腕も殆ど上がらない。


 いつも俺が苦戦するときはそこに『疲労』があった。月紅の時しかり、防衛戦の時しかり……しかし、今は全く違うのだ。全身が痛い。苦しい。ダメージだ。ダメージが俺の体を蝕んで、確かに全身をぐらつかせていた。それでもまだ生きていられるのは……ああ、そうだ。『破滅』が手加減をしているからだ。出来るだけ長く楽しむために、彼女はきっと手を抜いて俺で遊んでいる。


 もはや無駄口を叩く余裕も無くなった俺の体を白い手がつまみ上げる。ぼやけた視界に映っている俺の鎧はズタズタで、盾も同じく凹んだり歪んだりしていた。今回はダメだ。俺がどうこうできる次元に無い。勝てる勝てないじゃなく、死ぬか死なないかだ。


 つまみ上げられた俺に、相変わらず笑顔なレグルが近づいてきた。


「手加減をしてるけど……頑丈ね? ますます気に入ったわ」


「……へへ、そうかよ……それに免じて逃がしてくれたりしねーかな」


「お気に入りのオモチャほど壊したくなるじゃない?」


「知らねえよ……普通大事にするだろ……」


「あら。価値観が違うのね」


 ニコニコと笑うレグルは、本当に生き生きしていて憎たらしい。彼女は笑顔を絶やさず、俺に聞いた。


「さて……ライチ、そろそろ終わりにしてあげるわ。アナタを救ってあげる。この世界から、永遠に……そうよ、悠久の安息をあげるわ」


「それなら最初から全力で潰せよ……」


「それは……」


 彼女には力がある。迷いなく戦えば、間違いなく俺たちを即座に葬れる力が。それなのに、レグルはそうしない。世界からの救済を歌いながら生ぬるい攻撃で心を折って苦痛を与えようとしていたり……彼女の行動は矛盾しているのだ。

 破滅を望みつつ、何故か破滅を選びきれない。なんて優柔不断なんだ。その曖昧な感情が、俺達の命を繋いでいることに変わりはないが、どこか違和感を感じざるを得ない。


「どうして……最初から本気を出さなかった」


「…………」


「まだ、迷ってるのか。あんだけ世界を破滅させるって言っておきながら……この状況はなんなんだ」


「…………確かにアタシは世界を破滅させるって言ったわ。……けれど、けれどねライチ。……アタシ、本当は――」


 レグルが張り裂けそうな顔で全てを暴露する寸前で、彼女は何かに気がついたように顔を上げた。その顔は驚きと怒りに満ち溢れており、空の彼方を見つめていた。釣られて俺も重い頭を動かすと、青い空の向こうから一羽のカラスが砂漠の上を飛んでいた。

 ただのカラスではない。俺の本能がそれを訴えていた。右腕の加護の光が強く共鳴するように煌めく。


「……アイツ……アイツだわ。あの女――『不滅』よ」


 燃えたぎる憎悪を滲ませて、レグルは言った。その視線の先でカラスがふわりと大きく羽ばたき、黒い霧に包まれた。霧はゆっくりと人の形を取っていき、地面に向けて降下していく。

 降りていく不滅……自分の姉に向けて、レグルは右手を向けた。途端に地面の砂が巨大な棘を形作って霧へと突っ込む。


 そのまま白い棘が霧を貫くかと思われた次の瞬間、霧から小麦色の女性の腕がつき出され、白い砂は力を失ったように地面に溶けてしまった。黒い霧をドレスに変えて、テラロッサが砂漠に降り立った。


「随分な歓迎じゃないの」


「煩いわ……アナタにはこのくらいがお似合いよ」


「酷いわね……まあ、仕方のないことだわ。大丈夫よ、あなたのことはちゃんと分かっているわ」


「知ったような口をきかないで! あぁ、イライラするわ……!」


 怒りを露にするレグルに対して、テラロッサは平静を崩していなかった。自分の妹をあわれむような瞳で見つめる彼女に、レグルは尚更フラストレーションを積み上げていた。


 白い砂漠と青い空。ひたすらに無だけが支配するこの世界で、白の女帝と、黒の主催者が向かい合った。その間の距離は歩くならば十数歩といった所だ。けれども、きっとこの世界が出来た時からお互いを知っていた彼女たちの間には広すぎる谷間があるのだ。だから、どちらも前に進めない。進まない。


 向かい合う正反対の双子は、『不滅』と『破滅』は、長い時の果てに何を語るのだろう。 

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