第29話 死した英雄は、尚も現在に吠え続ける
熾烈な攻撃を全ていなせば俺の勝ち。一つでも
今までのどの戦いとも違う。言うなれば、これはそう――対人戦だ。
「ヌァァァァッ!」
「無駄だッ!」
今までのどの攻撃よりも早く、鋭い。素人の俺でさえも、気を抜けば見惚れてしまいそうになるほど、無駄が省かれた完璧な突き。盾を持つ手を狙ったそれを、柔らかく盾の側面を使っていなす。
「『盲目』!」
「何ッ!?」
一時的に視界を奪った。吸収は戦いの最中に打っている。呪いと衰弱のどちらかにしようかと悩んだが、レオニダス相手にステータスを少し下げる程度では、大きなダメージ足り得ないだろう。小さく積み上げていったダークボールやダークアローによってHPは二割ほど削られている。
どのくらいで盲目が解けるのか分からないが、この好機を逃すわけにはいかない。俺史上最大の魔法を詠唱する。MPもそろそろ心苦しい。だから、おそらくこれがこの戦いで俺が出せる最高ダメージ!
「…………『ダークピラー』っ!」
「グヌゥゥゥ!!」
視界を失い、困惑するレオニダスの体を、黒い柱が覆い隠す。迸るダメージエフェクト。聞こえるレオニダスの叫びは苦悶に満ちている。HPが二割消し飛び、残り六割。これがMAGにもきちんと振ってるMAGタンクの俺の最高火力だ。
――僅かな油断。
作戦がまかり通った時のほんの小さな綻び。俺は、この戦いの相手が誰なのかを、一瞬忘れていた。幾百もの戦地を渡り歩いたであろう、戦場の英傑。死して尚、骸の将軍の地位を確固たるものにする、真の戦士。
「……ソコカ」
「な……ッ!?」
膨大なダメージエフェクトの海と、黒い光の濁流の奥底で、何かが煌めいたのを俺は確かに見た。青い火が、間違いなく俺の姿を射抜くのを見た。金の光が弧を描く――
「射抜ケ!『テルモピュライ』!」
「間に合わな……」
黄金が、俺の喉元を撃ち抜いた。その衝撃に踏ん張り一つできずに吹っ飛ばされた。呼吸が……出来ない。視界が明暗する。久方ぶりな青い光……視界の隅に映るHPバーは空だ。嘘だろ……? 一撃で500近いHP全部を吹っ飛ばしたのか?
しかし、全くの防御姿勢なしに、弱点の喉元を最高火力で撃ち抜かれたダメージが二倍ともなれば、これくらいは当たり前なのかもしれない。相手はエリアボス。現実世界ではギリシア中にその名を轟かせ、今も語り継がれる最強の豪傑、レオニダスだ。
ダークピラーの光が消失した先にいたのは、槍を手に呼び戻すレオニダスの姿。その黒い骨格には、少なからず傷が付いていたが、こちらへゆっくりと進む足取りは確かなものだ。
「認メヨウ、伽藍堂ノ騎士ヨ。貴殿ハ強イ」
「ありがとう。だが、レオニダス」
充分……時間は稼げた。軽く戦闘開始から一時間は経っている。あたりは静かだ。さて、正念場は終わりだ。
「……大事な相手を忘れてないか?」
「何ヲ――」
「『採掘』」
「眠れ!『
真後ろから必殺の一撃がレオニダスの両膝を砕き、真っ正面から銀の光線がその体を射抜く。遅いぞ、全く。心の中で苦笑しつつ、怠い体を起こす。俺の体は回復が早い。すぐにこの怠さも抜ける。
俺との戦いは前座でしか無かったんだよ、レオニダス。だから、俺との戦いで苦戦してたら、本番でガス欠になるぜ?
「俺は所詮、お前を止めるための盾でしか無かったんだからな」
「本当に、なーに格好付けてるんだか……」
「遅くなってすみません、ライチさん」
少し汚れたローブを着たロードが後ろから声を掛けてきた。ひょっこりとカルナも付いてきている。振り返って見た二人の姿は、俺と同じぐらいボロボロだ。感動的な再会だが、戦いはまだ終わっていない。
「さて、と……淑女のお二方。戦う準備は?」
「勿論よ。じゃじゃ馬な私はまだまだ暴れ足りないくらいね」
「ぼ、僕も……まだ戦えます」
「それじゃあ、俺も頑張るとしようか」
レオニダスの方へ振り返ると、彼はその体を
ゆっくりと立ち上がったレオニダスは骨の体を緩慢に動かして――こちらにもう一度金の槍を向けた。
不死鳥のようなその姿は、古の英雄と形容するに相応しい。レオニダスは先程までのカラカラに乾いたような声ではなく、生きた人間の、猛々しい声で吠えた。
「よくぞ我に土を付けた。……だが、我は
すかさず通知が決戦のラッパを打ち鳴らす。
【死した英雄は、魂の奥底で戦いの記憶に触れた】
【傷ついた体に、無限の闘争心が螺旋を描く】
【終わらないと、その記憶は呟いた】
【ならばきっと英傑は、死して尚も戦い続ける】
【エリアボス:骸骨将軍スパルティア『レオニダス』:
「さあ! 戦いを始めよう! この首欲しくば来たりて取れ! 骸の将軍、レオニダスはここに在りッ!」
槍を握り、盾を構え……そうして、死した英雄は、
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