エピローグ

 ろ号暴走事件から3ヶ月。

 防衛隊本部の補修工事がやっと終わり、整備班では御所ごせがメーカーと打ち合わせをしていた。

「で、いつの納入になるんですか」

「入札時の仕様書では、年度内導入ということに・・」

「テストしないと、テスト。テストもしない機体を実戦導入なんかできません。テストやって、実戦での稼働が可能となるのが年度内、で間に合わせてもらえますか!?」

「は、はあ」

「この3ヶ月で、対象生物の出現は5回!生身ではもうもちません。早く、この「は号」を実戦投入しないと」

「ですから、うちも誠心誠意、最終調整作業を・・」

「なんでもええから、はよしてくださいね、ほんま」

 関西弁が出るあたり、御所はかなりこの後継機に期待を寄せているようだ。


 二種装備無しでの対象生物戦闘に、一番頭を痛めていたのは大和であった。

「なあ、大路よ」

「はい?」大路は隊長室のお茶受けの煎餅を勝手に食べている。

「オレ、なにか悪いことしたか?」

「なんのことです?」

「どうしてこう、うちの隊ばっかり実戦を重ねてるんだ?」

「ああ、部隊規模あたりの戦闘回数が、今年度全国1位らしいですね」

「おかしいよなあ、奈良はもっと田舎じゃねえのかよ」大和は頭を抱えてしまった。

 ろ号無しでの戦闘は、隊員への負担が大きく、また緊張感も高い。

 隊員たちはよくやってくれており、今のところ目立った負傷者も出ていない。

 しかし、いつ限界が訪れるのかと大和は気を揉んでいた。

「まあ、隊長あれですよ。暴走させた責任は仕事で返せってことじゃないですか」

 大路は煎餅を食べ終え、お茶をすすっている。

「ああああああああああああああ」

 大和は首を何度も振って奇声をあげている。

「あ、隊長が壊れた」大路は楽しそうだ。


 二種装備「ろ号」を継ぐ、次世代機「は号」。

 開発自体はろ号の開発後期から進められていたというが、今回の暴走事件を受けて、そのロールアウトが早められていた。

 対する「ろ号」は凍結期間を経て、国の調査機関へ移送。徹底的に調べられることとなった。

 暴走原因は、当時三郷さんごうが予想したとおり、虹色水の微生物による浸食汚染とされているが、そのメカニズムは未だ解明されていなかった。


  ※ ※ ※


 関西国際空港、国際線のターミナルは、平日昼間とあっても、行き交う人でごった返していた。

 搭乗ゲートへと上がるエスカレーターに向かっていた高円たかまどは、ちょうど売店から出てきた三郷、五条を見つけた。

「あんた、もうちょっとまともな格好なかった!?」

 高円は三郷に厳しい視線を向けている。

「・・・だって、到着まで長いし。しんどいよ?」

 高円は上下黒のパンツスーツ。大きな橙色のキャリーバッグを引っ張っている。

 対する三郷はTシャツにスウェット、サンダル履きである。

「え?そうなの?」

 高円の海外渡航経験は大学の卒業旅行で行ったグアムだけであった。

 長時間のフライトは今回が初めてである。

「ま、まあいいじゃないですか。あ、高円さんこれ機内で食べてください」

 五条はジュースとお菓子を手渡した。機内持ち込み可のものを買っているところが、非常に五条らしい気遣いだ。

「あら、ありがとう。でもごめんね。休みの日なのに見送りに来させちゃって」

「いえ。でも、これでお二人にしばらく会えなくなるんですね。淋しいです」

「・・・・」

「あんたもなんか言いなさいよ」

 高円が三郷の背中を叩く。

「・・大丈夫だよ。高円さんがいてくれるなら、ボクはどこでも平気だ」

 三郷が急に飛躍した話をした。

 高円は咄嗟に視線を上にそらしている。顔が真っ赤だ。

「あはは。そうですね、お二人ならアメリカへ行っても大丈夫そうですね。また連絡くださいね」

「・・うん」


 三郷は、暴走事件解明のカギとなる微生物研究の主任調査員として、国の調査機関に出向中であったが、米国において類似の微生物が発見されたことを受けて、同国へ派遣されることとなった。

 高円の随行は、

「三郷みたいなのはアメリカに行ったら子供扱いだろう。いつ強盗に遭うかもしれん。誰かが側にいてやらんとな!」

という大和の提案(気遣い?)によるものだった。


「しばらく、大路くんのことお願いね。あいつ私がいないと、相当好き勝手するから」

「はい、わかってます」

「それじゃ、またね!」

 高円は三郷のキャリーバッグも引っ張って行ってしまった。

「・・え、あ、え?じゃあまた・・」

 三郷は五条に軽く会釈すると、高円を追いかけていった。

「ふふ」

 五条は微笑を浮かべながら、二人に手を振った。

 エスカレーターが上がっていき、二人の姿が見えなくなった。

 五条は踵を返すと、

(ほんと、淋しくなるなあ)

と感慨にふけろうとしたが、胸に入れていた携帯が振動しているのに気付いた。

 大路だ。


「はい、ごじょ・・」

「もしもし、五条クン?休みの日に悪いんだけどさ、非常召集。今度はでっかいクマが出ちゃってさあ。さすがに隊長もクマはやばいだろってことになって。全班出動だってさー。じゃ、よろしく!」

「あ、はい、すぐ行きま・・」

 五条が言い終わる前に電話が切れた。いつものことながら、五条は笑ってしまった。

「次はクマかぁ、大丈夫かなあ」

 言葉とは裏腹に、五条は笑顔のままだ。

 五条は携帯を胸ポケットにしまうと、早足で歩き出した。

 彼は戻る。彼が守るべき奈良のまちへ。


                                     了

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特撮系防衛隊の日常 黒井ごま @null2019

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