さらば!「ろ号」(4)

「お見事」

 大路が手を叩いている。

「次は、あっちね」

 葛城機は馬乗りになって、五条機と槍を間に力比べをしている。五条機の分が悪そうだった。

 高円は走って距離を詰めると、再度弓を構えた。

「五条君、聞こえる」

「はい、聞こえます。その矢で活動を止めれるんですよね」

「そう、だから出来るだけがんばって、相手の動きを止めて」

「わ、わかりましたっ」

 五条機は両足を葛城機の左足に絡めた。

「考えてるねぇ、五条クン」

「いいわ、そのまま」

 高円は一瞬息を止め、そして矢を放った。

 矢は真っ直ぐに葛城機向かって飛んでいく。

 矢が葛城機の右腕に刺さるかと思ったその瞬間、葛城機の頭部が90度回って、高円の方を向き、そして右腕に内蔵された小手で矢を払い落とした。

「ちぃっ」

 高円が舌打ちする。

「距離を詰めます」

 言うやいなや高円は駆け出したが、同時に葛城機は五条機から離れ、高円に向かって四つん這いで迫ってくる。

 五条機に絡めとられていたはずの左足が無い。足が抜けないから千切ったのだろうか。

 そして、高円の目の前まで来ると、右腕を大きくしならせ、素早く振り下ろした。とっさにトンボ返りして避ける高円。

 葛城機は次々に腕を振るって、執拗に高円を狙っている。

「くっ・・これじゃ」

 高円は間一髪のタイミングで葛城機の攻撃をかわしていたが、避ける一方で矢を射る間を取ることが出来ない。

「高円さん、矢をもらいますよ!」

 五条の声がした。

 いつの間にか、高円の後ろに回っていた五条は、高円の背中から矢筒ごと取ると、矢を取り出して、ろ号の右手に握らせた。

「とまれええええええ」

 五条は、葛城機の頭部めがけて、矢を突き刺した。

 矢が刺さった葛城機は、数秒の間、ピクピクと痙攣していたが、やがて動きを止め、そのまま突っ伏した。

「終わった」

 誰ともなく、そうつぶやいた。


 ろ号暴走事件の後処理は、防衛隊にとってかつてない試練となった。

 これまで、防衛隊の活動により街の建物に被害が出たことは、あるにはあったが、今回の被害とは比べものにならなかった。

 市民の直接被害が無かったのかせめてもの救いであった。


 防衛隊本部施設は半壊。

 二種装備ろ号については、追加配備された二機が大破。五条隊員搭乗にかかる一機も中破でメーカー送りが確定していたが、暴走の原因が確定されるまでは処分凍結となった。

 対して、搭乗員については、葛城、三輪の両名がそれぞれ全治1〜2ヶ月の重傷、即入院となった。

 高円、五条については軽傷のため、任務継続となったが、八木隊・桜井隊に欠員が出たため、当面は三交代制が維持できないと判断され、当直・非番が続く、地獄の二交代制がスタートした。


 三郷はというと、虹色水をむやみに持ち出したことが本事案のきっかけを生んだとして三ヶ月の停職処分となったが、彼がいなければ調査が進まないとの声が、研究部及び整備班からも上がり、停職は一月で打ち切りとなった。三郷は、その後、事態解明班の班長として復職している。

 御所は、いとしのろ号の無惨な姿に衝撃を受け、熱発。三日三晩寝込んだあと出勤して、

「夢の中でろ号にさよならをした」

とつぶやいたと言う。


 大路は、二交代制と聞いて、大和にこう進言した。

「班長は3人もいらないと思うんです。ということで、やむなく、ボクがしばらく休もうと思うんですが」

 どうでしょうか、と言葉を続ける前に、ゲンコツが落ちた。

「どアホう。事後処理で仕事は山ほどあるんじゃい。班長3人は順番で日勤じゃ!」

「もう、ホントやだ。このブラック職場」

 大路が涙目で言った。

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