さらば!「ろ号」(3)

 五条は葛城機の腕ごと槍を握り直すと、腕を突っ張って、葛城機ののしかかりに耐えた。

 機体の軋む音が混ざり合って響いている。

「くっ、このままじゃ・・」


 一方、大路・高円両名は、長くなった捕縄の両端をそれぞれが持ち、三輪機の右側面、左側面にわかれて立っていた。右が大路、左が高円だ。

 二人の行動に対して、三輪機は表面上全く反応しているようには見えず、大路隊がこの広場に到着してからずっと、上半身を小刻みに揺らしているだけであった。

「チャンス、チャンス。行くよ、高円チャン」

「了解」

 二人は示し合わせた通り、捕縄を三輪機の足首にかけると、お互いが円の動きをとって、足をからめとろうとした。

 高円が、三輪機の左脚下を通った。まさにその瞬間、三輪機の左手が伸び、高円の身体を乱暴に掴んで、ほうり投げた。

「・・ひっ」

 瞬間、受け身をとる高円。

 しかし、場所悪く、広場に出ていたオープンカフェのテーブルに直撃してしまった。

「高円チャン!」

 大路は叫ぶと、捕縄を三輪機の右足首に結びつけた。

「ちょっと、狙いとはちがうけど、これで!」

 高円が持っていた方の端を握り直し、大路は電磁捕縄の出力をあげた。

 バチバチという甲高い音がして、三輪機は左膝をついた。大路はさらに電磁捕縄を引いた。

 大路の計算では、

「右足首に電撃が走ってビックらポンしたところに、ひもをひかれてずっこける」

ということだったようであるが、思いの外、右足首はしっかりと地面についており、これ以上引くことが出来ない。

「手伝いますよ」

 高円は起きあがっていた。頬が汚れ、口元には血がついている。

「大丈夫なの、高円チャン」

「平気です、これくらい。いちにのさん、でいきますよ」

「えっえっ、まって」

「いちにの、さんっ」

 高円の合図で二人は力一杯電磁捕縄を引っ張った。

 そしてついに、三輪機は右膝も地面につけ、四つん這いになった。

「よし、このまま左足も結んじゃおう」

 大路の言葉とともに二人は、三輪機まで駆け寄ろうとしたが、三輪機は急に、ハイハイで走り出した。

 急激な動きに、捕縄ごとひきずられる両名。

 そのとき、

「高円さあああああん」

 これまで聞いたこともないような、三郷の大声が聞こえてきた。

 整備班の足代わりに使われている四輪バギーに三郷が乗っている。運転しているのは御所だ。

「高円さん、これを」

 大路と高円が捕縄から手を放して倒れ込んでいるところにバギーがやってきた。

「なにこれ」

 三郷が高円に手渡したのは、矢筒であった。矢が三本だけ入っている。

「三郷クン、これはなに?三本あれば折れないよ的なおまじない?」

「これであいつを撃ってください。それで止められるはずです」

「これで、あいつを?」

「はい」

「倒せるの?」

「・・・はい」

 いつもどおりの間の空いた返答に戻った三郷を見て、高円は数秒考えたが、

「わかった、あんたを信じる」

と言って、背中から弓を取り出して、矢筒を背負った。

 三輪機はハイハイ態勢のまま、こちらの様子をうかがっていたが、高円が弓を構えるのを見ると、そのまま迫ってきた。

「あらら、こっちに来るねぇ」大路はいつもの軽い口調でいうと

「北東の風、風速約1m」と顔を三輪機に向けたまま言った。

「了解」

という言葉とともに、高円は矢を放った。

 シュンッという鋭い音がして、矢は三輪機の左肩付近に刺さった。

 三輪機はさらに二歩ほど進んだが、急に動きを止めて、そのままうつ伏せに倒れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る