さらば!「ろ号」(2)
高円らが非常口までたどり着いたころ、2機のろ号は整備工場の出入り口シャッターを壊そうとしていた。外へ出て行くつもりらしい。
「じゃあ、三郷くん、ここで。あとは自分でなんとかして」
「・・高円さんは?」
「私は、今日当直だから、行かないとね」
そう答えた高円の顔は、もう三郷を見てはおらず、自身の装備をどう確保するかについて思案を巡らせているようだった。
御所は手元のタブレットに指を走らせている。
「よかった、まだ生きてる」
「葛城さんと三輪?」高円が尋ねる。
「うん、この端末でバイタルだけは確認できるんだけど、二人とも脈があるし呼吸もある。気絶してるみたい。でも、いつまでもつか」
それを聞くと高円は、本部出入り口へ向かって走り出した。
本部玄関前にはすでに改造アウトランダーが停車しており、横にはろ号が片膝をついていた。高円が車両に近づくと、
「訓練中の事故を想定して、うちのろ号をあらかじめ出しててよかったよぅ」
と運転席の大路が言った。高円が後部荷台に積まれた物品を確かめ、自分の装備品を身につける。
「五条クン、今日は搬送なしだからね」
「わかってます。すぐに追いついて、僕が止めます」
「うんうん、
「了解」
高円が助手席に乗り込むのを見計らうと、大路は車を出した。
すでに2機のろ号はJR奈良駅近くまで進出しているようだ。
「うちの地図端末に両機を見れるのがせめてもの救いだねえ」
大路は努めて軽く言った。
防衛隊の機体が街の建物や、まして市民に危害を加えるということがあっては、取り返しがつかない。
大路がアクセルをふかすと、高円はだまって赤色回転灯を車の屋根に取り付けてサイレンを鳴らした。
大路隊はJR奈良駅前の東側広場で両機に追いつくことができた。広場において、五条の機体が両機の前に躍り出るや、両機の挙動が明らかに変わった。
葛城の機体は四つん這いになっており、地面についている手は、すでに何本か指がとれている。
三輪機は直立しているものの、右腕は垂れ下がっており、上半身が揺れている。
五条は電磁槍を両手に持つと、その出力をあげた。
「五条クンはひとまず、葛城機の相手を。ボクと高円チャンで三輪さんの相手をするよ」
「了解」
「高円チャン、とりあえず捕縄出して」
「どうするんですか」
「三輪機、なんだかゆらゆらしてるし、うまく転んでくれるかも。ボクのと高円チャンのを連結して、足にひっかけよう」
「そう、うまくいくかしら」
「まぁ、モノは試しってことで。いくよ」
二人は降車すると、お互いの電磁捕縄の端と端を連結させ、長い縄とした。
五条は、葛城機に対面すると、槍を両手で構えた。幸い三輪機はこちらに興味はないようで、上半身を揺らしている。
「葛城さん、聞こえますか。葛城さん・・・ダメか」
意識を取り戻していたらと思って声を掛けたが、状況はそんなに甘くなかったようだ。
五条の落胆を知ってか知らずか、葛城機は間髪入れずに五条機へ突っ込んできた。
それを槍でいなしてかわす五条。
「葛城さんのダメージを最小限度にした設定って・・?」
五条は電磁槍の出力に悩んでいた。
しかし、その間も葛城機は何度も五条機に体当たりを仕掛けてくる。
その度に、紙一重でかわす五条。
「なにか、なにか止める良い方法が・・」
さらに体当たりをかけてきた葛城機を槍でいなそうとしたところ、突如、槍を掴まれてしまった。
葛城機の手はもう、両方合わせて6本しか残っていなかったが、その力はすさまじく、同じろ号の出力とは思えなかった。
「こいつ、このっ」
ろ号同士の力比べとなり、五条は懸命に槍を自分の方へ引き寄せようとした。数度、その押し引きの往復をしたかと思うと、突然今度は槍ごと強く押してきた。
五条は思わぬ力の反転にバランスを失って、仰向けに転倒した。
すかさず馬乗りになってくる葛城機。
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