インターミッション(7)
春日山での探索行以後、回収班は多忙の日々を送ることとなった。
まずは虹色水(最初のサンプル採取の際に、仮称としてつけた名前が定着している)の成分分析。
そして、その虹色水の成分と過去捕獲した対象の生体サンプルとの比較。
この2つだけでも、回収班の研究部門がフル稼働となっており、他の研究機関の助言を受けるかもしくは共同研究を行うべきだとの声が内部から上がっていた。
三郷は、虹色水の成分分析に専従しており、その未知の性質に興味の尽きるところがなかった。
三郷の身の回りで変わったことといえば、高円がよく研究部に顔を出すようになったことである。
「ちゃお」
「・・・こんにちは」
「三郷、あんたちゃんと仕事してんの?前の当直の時と、成分分析の進捗全然変わってないじゃん」
「・・こういうことは、着実に進めたい、のです」
「あらら、真面目ねー。もっと、虹色水の第一発見者として成果を誇ってもいいんじゃない?ま、この素晴らしいネーミングは私はつけたんだけど」
「・・安直に過ぎる、と思います」
「え?なんて」
「・・・いえ」
「思ったことがあったら言いなさいよ。あんたのそういうとこ、ホント心配してあげるわ」
このように、高円は当直や日勤のたびに研究部へ顔を出すと、三郷にちょっかいを出しては帰っていく。
仕事上、高円が研究部に行く理由はないので、何のために来ているのかは、誰の目にも明らかだったが、三郷は全く気づいている様子はない。
元来、変わり者として一目置かれていた三郷だが、この件はその名声をさらに高めることになった。
無論、高円の執着、もといぞっこんぶりにも隊内は仰天しており、異色カップル誕生か、との噂でもちきりとなっていた。
そして、こんな楽しい話を決して無駄にはしない男がもう一人いた。
大路である。
ある当直日、班員3名で当直室に詰めていると、大路が話し出した。
「高円チャン、最近研究部によく顔出してるみたいじゃん」
「別に、そんなことないですけど」
「班長としては見過ごせないなー、三郷クンのこと」
「え、三郷の何が関係あるんですか、意味わかんないんですけど」
「またまたー、隊内がその話題で持ちきりになってるの、気づかない高円チャンじゃないでしょ?ボクがリサーチしてあげようか、三郷情報??」
「べ、別にいいですっ」
「なんだいなんだい、つまんないなあ。ボクがキューピットになろっていうのに。大体、高円チャンさあ、意中の男にはもちょっと優しくした方がいいんじゃない?特にあの三郷クンみたいなタイプには・・」
ここまで話して、目の前の高円の目つきが戦闘態勢に入っているのに気が付き、
「ま、まぁ、色々だよね、うんうん。じゃ、ボクはこれで」
と大路は退散していった。
五条はふくれっ面の高円と取り残され、大変気まずい思いで当直を過ごすこととなった。
高円とて自分の気持ちに気付いていないわけではない。
ただ、山へ登った時にちょっと褒められただけで、ここまで思いこみを進めてしまっている自分には少し驚いている。自分はもっと、マッチョな武闘派が好みなんだと思っていた。だがそうではなかったようだ。
高円はそんな自分に戸惑っていた。
なので、もう少し三郷のことを知ろうと思って、研究部に通っているのだが、あの男は高円の目的に気づくどころか、研究の邪魔くらいにしか考えていない節がある。
そこが
なお、隊長の大和は、というと、隊員間の色恋沙汰などには一切関知せず、隊の業務進捗にだけ気を揉んでいた。
今、彼の心掛かりは虹色水と、ろ号の追加配備機体であった。
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