春日山原始林探索行(5)
回収班は、約1時間で到着するとの回答があった。
大和は到着を待つかどうか考えたが、ノネズミの拘束状況を丁寧に確認すると、目印のGPSを設置した。
「1時間くらいは大丈夫だろ。このまま探索を継続するぞ。他にもこんな奴がいたら敵わん」
「了解。行き先について、有能な三郷くんのアドバイスはあるのかしら」
高円はニヤニヤしながら聞いた。さっきの意趣返しをもくろんでいるようだ。
「・・ボクらが探索してきた方向と、ノネズミが現れた方向、それに原始林の植生をふまえれば、こいつらの寝床はそう遠くないと思うんだけど・・。もう少し、登った先、ぐらいかな?」
高円のイヤミは全く通用しておらず、三郷は自身の知見を目一杯に示した。またもや肩すかしを食らった高円はふくれつらだ。
「よし、ではもう少し登るぞ。先頭は高円、次に三郷、俺、五条は後抑えを頼む」
大和が的確に指示すると、メンバーは歩き始めた。
高円は、電磁警棒を右手に把持し、周囲への警戒を保ったまま進んだ。後ろの三郷は警戒などおかまいなしで、きょろきょろと首を動かし、森の様子を見ているようだ。
「あんたもちょっとは、警戒心とか持ったらどうなの?」
「・・・・」三郷はきょろきょろしている。
「ねぇ、ちょっと!」
「・・・・・」三郷はしゃがみこんで、土をいじっている。
「三郷!」
「・・え?」
「人の話、聞いてないでしょ、あんた」
「・・聞いてたよ。対象を警戒しろって話dしょ」
高円は頭を抱えた。
「聞こえてるなら、返事くらいしなさいよ。人と人とのコミュニケーション、これ、職場の基本でしょ」
「・・ごめん。気をつけるよ」
「素直にそういえばいいのよ」
「・・高円さんが前なら、安心でしょ。だから大丈夫だと思って」
「え」
高円は頬が赤くなっている。
「・・・ボクを守ってくれるんでしょ?違うの?」
「え、いや、ちがわないけど・・」
高円は頬がさらに赤い。
「・・じゃあ、安心だ。ありがとう、高円さん」
「・・・んっ、当たり前じゃないっ。感謝の気持ちを持っているのはいい心がけだわ」
高円は頬がとても赤い。そして言っていることがよくわからない。
「隊長、あの大きな木のうしろを」
五条が20mほど離れたむき出しの岩肌を指さしながら言った。
「む、あれは、穴か」
木陰になってわかりにくくはなっていたが、たしかに岩肌荷横穴が空いている。縦横2mはありそうなものだ。
「よし、入ってみるぞ」
横穴に入ると、足下には細くわき水が流れていた。かなり深く続いているようで、外からの光も奥までは届いていない。
「・・特に有毒なガスは検出されないよ」
三郷が手元の機械を操作しながら言った。
高円が左肩につけたライトを点灯させて歩き出した。そのあとに3人が続く。
期待と不安で胸を膨らませながら、進むと約20m進んだところで行き止まりとなった。突き当たった壁には小さな穴がいくつも空いており、チロチロと液体が流れ出している。洞窟の入り口にできていた小さな水の流れはここから始まっているらしい。
「なによ、拍子はずれね」高円は額の汗をぬぐっている。
「途中、横道もなかったしなあ。ちがったか。一旦、もどる・・」
「待って」大和の発言を三郷が遮った。
「これは・・」
三郷は小さな穴から流れ出ている液体に、自分のLEDライトの光を当てた。
「あっ」
液体は一瞬、七色に光ったかと思うと、すぐに輝きを止めた。
「なんだ、それは」
「わかりません、でも、これが何か関係しているのかも、それに・・」
今度はしゃがみこむと、三郷は、
「これ、ノネズミの体毛だと思います。詳しく調べてみないとわかりませんが、さっきボクらを襲ってきた個体のものかもしれません」
大和は顎に手をあてて唸ると、
「よし、下に来てる回収班をこっちにも回すよう言ってくれ。ここのサンプルを取れるだけとって帰隊する」
と高らかに宣言した。
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