春日山原始林探索行(4)

 高円の顔面めがけて振り下ろされる二本の前歯。

 高円がそれを電磁警棒で受け止めると鈍い音が響いた。

 五条は背負っていたリュックを乱暴におろすと、警棒を地面に平行に持ち、ノネズミに向かって一直線に駆けた。

 その攻撃は、警棒を使った突きというよりも、もはや体当たりに近かったが、警棒の出力を最大まであげての体当たりは功を奏した。横っ腹に体当たりを食らったノネズミは吹っ飛んで、今度は五条がノネズミに馬乗りする形になった。

 五条はノネズミの上に乗っているということに、生理的な嫌悪感を覚えつつも、警棒で喉元を抑え、ネズミの動きを止めようとしていた。

 しかし、次の瞬間、五条は左から強い衝撃を受け、3m先の木の幹に身体を強打した。


 2体目のノネズミの登場である。大きさは1体目とほとんど変わらず、口からはやはり鋭い前歯が見えていた。

 2体目は、倒れている1体目を気遣うそぶりを見せたが、すぐに五条のいる方に向き直り、四本脚となって飛びかかろうとしていた。

 高円は自分にのしかかっていたネズミがいなくなるや跳ね上がり、警棒を握り直すと、後ろから2体目ノネズミの臀部を思い切りひっぱたいた。無論、出力最大でである。

 2体目ネズミはその衝撃を受けて、完全にノビたようだった。

 高円はさらに、1体目のネズミの様子を見たが、すでに起き上がり、四つん這いになって低くうなり声をあげている。

 高円は、ノネズミをにらみつけると、ゆっくりとした足取りで、反時計回りに歩き始めた。

 一人と一匹のにらみ合いが続く。


 五条は起きあがると怪我の有無を素早く確認した。

 後頭部にズキンと痛みがあったので触ってみると、たんこぶができているようだった。その他、腕や脚に力を入れてみるも、一応骨は折れていなさそうだった。

 五条は、一応身体の無事を確認すると、高円の左側方に展開し、ノネズミに対して時計回りに歩き始めた。

 ノネズミは敵対する人間が、どちらも目線から消えるように動くのが気に入らないらしく、うなり声をあげて、どちらに注意を振り向けるのか考えているようだった。

 五条がネズミのほぼ右側面まで進んだとき、一瞬、ネズミが五条の位置を意識して、やや首が右へ向いた。

 高円はその瞬間を逃さず、ダッシュを仕掛けると、ノネズミの後頭部を電磁警棒で鋭く叩いた。

 すると、なにか骨の砕けるような音がして、直後、ドシンという振動とともにノネズミはうつぶせに倒れた。

 五条はすかさず、ノネズミに接近すると、捕縄を使ってその手足及び口を縛った。


 

「なんなのこれ。微妙なサイズねぇ。うちの管轄の生物かしら」高円が近づいてきて言った。

「どう考えてもそうなるでしょうね。世間一般人の感覚からすれば、1mだろうが3mだろうが、化け物は化け物。防衛隊の範疇ですよ」

 この場で一番のペーペーが何を言っているのか不安を覚えるところではあったが、五条は手際よくノネズミを縛っており、高円は少しだけ後輩の成長を感じた。


 2体の処置が終わると、三郷がそれぞれの個体を調べ始めた。

「ねぇ、それ、そんなに触って大丈夫なの。感染症とかないの」

 高円は手頃な岩に腰掛けて足を組んでいる。

「・・・」

「ねぇ、ちょっと聞いてんの」

「・・それを調べています」

「・・んっ」

 三郷の至極真っ当な回答に高円は言葉に詰まったようだった。


 大和は腕組みをしながら、

「これって痕跡かなあ」と言ったが

「・・これ以上の手がかりはありません」とすぐに三郷に返されてしまった。

「だよなあ。ま、出ちまったもんはしょうがねえ。五条、本部に報告を。回収班をよこしてくれと、そう伝えてくれ」

「わかりました」

 五条は、無線機のトーキーを取り出すと、本部への連絡を始めた。

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