春日山原始林探索行(1)

 春日山原始林探索にあたっての任務分担は次のとおりである。

 大和:部隊指揮

 高円:斥候及び回収担当

 五条:無線及び装備(荷物持ちともいう)担当


 この任務分担はメンバーが発表された時点で、皆が薄々想像していたものであったが、出発前日になって高円が異議を申し立てた。

「春日の原始林探索の重要性は理解できます。人選にもまあ理解できます。でも調査研究メンバーが現地に赴いた方が、対象痕跡の回収もはかどるんじゃないですか。まして私が回収担当なんて」

 大和は当初反論を考えていたが、高円の発言が回収担当に及んだところで考えが至った。


 対象生物の痕跡回収とは、つまり対象生物の生態を明らかにするものであり、その体毛や脱落した皮膚、食べ残しなどを意味し、特に糞などは、絶好の研究材料となる。

「つまりあれか、お前は、ネズミどもの糞を拾いたくねえんだな?」

 大和が直球を投げると、高円は3秒だまって顔を赤くし、

「ぜっっっっったいに、イヤ」

と言い放って隊長室を出て行った。

「やれやれ、まだ話は終わっちゃいねえんだがなあ」

 大和は頭をかきながらも、卓上の電話の受話器をあげた。

「あ、河合班長ですか、折り入って頼みごとが・・」


 こうした経緯から、春日山原始林探索隊には、回収班の三郷さんごうが入ることになった。

 三郷は過去の対象生物戦において、いずれも事後の回収作業に従事しており、その後の解析業務においても、新しい手法を生み出すなど、回収班内でも一目置かれた人物である。また、若干癖のある性格であることからも、一目も二目も置かれた人物である。

 三郷の飛び入り参加を聞かされた直後、五条は「あいさつをせねば」と生真面目に考え、回収班の作業部屋を訪れたが、多忙を理由に会ってもらえなかった。

 それならばと、三郷の卓上に電話をかけたところ、応答を得た。

「はじめまして、五条です。春日山、よろしくお願いします」

「・・・・」

「あ、あの」

「・・・はじめましてじゃない」

「え、あ、どこかd」

「これまでに2度会っている。じゃ」

ガチャン

と、要領を得なかった。


 出発当日、防衛隊本部玄関ロビーにメンバーが集合した。

 五条は熱心に装備の点検を行っていた。装備係という大命をいただいた以上、不備があってはならないというのが、五条らしい生真面目さではあるが、出発三時間前から本部入りしている五条にとって、それはもう5回目のチェックであった。

 対して身軽な高円は、捕縄や小手、それに槍の代わりに携帯することとなった電磁警棒の作動を確認していた。

 春日山原始林で対象生物に遭遇することは、先の大和の推論からいえば、ほぼありえないが、山林における危険が対象生物に限られるかというとそうではない。

 鬱蒼とした雑木林が続くことを想定すれば、槍よりもリーチの短い電磁警棒を使用する方が利にかなっていると考え、高円は警棒をチョイスしている。

 そして、自身の装備点検が一通り終わると、目線を5m先の男にやった。

 三郷である。

 実を言えば、装備の点検以前に、この場に三郷が現れたときからずっと気にはなっていたのだが、とりあえずは自分の職分をこなした高円であった。

 しかしもうそれも終わってしまった。終わった以上、高円も尋ねずにはいられない。

「ねぇ、あんた」

「・・・」

「・・あんた、三郷でしょ?」

「・・・うん」

「・・なんで白衣なわけ?」

 三郷は白衣をまとっていた。白衣の下には回収班の制服が着用されていた。いたが、その上には白衣であった。

「現場の回収班に、いつも白衣の変なやつがいるなあと思ってたけど、あんただったのね」

「・・白衣、好きなんだ」

「いや、好きかどうかは知らないけど、これから山に入るわけだし」

「汚れたら、洗う」

「いや、そういうことじゃ」


 五条は、しばらく二人のやり取りを見ていたが、この探索行パーティが前途多難だということだけは理解した。

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