インターミッション(6)
春日山原始林探索において、まず大和の頭を悩ませたのが人選であった。誰を探索メンバーとするのか。
防衛隊の組織構成で言えば、探索に専従する部隊は存在しない。よって、考えられるのは
①当直班員を使う
②日勤員を使う
③整備班
④情報部
が可能な選択肢となる。
しかし、どう考えても③には体力的な無理があり、④の情報部を納得させるのは整備班をトライアスロンに出場させるより難しい。
したがって、①か②となる。実際に対象との戦闘をこなしている実働班を使うという選択肢だ。
大和の心情として、これは勘弁してやりたかった。日々の当直勤務だけでも神経をすり減らしているというのに、実戦を続けている。ここらで大きな休みをやりたいというのが大和の親心であった。
しかし、状況はそれを許さないであろう事も、隊長である大和には重々わかっていた。あとは、だれに犠牲になってもらうか、の選択である。
また、せっかく実働班に出てもらうならば、ろ号を随行させるというオプションも検討したいところではあるが、春日山原始林の現場状況を考えれば、ろ号オプションはほぼ採用しえない。
鬱蒼とした森は、高さ3mの巨人の入る隙を与えないだろうからだ。
よって、ろ号による探索はほぼ不可能といえる。
ここまで考えて、大和はひとつの考えに至った。
ろ号が入れないような森で、対象が生まれたり、もしくはなんらかの痕跡を残せるだろうか
この問題は春日山原始林探索のアイデアを根底からぶちこわすかもしれない、と大和に思わせたが、組織として探索が是とされている以上、実行はされるだろう。それに、痕跡が無いなら無いで、「無かった」という証拠なり実績なりが必要である。
「春日山には何もありませんでした」
というつぶしのためにも、山狩りは必要そうである。
大和はろ号というオプションを捨てて、人員選定に意識を集中させたが、実働班員を使わざるを得ないということが決定項となった時点で、自身を探索班長とすることにした。
理由はいくつかあるが、実働班の各班長にはそれぞれの仕事に専念してもらいたいこと、新規配備のろ号習熟に時間を費やしてもらいたいことなどがそれだ。
新ろ号に時間をかけなくてよいという意味では、探索班員は大路隊がいいように思えてきた。
防衛隊内随一の身体能力をほこる高円。対象と最も多く、最も身近に接している五条。この両名を班員にするのが、春日山探索の最適解であろうと、大和は結論づけた。
一旦決めてしまえば、状況は早い。
探索日は大路隊の日勤日。班員は大路以外の2名。
これを旨とした作戦立案書を作成すると、団長に提出、即日承認された。
大路隊にこの作戦案がおろされたのが、ワニ騒動の三日後。ちょうど大路隊が当直の日であった。
この作戦案を受けた大路隊の反応は分かれた。
「ありゃー、これは光栄な作戦ですね。これを大路隊でおおせつかるとは。しかも、大和隊長とご同道できるなんて!行けなくて残念だなぁ」
ゴツンッ。大和鉄拳を浴びる大路。
「いやだ、ほんとにうちで行くの?現場であんなこと言っちゃったからかなあ。あー、失敗しちゃった」
無論、高円がワニ戦後に話していたことなど、大和は知らなかった。
「あ、はい、がんばりますっ。ところで、その間、ろ号のメンテは・・」
五条のろ号に対する思い入れは日に日に強くなっている。夜中に一人でろ号にほおずりしているのを見たという隊員がいた、という真実から三歩は遠い噂話が流れたこともある。
これを聞いた大和は、御所あたりの方がもっと偏執的な愛情を持っているのではないかと思ったが、それは口にしないでおいた。
ともあれ、探索班それぞれの思惑はいずれも異なっていたものの、なるべくしてこの探索は決行されることとなった。
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