インターミッション(5)
ワニ戦後の防衛隊本部はいつにも増して忙しくなっていた。
一つは、ワニ出現の痕跡が春日山原始林に続いていたということ。
もう一つは、追加機体が配備されるということである。
先日、
ろ号はパーソナルデータによる調整が必須とされており、他者がいきなり同じ機体に搭乗するというのは困難を極める。そう言った意味では産業兵器として失格なのかもしれなかったが、防衛隊での局地戦仕様という観点では十分に耐用範囲といえた。
二機の追加配備により、防衛隊の各当直に一機の運用が可能となる。無論、操縦訓練を含めた全体の運用調整は必要となるであろうが、早晩、防衛隊全体として、毎日、ろ号が使えるというのは、隊の任務遂行において非常に重要であった。
そして、五条の負担が減るという点においても非常に重要であった。
巨大ハムスターが出現して以降、巨大生物への対抗手段として、ろ号が重要な役割を果たすことは、防衛隊全体の共通認識であったが、そのパイロットが一人しかいなかったことは、その者にとって不幸であった。
結果として、巨大生物の出現はいずれも、五条の当直もしくはその明けに生じており、そうした意味では五条は幸運であったのかもしれないが、予兆事案のひとつでもあれば、出動待機がかかるという生活は、いくら防衛隊を志願して採用された若人といえど、精神的に重くのしかかるものがあったに違いない。
二機の追加配備を大和から正式に聞かされた五条は次のように言ったという。
「これで、毎日出動服を着たまま寝なくて済みます」
誰が命じたわけでもないが、こうした心がけを自主的にやってしまうのが五条であった。根がバカのつく真面目なのである。
対して大路は
「あーあ、これでうちのヒーロータイムもおしまいかあ」
とのたまい、大和から頭部への鉄拳制裁をくらったと言われている。この現場を見た者はいないが、隊長室から出てきた大路の頭頂部が膨らんでいたのを見た者はいるので、おそらく本当であろう。
なお、大路が先の言葉を本気で言っていたとは思えないが、これを冗談にしろ人前で言ってしまうところが大路の大路たる所以であろう。
なお、高円は新たな機体にほとんど興味を示さず、隊内トレーニングジムで鍛錬にいそしんでいる。
御所はというと、新たに配備されたろ号を一通り愛でたあと、カラーリングについて上申を行っている。曰く
「当直班ごとに色分けしましょう。搭乗時の誤りを排除できますし、マイカラー導入による士気向上が望めます」
ということであったが、この場合の士気向上が主に期待されるのは、整備班であり、しかもそのうちの御所のことであろうことは、誰の目にも明らかであったので、この上申はあっけなく却下された。
唯一、左肩への班識別証のペインティングが許可され、五条は杉をモチーフとしたマークを入れてもらうこととした。ペイントしたのは御所である。彼女は嬉々として三機それぞれにペイントを施した。なお、大路隊以外の二隊は、鹿と金魚であった。いずれも戦うと弱そうである。
追加のろ号についても、五条のそれと同じく、基本兵装は、電磁槍、盾、捕縄の三つである。ワニ戦の際に活用された重装型のようにオプションが存在しており、それぞれ標準型、重装型、軽装型の三種類であった。五条はワニ以外は標準型で戦っている。
こうして、整備班の要求に対応しながらも、大路隊の報告をまとめ、なおかつ、ろ号の追加配備に伴う諸事をこなし、上層部への報告を行っていたがの大和である。
この時期の大和は、隊内で最も多忙であったかもしれない。隊長級が最も忙しい組織というのはある意味で健全といえよう。頭脳が最も活発に動いているということであろうから。
大和の抱えている案件で、もう一つ、時間と人と金をかけなければいけなかったのが、春日山原始林の調査であった。
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