巨大ハムスター現る(中編)

 大路はその挙動を見てとるや、五条とハムスターの間に飛び込み、大盾を展開。ポリカーボネート製の透明盾にその衝撃を受け止めた。

「あらあら、ハムスターってこんなに攻撃的だっけ。毒餌とか用意してくりゃよかったねえ」

 大路は独り言のように愚痴ると、盾を左手に持ったまま、盾裏面《りめん》に取り付けられた小型電磁槍を右手に構え、古代ローマの重装歩兵よろしくハムスターとの間をじりじりと詰め始めた。

 五条は大路の陰に隠れながらも、時折り槍を突く素振りを見せて、今にも前進しそうなハムスターを牽制しながら歩みを進めた。

 大路・五条ペアとハムスターとの彼我距離が3mを切るかというころ、つまり、五条の電磁槍の射程距離にハムスターを収めたところで、大路は前進をやめ、五条とともに槍による威嚇牽制に集中した。

 対して身を震わせるハムスター。

 その目が五条、五条、大路、五条、大路と焦点を移動させていく。

 ハムスターの注目が大路に移った瞬間、五条は大きく一歩踏みだし、槍先をハムスターの顔面めがけて大きく突きだした。

 気合一閃。

 五条の槍はハムスターの鼻元をかすめ、威嚇の役割を十分に果たしたように見えたが、槍を戻したその瞬間に真剣白刃取りよろしく、ハムスターはその柄をとらえていた。

 五条は槍を引き戻そうとするも、ハムスターの腕力はそれをものともしておらず、五条は徐々に引っ張られていた。

 五条とハムスターによる綱引き合戦が行われているところ、ハムスターの背後に回り込んでいた高円はこれを好機と捉えていた。

 高円が大路の顔をうかがうと、

「いけ」

と無声の唇の動きが見てとれた。


 高円は捕縄を手に一気に間をつめて、ハムスターの足下に滑り込むと、その左足に捕縄をかけて、輪をつくり、そのまま思い切り後ろへ引っ張った。

 ハムスターは、一旦は右足だけでバランスをとろうともがいていたが、両手が槍を掴んだままだったこともあり、簡単にバランスを失い、槍を掴んだまま前方へ転倒した。

 高円の動きを見てとっていた五条は、電磁槍を手放し、後ろへ飛び退いていた。

「よし、今だ」

 大路は短く声をあげると、持っていた電磁槍をハムスターの首もとに当てて出力を上げた。

 電磁槍は一瞬光ったかと思うと、バチンという大きな音を立て、齧歯類の首もとに黒い焦げ跡をつくった。

 ハムスターは身体をのけぞらせたかと思うと急に脱力して、完全にのびたようだった。


「いやあ、転倒後にふんじばるとかよく考えたら無理だよね。失敗失敗」

「大路先輩、槍使うなら使うと言ってください。僕、縄をかけるところでしたよ」

「まあ、結果オーライじゃないか、五条クン」

 大路は高笑いをしながら、五条の肩をバンバン叩いていた。


 高円は捕縄を両足にかけ直し、どうやって身体の中心部を通そうかと考えあぐねていた。

「いっそ、でっかい檻かなんか持ってきてもらおうかしら、ねぇ大路君」

 高円が大路に声をかけようとしたところで、ハムスターに動きがあった。

 ハムスターがもぞもぞと身体をふるわせ、全身の毛が逆立ったかと思うと、真っ赤な目を見開き、甲高い叫び声をあげた。

 五条は驚きを隠せない様子で

「こいつ、もう目が覚めたのか」

と言った。

「ありゃー、こいつは思った以上かもね。急いでこいつをしばろ・・」

 大路が自分の捕縄に手を伸ばし掛けたとき、「バチン」という大きな音がした。

 ハムスターはその身体に比して小さすぎる股を大きく開いて、高円の捕縄を引きちぎったのだ。

 そして四つん這いになるや、五条らをにらみつけながら、全身の背を逆立てて、うなり声をあげている。


 三人の隊員が、異形の齧歯類の怒りを買ったことは明らかなようだった。齧歯類は身体をぶるぶると震わせている。

 その様子を呆然と見ていた五条は、

「お、大きくなっている・・?」

と、その異変に気づいた。

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