インターミッション(4)

「当直班ごとに配備されるってことですか?」

「そうね、メーカーでテスト稼働中だった2体を正式配備するみたいよ。あなたの実戦データから、巨大生物への有効性を示せたってことでしょうね」


 急にほめられたようで五条はうれしくなったが、

「聞いてー、でも整備班の人員増は無いのよぅ。どうやってシフト回すのかしら、工場長はその辺何も考えてなさそうだし。あー、未来は暗いわ」

 どうやら御所は五条をほめるつもりではなかったらしい。整備班の先行きに思いを巡らし、頭を悩ませている。

 五条は適当にあいづちを返すと、これ以上の会話は愚痴しか生まないであろうことを察知し、ろ号の開発コンソールに向き直って、感覚調整に没頭しはじめた。


 防衛隊当直の夜は長い。

 24時間勤務といっても、実際には休憩時間があり、実質的な勤務時間は16時間、ということになっている。

 残りの8時間で仮眠、食事、入浴を済ませるのだが、出動がなければ、休憩と勤務時間の境はあいまいになる。


 大路のように班長として報告書の作成業務のあるものは、当直の大半をデスクワークに費やすこととなるし、高円のように自分の体を鍛えるのに余念のないものもいる。

 防衛隊内には小さいながらもトレーニングジムが設置されており、物好きな職員は週休日であっても、ここを訪れることがある。

 仮眠室は基本2段ベッドで、女性は畳に布団敷きであるが、これは単に防衛隊の男女比率による影響である。ただ、仮眠時間として指定されている時間は個々人によって異なっており、実際に五条と大路が同じ部屋で寝ている時間というのは至極短い。

 というよりも、大路は仮眠室で寝ることは少ない。当直室に折りたたみベッドを持ち込んで横になっていることや、隊の車両内で寝ていることも珍しくない。

 五条からしてみれば、きちんとしたベッドや布団以外で寝ることのできる人間の気がしれなかったが、ある意味で大路は、至極当直のある仕事に向いた人間かもしれなかった。


 通常、当直時に事案が発生した場合には、警察もしくは消防から協力要請が寄せられる。

 まれに一般市民から防衛隊に直接通報の入る場合もあるが、現場周辺住民の避難や規制線設定のことを考えれば、防衛隊から警察や消防に通報を入れ直すこととなっている。

 大路隊においてこれは、主に班長である大路の仕事であり、かつ、大路が班長となった理由の大部分がこれである。

 つまるところ、大路は渉外担当者として存外に優秀だったのである。


 この当直の晩も、大路は所轄警察署の当番長に電話をしていた。

五島ごとう警部、今日も何かあったらよろしく頼みますね」

「今日は大路さんの泊まりですか、こりゃ縁起が悪いわ」

 ハムスター騒動の折、警察対応の責任者だったのもこの後藤であった。今日も当直の周期が合致しているようだ。

「ムカデのときも、大路さんだったらしいじゃないですかあ。いやですよ、うちは。今日はもう、酔っぱらいと夫婦喧嘩と万引きの処理でおなかいっぱいなんです。巨大生物なんて起きたら、当直全員徹夜になっちまう」

「まあまあ、そうおっしゃらずに。結局うちなんて、対象を捕獲するだけしか能の無いところですから。警察さんが周辺を受け持ってくれないと何もできません」

「警察ほめても何も出ませんからね。ほんと、今日は通報がないことを祈ってますy・・・」

「五島さん?」

 電話口から五島の大きなため息が聞こえた。

「大路さん、仕事ですわ。春日野園地に出たそうです、ワニ」

「ワニ?」

「そう、ワニ。大きいやつ」

「あちゃあ」

 数秒の間、沈黙が流れたのち、

「じゃあとは現地で」

とお互いに言い合って、通話は終わった。


「ワニさんこちら、手の鳴る方へ~」

 大路は歌いながら、隊内放送のスイッチを入れた。

「至急至急、春日野園地に巨大生物出現、形状、ワニ」

 大路隊は今日も眠れそうになかった。 

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