激闘!巨大ムカデ(後編)

 五条はムカデの締め付けが弱まるのを感じると、それをふりほどいて2mほど後退した。


 ムカデは体が切断されてもなお生き延びるという。

 五条は、ハムスターが再巨大化したことを思い出し、同じ轍は踏むまいと、ムカデの頭部を注視することとした。

 ムカデ頭部は、予想通り活動停止しておらず、いまだウネウネと身をよじらせている。

「五条クン、そのまま距離を保持して警戒待機」

 大路の声がインカムから響いた。

「高円チャンはそこから降りてきて、回収班の支援準備をヨロシク」

 五条と高円は大路の指示に対して了意を示した。


 回収班は防衛隊研究所の所有する実働部隊である。

 主に本部内での調査研究がその任務である研究所に所属しているが、実戦があれば現場に出動し、対象の収集・保全及び保管、そして本部までの運搬を行っている。


 今回のムカデ騒動にあたっては、当直班である八木隊とともに回収隊も当初から出動している。つまり、防衛隊自身が対象の撃破だけでなく、その生態を明らかにしようしていることは明らかであった。


 大路は、ムカデの再始動及び周辺通行人の接近に気を配りながら、対象の捕獲作業を始めた八木隊の動きに注視した。

 当直班は、班長以下3名で編成されており、八木隊は班長の八木以下、吉野、葛城かつらぎが所属している。

 五条は防衛隊入隊から日が浅く、八木隊の面々についてはあまりよく知らない。当直の引継ぎ時に顔を合わせる程度の関係でしかない。

 ムカデ頭部に吉野・葛城が電磁槍によるショックを与えている。強い刺激を継続的に与えて失神させてから捕縛させようということだろう。


 八木はムカデの活動停止を確認すると、白装束の回収班とともにムカデの捕縛を始めた。

「八木ちゃん、うちもう帰っていいかなあ」

 大路がのんきなことを言い出した。

「ばかやろう、まだうちが仕事やってる最中だろうがよ」

「いや、でももう大丈夫そうじゃん、それ」

「・・・お前、隊長が隣に座ってるのによく言えるな。そういうこと。ある意味尊敬するわ」

「あはは、ほめられちゃったぜ」

ゴツンっ

 各隊員のインカムから鈍い音が響いた。大和が大路にげんこつを落としたようだ。

「隊長、それ傷害罪ですよ」

「あほう。これは任務に付随した行為だ。隊則にも定められとる」

「どんなブラック規則ですか、それ」

「班長だろ、しっかり読んでおけ。それより、このムカデの出現、お前はどう見る?」

「そうですねえ、対象の出現頻度としてはかなり短い方かと。前回からわずか二日ですから。それに前回と同じ場所というのがひっかかります」

 大路は頭にタンコブができていないか、触って確認している。

「うむ。ハムスターの出現で猿沢池周辺の大規模調査が決定していたが、その日程を早める必要があるな」

 大和が顎髭をさすりながら、そう言った時、

「尻尾部に動きあり、変形しています」

と、尻尾部の捕獲にとりかかっていた回収班より通信が入った。


 その異変を目前で視認していた五条は、とっさに尻尾部をろ号の両手で抑えた。

 切断された尻尾部はそれ単体で約3m半の長さがあり、ろ号が両手を広げて抑えても、尻尾の先端部は激しく動き続けていた。

 さらに尻尾の先端が横にぱっくり割れたかと思うと、尻尾先の突起も二つに割れた。

 あたかもそれは、口と、鋭くとがったアゴを形成しているかのようであった。


 五条は、左手でできるだけ新しく形成されつつある頭部付近をつかんだ。そして右手で、腰に装着していた捕縄を取り出した。

 さらにムカデを蚊取り線香のように巻き取り始めると、新頭部の首(そう呼んでよければだが)付近を基点として、しばりあげた。

 新頭部はまだ動いていたが、電磁捕縄の出力を上げるとやがて大人しくなった。


「なんて生命力だ」

 五条が独りゴチると

「そのあたりの解明は、研究所に任せましょ。私たちは現場仕事よ」

 高円はそう言うと、新頭部に近づき、自身の捕縄を取り出して、新しい口を几帳面な手つきで、きつく縛り上げた。

 高円の捕縄作業終了と

「頭部、捕縛完了」

との声が八木から上がったのはほぼ同時だった。


 各班の対応に区切りが着いたのを受け、大和が現場の撤収を宣言した。

 五条は前回同様、ろ号に搭乗したまま本部まで護送体制をとる。

 本部に入ればそのまま日勤に移行、デブリーフィングに加え、ろ号整備の支援にも駆り出されるだろう。


 五条は

(明日の当直に響かないうちに帰れたらいいなあ)

などと考えつつ歩みを進めていたが、ふと自分がまだジャージ姿だったことを思い出し、整備班からの茶化し攻撃をどう受け流すか、ということに思考をシフトすることにした。

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