激闘!巨大ムカデ(中編)

 五条がろ号の装着を終えると大和から無線が入った。

「一つ言っておく。こいつを使うことは不本意だ。だが、こいつの性能は信頼していい。防衛隊の歴史と科学がそこには詰まってる」

 戦術的な指示やアドバイスは無いのかと五条が思った矢先

「五条、思いっきりやってこい」

と思いの外、熱い言葉が送られてきたので五条も

「わかりました!五条、思いきりいきます!」

と筋肉発言を返していた。

「じゃあ、五条クンはムカデ正面ね。今回も捕獲を第一目的とするから、ひきちぎるとかは無しだヨ。槍で牽制、隙を見て頭部に一撃で失神させ・・ムカデって失神するのかなあ。ま、いいか。高円チャンもそろそろ配置につくから、うまく連携して」

 五条は一抹の不安を感じながらも「ろ号」を降車させ、早足でムカデ前面まで押し出した。

 今回は正式出撃とあって、ろ号用の電磁槍及び捕縄を携行している。無論、人間用のそれと比べて二周りほど大きく、出力も高い。

 ろ号が前面に立つと、ムカデの注意はろ号に集中した。前面に展開していた防衛隊は2、3人に分かれてムカデの側面へと移った。これで四面楚歌状態だなと五条が思った瞬間、

 ムカデは体を強ばらせたかと思うと、頭を下げて、勢いよく尻尾を振り回した。

 とっさの動きに周りの防衛隊員は対応しきれず、各々吹っ飛ばされた。

 側面にいた隊員は店舗のショーウインドウをぶち破って倒れている。

(こんなに素早い動きを?僕が来たことで興奮しているのか)

 五条は冷や汗が額からつたってくるのを感じながら、ムカデの動きを注視していた。

 再度、ムカデの尻尾がしなる。

「ちいっ」

 槍で尻尾を受けながら、後方へジャンプする五条。

 ムカデは五条の動揺を知ってか知らずか、今後は体を大きく伸ばし、上方からろ号を見下ろしてきた。

 五条は矛先を頭部に向けて出力を上げた。

 ムカデは一瞬、頭部を揺らしたかと思うと、一直線にろ号へ向かってきた。

(噛まれる!?)

 五条はムカデのその大きく頑丈そうなアゴを見て、ろ号の装甲の心配をし、槍を横向きに構え直した。

 ムカデはそのアゴで槍の柄に噛みつく。

 大きな衝撃にろ号はやや後ずさるが、五条は力を込めて槍を支えた。

 ムカデのアゴからしたたった液体からは白い煙が上がっている。

(毒?酸?もしくはそのどちらもか。ムカデが原型なのだとしたら、アゴの毒は獲物を捕らえておくもののはず、溶けることは・・)

 五条の予想とは裏腹に、槍の柄の表面は変形を始めていた。

(ぐ、このままでは)

 五条は槍の放棄を考え始めていた。距離をとって牽制する方策をとるべきかもしれない。

 五条が逡巡していると、ムカデはその尻尾をろ号の足下に寄せると一気に巻き付いてきた。

 ムカデの急激な動きに対応できない五条。脚部から胴囲までが締め付けられている。ムカデのアゴはもはや柄から離れていたが、今は獲物を捕らえることができて、満足そうに頭部を揺らしている。

 五条は腕と脚に力を入れて、なんとか脱出を試みるも、ムカデの締め付けの方が強い。

(くっ、どうすれば)

 五条が次の脱出方法を考える前に

「いいよいいよ、五条クン。そのままそのまま」

 大路の脳天気な声が無線から聞こえてきた。

「いやでも、このままじゃ」

「いいのいいの、そのまま縛り上げられといて」

 五条の思考は大路の考えに追いつかなかったが、

「高円チャン、今だよ」

 瞬間、風を切る音がして、機体に軽い衝撃があった。

 ムカデの頭部から約1mほどのところに矢が刺さっている。防衛隊謹製電磁矢だ。

「今よ!」

 五条はムカデの締め付けが弱まったのを確認すると、右手に握ったままの電磁槍で矢の刺さったあたりを思い切りなぎ払った。

 その衝撃で矢から上が千切れ飛ぶムカデ。

「あ、千切っちゃったぁ」

 大路が情けない声を出した。 

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