第20話
「メリーさん!シープちゃん!」
リモート飲み会の次の日、お昼休みにメリーさんとおしゃべりをしていたら、山田さんが小さなテレビのようなものを持って走ってきました。
牧場主さんとオオカミのお千代さんは、テレビ番組に出るため、牧場には来ていません。
私たちがお昼休みにおしゃべりできるのも、山田さんが私たちに話しかけられるのも、牧場主さんとお千代さんがいないからです。
「おれの動画に、懐かしい人がコメントしてくれたよ」
山田さんはメリーさんにテレビのようなものを見せました。
それを覗き込んだメリーさんは
「お嬢様!」
大きな声で驚きました。
「シープちゃん、お嬢様が・・・シープちゃんの大好きなよっちゃんが、私たちにメッセージを送ってくれたよ」
メリーさんは目を潤ませながら私に言いました。
「おれ、読んでやるよ」
山田さんは、テレビのようなものを触りながら言いました。
「牧場の皆さん、覚えていますか?その節は、大変お世話になりました。山田さん、ステキな動画を配信していただき、ありがとうございます。懐かしく、そして楽しく動画を拝見しました。メリーさん、サーカスのこと話してくれてありがとうございます。そうです。私たちは離れて暮らしていますが、つながっています。メリーさんの言葉に力が湧きました。必ず、会いに行きます。サーカスのみんなのところへ。そして、メリーさんとシープちゃんのところへ」
山田さんがメッセージを読み終えると、メリーさんは小さな声で「お嬢様」と言いました。
「それから、もう一人。みなさん、お久しぶりです。シモノツケキョーコです」
「あ!モデルの!」
メリーさんが私の毛をぎゅうっとつかみました。
「シープちゃん、覚えてる?雑誌の取材で来てくれたモデルの・・・昔、サーカスにも来てくれて、お父さんのこと、覚えてくれてた・・・」
「いめめめ。メリーさん、痛いです」
「どんくさい羊見て、トップモデルになった、モデルのシモノツケキョーコさん」
山田さんの説明には、トゲがあると感じました。
「続き、読むね。えっと・・・山田さんや牧場のみなさんの元気な姿を動画で見られて本当に嬉しかったです。メリーさんのサーカスの話、胸に迫ってくるものがありました。インスタにしか興味がなかった私なんですが、リモート飲みの動画を見ていたら、動画をやってみたくなりました。ぜひ、牧場のみなさんとコラボさせてくださいね。サーカスのみんなを探す連載、今はお休みしてますが、続けてますよ」
山田さんが、キョーコさんのメッセージを読み上げると、メリーさんは
「キョーコさんも、頑張ってるんだあ」
と言いました。
「社長とお千代さんが帰ってきましたよーっ!」
ちえちゃんさんの大きな声が聞こえてきました。
「あれ?早えなあ!」
山田さんは腕時計を見て驚きました。
「見つかると怒られちゃう!」
山田さんは、テレビのようなものを小脇に抱え、走って事務所に戻りました。
「そろそろ、野菜が届く頃かな」
メリーさんは私の頭を軽くなで、ゆっくりと歩きながら小屋に向かいました。
「社長!早いっすね!」
遠くから山田さんの声が聞こえてきました。
「それがよお、テレビ局の奴らが、お千代と一緒の出演は、3密とやらで無理だって言うんだよ」
「あー、スタジオに入れる人数が決まってるらしいっすね、今」
「お千代がさ、画面に映るのが2人なのに、何が3密だ、帰るって言いだして」
私の隣に、牛のモー太郎さん、チーターのチッタさん、キリンのきいちゃんが集まってきました。
「どうしたの?」
チッタさんが私に尋ねました。
「牧場主さんが帰ってきたんです」
「また、オオカミに振り回されたみたいだね」
モー太郎さんはそう言うと座り込みました。
「え、じゃあ、出演はどうなったんですか?」
事務所から、山田さんの声が聞こえてきました。
「オレが、テレビ局の人に、オオカミは人間じゃないから3密にならないって説得してさ、なんとか、番組に出られたんだけどさ。お千代のヤツ、オオカミ扱いされたって怒っちゃって、不機嫌になっちまったんだよ。番組に出てる間も、ずっと黙ってて」
「社長、良かったじゃないっすか!」
「ん?そうか?」
「アイツ、何も言わない方が、賢そうに見えますって。オオカミは黙ってなんとかって、言いますよね?」
山田さんの言葉に、私たちは思わず吹き出してしまいました。
「ばか!声がでかいよ!お千代に聞こえたら、オレが怒られるだろ!」
牧場には、お客さんはいません。
それでも、私たちは楽しく過ごしています。
羊が一匹 ~ちょっぴり番外編~ たえこ @marimo-suchiko
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