第19話
「今日の飲み会って、ちえちゃんの送別会も兼ねてるんすよね?」
「なにっ!」
山田さんの言葉に、モー太郎さんが驚きました。
「え?ちえちゃんの送別会?どういうことだ?」
牧場主さんが、顔をあちこち動かしながら言いました。
「あれ、ちえちゃん、今月で辞めるんですよね?」
「え・・・?だ、誰か、そんなこと言ったのか?」
「うーっ」
画面の中のお千代さんが、牧場主さんの方を向いてうなりました。
「違うんですか?社長、辞めなくていいんですか?」
ちえちゃんが、画面に顔を近づけて言いました。
「可愛い子のアップは、いいな~」
モー太郎さんが嬉しそうに言いました。
「シワがないのがうらやましいわ」
ローバさんが言いました。
「社長、この前、私に、山田さんやメリーさんみたいに、動物の言葉がわからないから・・・来月から・・・」
ちえちゃんさんが声を震わせながら言いました。
「来月から、頑張って言葉を覚えろよって、言ったんだよ」
牧場主さんの言葉に、お千代さん以外の人間と動物は一斉に驚きの声をあげました。
「ちょっと!社長!」
遅れて、お千代さんが牧場主さんに吠えました。
隣から突然、大きな声が聞こえたので、牧場主さんは慌てて両手で耳を押さえました。
「ちえちゃんはいつも、こちらから指示しなくても、自分から仕事をみつけて、動いてくれるんだ。客が来ないこの時期、山田やメリーの手伝いしてくれてるって2人から聞いてる。この間、お千代から、ちえちゃんが外で動物たちと遊んでいるって聞いたんで、外に出てみたんだ。そしたら、ちえちゃんが小屋を掃除するために、動物たちを外に出したんだって、あいつらから聞いて・・・」
私たちはうなづきながら、牧場主さんの話を聞きました。
ちえちゃんさんは泣きながら、牧場主さんにお礼を言ってました。
「社長!話が違うじゃない!」
お千代さんが、片方の前足で、牧場主さんの腕を押しました。
「経費削減の為に、ちえちゃんを辞めさせるって。そういう方針だったじゃない!」
「確かに、今は経営は苦しいよ。だけどな、お千代。これから俺たちがメディアに出るようになると、山田とメリーだけじゃ、動物たちの面倒を見るのは無理なんだよ。あいつらだって、短い勤務時間の中で、動物の体調管理や食事の準備やってんだぞ。小屋の掃除や事務までやるの、大変なんだって」
牧場主さんは、お千代さんに話し終えると、お千代さんに押された腕を何度もさすりました。
「社長!どうして、いつも、急に考えを変えるんですか!経営者は、もっと社員に厳しく、無駄を省いて、利益を追求しなきゃダメなんですよ!」
「一番の無駄は、自分だってこと、いつになったらわかるのかなあ」
牧場主さんを叱るお千代さんを見ながら、モー太郎さんがつぶやきました。
「今、この大変な時期を、みんなで一緒に、力を合わせて乗り越えていかなきゃならないんだ。利益も大事だけど、今は、動物たちの命を守ること、社員の命を守ることの方が大事なんだよ。牧場に人が集まるようになったら、利益を追求すればいいとオレは思ってる。山田のおかげで、牧場に人を呼ぶ足がかりができた。これから、もっと人が牧場に来るように宣伝しなきゃならねーんじゃねーのか?そのために、明日、テレビ番組に出演するんだろ、お千代?」
テレビ番組、という言葉に、お千代さんがピクリと動きました。
「明日、朝から準備しなきゃならないから、私たち、失礼します」
画面に向かってお千代さんはそう言うと、プイっと横を向いて画面から消えていきました。
「わ、悪い、山田っ!あとは適当にやっておいてくれ!」
牧場主さんがお千代さんを追いかけるように、画面から消えました。
「さ、気の合う仲間だけで、仕切り直ししますか?」
画面から、山田さんが呼びかけました。
「みんなで力を合わせて、牧場を盛り上げましょう!」
画面の山田さんが飲み物を高く上げました。
メリーさんも、ちえちゃんさんも、飲み物を高く上げました。
私たちは大きな声で鳴きました。
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