第18話
リモート飲み会の日。
「いい?この線から前に出ないでね」
小屋に小さなテレビのようなものを置いた山田さんは、床に貼った赤いテープを指さして言いました。
「この線から前に出ると、どうなるの?」
ロバのローバさん山田さんに質問しました。
「顔が映らなくなる。例えば、口だけとか、鼻だけとか。特にローバさんはシワまで映るから、線より前に出ないほうがいいよ」
「いやだあっ!シワまで映るの?怖いわ~」
「だから、線より前に出ちゃいけないんだって。この線に立てば、ローバさんの顔も全部映る。でも、シワは映らない」
「いいね、それ!ステキ!サイコー!」
ローバさんは、線の上で、何度もポーズを取ってました。
「山田。飲み会、何時から?俺たちは、いつ出ればいいの?」
準備を終えて、一息入れている山田さんに、牛のモー太郎さんが話しかけました。
「飲み会は夜7時からっす。パソコンの隣にスピーカー置いておきます」
「あの黒いやつか?」
「そうっす。そこからおれの声が出るんで、飲み会が始まる前に合図します」
モー太郎さんと山田さんが話をしているのをぼんやりと見ていたら、きりんのきいちゃんとチーターのチッタさんが話しかけてきました。
「ドキドキしますね」
「まだ、始まったわけじゃないのにね」
「山田さんがモー太郎さんに話してましたけど、リモート飲み会は夜だそうですよ」
「見て見て。あそこ」
チッタさんが、ローバさんがいる場所に顔を向けました。
ローバさんとゾウの花子さんが線の上で、横並びにポーズをとってました。
「ちょっと、ローバさん。もうちょっと右に行ってよ。アタシが映らないじゃない」
その様子を見ていた山田さんが頭を抱えました。
「複数はダメだって言ったのに・・・。特にあの2頭は」
「顔どころか、それぞれのパーツも映らねーだろーなー」
そう言って、モー太郎さんは、しっぽで山田さんの肩をポンポンと叩きました。
お月様の光が小屋に入り込んだ頃。
「みんなー!黄色い線の前に集合!」
黒いスピーカーから、山田さんの声が流れてきました。
「オッケー、オッケー。一匹または一頭だけが映るときは、赤い線のところに出てきていいけど。他のお友達と一緒に映るときは、黄色い線のところまで下がってね」
「はーい!」
「元気なお返事、よくできました!もうちょっとしたら、全員集合するからね。みんなで、オオカミを驚かせようぜ!」
「おーっ!」
小さなテレビに山田さんの顔が映りました。
「どんも~。シンパパの山田で~す」
「山田さーんっ!」
私たちは一斉に動きましたが、山田さんは、私たちに話しかけることなく、
「今日は、職場のみんなでリモート飲みをしてみたいと思いま~す」
と、話を続けました。
テレビには、ゆっくりと、メリーさん、ちえちゃんさんが映りました。
「俺、人間の世界についていけないや」
モー太郎さんが言いました。
画面に牧場主さんとお千代さんが一緒に登場した時
「見ろよ。あの方の、あの・・・」
モー太郎さんが私に言いました。
「黒光りが薄気味わりーなー」
画面に私たち全員が映った時
「キャー!見て、私たちが映ってる!」
ローバさんが叫びました。
「みんな元気~?」
山田さんの声に私たちは右に左に上に下へと体を動かしました。
同じ画面には、メリーさんとちえちゃんさんが手を振っています。
牧場主さんとお千代さんは、手を振ることなく、画面をじっと見ていました。
「・・・山田・・・これ・・・どういうこと、だ?」
画面から、牧場主さんの声が流れてきました。
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