第16話

「シープちゃんとメリーさんの動画、見たいです」

 そう言うと、きいちゃんはメリーさんのところへ行きました。

 メリーさんの隣に立つと、メリーさんの顔を覗き込むように見ました。

「きいちゃん、どうしたの?」

 きいちゃんは、顔を何度も動かしながら、メリーさんと画面を交互に見ました。

「・・・他の・・・動画を見たいのかな?」

 メリーさんの言葉に、きいちゃんは顔を縦に動かしました。

「そうなんだ。きいちゃん、何見たいの?」

 メリーさんがきいちゃんに尋ねると、きいちゃんは、メリーさんと私を何度も見ました。

「・・・え?私?・・・と、シープちゃん?」

 メリーさんが驚くと、きいちゃんは嬉しそうに鳴きました。

 そして、きいちゃんは、私たちに

「メリーさんとシープちゃんの動画、見たい人~」

と、言いました。

「見たい!」

「いいね!」

 動物たちは、そう言いながら、片方の前足を上げました。メリーさんに動画を見たいという気持ちが伝わるように、です。

「わかった!」

 メリーさんは、大きくうなづきました。

「待っててね!」

 メリーさんは、ニコニコ笑いながら機械を触りました。

「私ね、メリーさんの動画、見たかったの」

 チーターのチッタさんが私に言いました。

「二人が撮影しているとき、私、見てたんだけど。メリーさんの話がすっごく良かった!だから、動画、見たいの」

 チッタさんの話を聞いていたら、私まで嬉しくなりました。

「はい、これが動画」

 メリーさんは、機械を小さな台の上に置きました。

「私、恥ずかしいから、外に出るね」

「ええっ!一緒に見ましょうよ!」

 きいちゃんが大きな声で鳴いて、メリーさんを引き留めました。

「え・・・?」

 驚いて動けなくなったメリーさん。

「みんながメリーさんと一緒に動画を見たいって言ってます」

 私がメリーさんに話すと、メリーさんは顔を真っ赤にしながら大きく手を振ってました。

「どんも~。シンパパの山田で~す」

 機械から、山田さんの声が流れてきました。

 みんなが、前足で床を軽く叩きました。

 私は頭でメリーさんを押して、みんなのところへメリーさんを戻しました。

「メリーさんとシープちゃんって、昔、サーカスにいたんだよね?」

 画面にはメリーさんと私が映ってました。山田さんはいないけど、山田さんの声が流れてました。

「はい、そうです。私たち、この牧場に来る前は、サンデーサーカスという小さなサーカス団にいました」

 画面のメリーさんはそう言うと、私を見て、私の頭を軽くなでました。

「山田さん、私、この動画で伝えたいことがあるんですけど・・・いいですか?」

 画面のメリーさんは、私をぎゅっと私を引き寄せました。

「サンデーサーカスは、解散する時に、動物をみんな殺したという噂が流れました。それは、嘘です!その証拠が、このシープちゃんです!」

 画面の中の私が鳴きました。「シープでえす」という字幕が画面に出ました。

「シープちゃん以外の動物も、他のサーカスや学校、幼稚園、小さな動物園や動物プロダクションに行きました。行き先が決まる前に病気で亡くなった動物はいますが、殺された動物はいません!」

 画面の中のメリーさんが少しの間、うつむきました。

 また、顔を上げると、メリーさんが話を続けました。

「動物を殺したという噂が流れたことで、サーカスの団長さんの家族が・・・動物愛護団体と名乗る人たちから、ひどい嫌がらせを受けたと聞きました。あの一家は動物虐待をしていた、人間の心がないと・・・言われたそうです。事実を確認せず、噂だけで、動物を愛している人を攻撃する人たちを、私は許せません」

 動画を見る私の隣で、メリーさんが

「早く終わらないかな・・・」

と、顔を伏せながら言いました。

「シープちゃんから聞いた話をしたいと思います。サーカスの最終公演が終わった時、団長さんは動物たちに言いました。『明日からみんなとは、一緒に暮らせない。でも、お前たちの命は俺が守る。俺の命に代えてでも』。団長さんは約束を守りました。本当に命・・・」

 画面のメリーさんが、何度も何度も涙をぬぐいました。

「サーカスが解散して、私たちはバラバラになりました。でも、心は、つながっています。動物たちの命も、つながっています。私は思います。サーカスの動物を殺したと噂を流した人、事実を確かめもせず、一方的に攻撃した動物愛護団体こそ、サーカスの動物を殺したんだって」

 動画を見ていた仲間たちが、一斉に前足で床を叩きました。

「みんな・・・ありがと・・・」

 顔を上げてみんなを見たメリーさんの目に、うっすらと光るものがありました。

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