第12話
1週間ぐらい過ぎたころだったかと思います。
「山田ぁ」
牧場主さんが怖い顔して、小屋に入ってきました。
小屋には、お千代さん以外の動物と山田さんがいました。
「牧場へ行きたいっていう問い合わせが来るようになったんだけど、さ」
牧場主さんの声は、いつもより低かったです。
「良かったじゃないすか!」
山田さんの声は、いつもと同じ、明るかったです。
「・・・ん?まあな・・・」
山田さんの元気な声に、戸惑い気味の牧場主さん。
しばらく2人の間に沈黙が続いていました。
牧場主さんが山田さんに話しかけようとしたその時、小屋のドアが開きました。
「山田さんっ!」
山田さんと一緒にいる牧場主さんを見たちえちゃんさんは、急に落ち着いた声で
「と、社長」
2人に話しかけました。
「ウソハッピャクという雑誌社から、牧場の取材をしたいと電話がありました」
「ほー!」
ちえちゃんがメモを読み上げると、山田さんが大きな声で驚きました。
「それから、FMラジオ局とケーブルテレビ局からリモートでの出演依頼が来てまして・・・」
ちえちゃんさんは、言いにくそうに牧場主さんを見ました。
「どちらも、山田さんご指名なんですよ」
「それだよ!それ!」
突然、牧場主さんが山田さんを指さして叫びました。
「問い合わせをした人はみんな、お前の動画を見たって言うんだよ!うちの動画の存在が、知られてねーじゃねーかっ!」
牧場主さんの大きな声に、誰もがきょとんとしました。
「何のために、動画作ったのかって、動画の意味がないって、お千代が怒ってんだよ」
牧場主さんが、私たちの反応を見て
「悪い・・・。怒ってるわけじゃないんだよ。悔しいというか、がっかりしたというか・・・」
と言って、頭をかきました。
「動画を作ろうって言ったのも、作った動画を牧場のサイトにだけ載せるって言ったのも、あいつ・・・お千代さんっすよ。動画投稿サイトに出せば、たくさんの人に見てもらえますよって、おれ、言いましたよね?不特定多数が見る無料サイトに出して、自分が危険にさらされるようなことはしたくない、だけど、会員制サイトは有料だから嫌だ、そう言ったのは、あちらですよ。牧場のサイトにアクセスした人だけにパスワードを発行すれば、悪意を持った人はパスワードを取ってまで動画を見ようとしないし、パスワード発行した数でサイトへのアクセス数が把握できる。そう言ったのは、お千代さんだし、それを承認したのは社長っすよ」
「・・・そう、だよ、な」
「おれは、不特定多数が見る無料サイトに動画を出したから、不特定多数から反応があったっていうだけの話っすよ」
「まあ・・・その通りだな」
「勝手に動画を出したわけじゃなくって、ちゃんと、社長に撮影の許可もらいましたよ。牧場の連絡先を動画や動画の説明欄に出して、牧場に貢献してますからね」
「あ、ああ・・・」
牧場主さんは、何も言えなくなりました。
「あ、あの・・・」
ちえちゃんさんが、2人に話しかけました。
「取材の申し込み・・・断った方が、・・・いいですか?」
「そうだな、断って・・・」
「社長、おれの代わりにリモート出演すればいいんですよ」
山田さんと牧場主さんが、ほぼ同時に言いました。
山田さんの言葉を聞いた牧場主さんが、驚いた顔で山田さんを見ました。
「社長、ここで断っちゃったら、もったいないっすよ。取材をどんどん受けて、牧場のサイトを宣伝すればいいんじゃないっすか?」
「そ、そうか?」
「おれは、自分のチャンネル持ってるんで、しょっちゅう顔出し動画出してるから、今更、テレビに出る必要ないし。社長はお千代さんと一緒に、どんどんメディアに出ればいいんですよ」
「お・・・そ、そうだな」
牧場主さんが、口をオの形にして山田さんを見ていました。
「山田の才能、この牧場で埋もれるのは、ホントにもったいないな」
モー太郎さんが言いました。
「なんで、あいつ、ここで働いてるんだろ?もっと活躍できるところがあるだろうに」
「ちえちゃん」
山田さんが、ちえちゃんさんに話しかけました。
「取材の依頼があったら、全部受けちゃって。んで、おれを指名してきたところには、社長とオオカミのセットで取材や出演が可能か聞いてみて」
「あ、はい・・・」
ちえちゃんさんは、ゆっくりとうなづくと、牧場主さんを見ました。
「社長・・・それでいいですか?」
牧場主さんは、うなづいた後に
「それで、いいや」
と、ちえちゃんさんに言いました。
ちえちゃんさんと牧場主さんがいなくなった小屋で、山田さんが私たちに言いました。
「人間とオオカミのリモート出演って、実現したら人類初の出来事になんのかな?」
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