第11話

「ちえちゃん、いろいろ話してくれてありがとね。ていうか、気が付がついてあげられなくて、ホント、ごめん」 

 山田さんの言葉に、ちえちゃんさんは、顔を左右に動かしました。

「山田さん。私が話したこと、動画に出してもらってもいいですよ」

「え・・・」

 山田さんとメリーさんは、お互いに顔を見た後、ちえちゃんさんを見ました。

「いいんです。私、みんなに嫌われてないってわかったし、今まで言えなかったこと言えたから、辞めてもいいかなって思えるようになりました」

 ちえちゃんさんの笑顔を見たモー太郎さんが

「え~、辞められちゃうと困るよ~。若い女の子、貴重なのに」

と言って、うなだれました。

「あ、でも、動画で流されちゃったら、就活に響くかも」

 ちえちゃんさんは、そう言うと、にっこり笑いました。

「ま、そこは気にしないで。ちえちゃんが就職で不利になならないように、こっちでうまく編集するから」

 山田さんはちえちゃんさんにそう言うと、ぐるりと辺りを見回しました。

「日が暮れる前に、レクリエーション活動の撮影やっちゃお!」

 山田さんの声に、チーターのチッタさんがすくっと立ち上がりました。

「久しぶりに体動かせる!」

「ローバさん、張り切りすぎて、足、傷めないでね。トシなんだから」

 ゾウの花子さんが花子さんに言われたロバのローバさんは、何も言わずに花子さんを睨みました。


「この牧場でも、社会的距離というものがあります。誰かに言われたわけでもなく、自然と出来上がっているんです」

 カメラを持つメリーさんに、山田さんが話しかけました。

「もともとこの状態でいたのに、誰かさんが社会的距離取らなきゃダメだって、うるせーんだよな」

 モー太郎さんが独り言を言いました。

「それでは、見てみましょう!」

 山田さんは、カメラに映らないように移動し、メリーさんはゆっくりとカメラを動かしながら私たちを撮影しました。

 私たちはしっぽを動かしたり、鳴いたりしながら、メリーさんの持っているカメラにあいさつをしました。

「ここの動物たちは、普段から仲がいいのですが、外で過ごすときは、自分たちが快適に過ごせる場所に行きます。端っこが好きなのは、モー太郎さんと、きいちゃん。小屋の近くにいるのは花子さん。日当たりのいい場所は、ローバさんに譲ります。この牧場の年長者なので、その日の天気で一番日当たりのいい場所が端っこだった場合は、モー太郎さんか、きいちゃんのどちらかが、ほかの場所に移動します。チッタさんは、花が咲いている場所を好みます。シープちゃんは、昼寝ができれば、どこでも大丈夫です。暑い日は、木陰で大いびきかいて寝ていることがあります」

 みんながどっと笑いました。

 ちえちゃんさんも、カメラを持っているメリーさんも笑いました。

「山田さん、詳しいですね!」

 ちえちゃんさんが。山田さんに言いました。

「機械的に世話してるわけじゃないからね」

「それを言うなら、マリーン的」

 モー太郎さんがポツリと言いました。

 遠くにいるメリーさんには聞こえません。

「この牧場の動物たちのすごいところは、これだけじゃないんです!自分たちの社会的距離を保ちながら、こんなことができちゃうんです」

 そう言うと、山田さんは大きなボールを花子さんに投げました。

 花子さんは鼻でボールを受け取ると、落とさないようにボールをくるくると回すと、チッタさんに向けて投げました。

 チッタさんは後ろ脚で力一杯蹴り上げると、ボールは高く上がり、きいちゃんの顔の高さまで届きました。きいちゃんはボールにちょこんと頭をぶつけると、ボールはスピードを上げて下に落ちてきました。

 私が飛び上がって頭でボールを捉え、ローバさんのいるところにボールを飛ばしました。

「おい!」

 着地と同時に、モー太郎さんの声が聞こえました。

 ローバさんがお尻でボールを受け止めたら、ボールはゆっくり地面に落ちました。

「ね?すごいでしょ?密にならずに、ボール遊びできるの」

「なんで、飛ぶんだよ!あーっ!」

 モー太郎さんが、がっくりと前足を折り、顔を地面につけました。

「カッコいいところ、見せたかったのにーっ!」

 私の隣で、モー太郎さんが叫びました。

「みんな、ありがとう!いい動画が取れたよ!」

 山田さんの嬉しそうな声が聞こえました。

 むくりと起き上がったモー太郎さんは

「羊なんか・・・羊なんか・・・、オオカミに喰われちまえ!」

しっぽで私の体を叩きました。

 

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