第3話
真っ青な空の中で、太陽が元気いっぱい笑っている朝。
牧場で撮影が始まりました。
「みなさんは、いつも通りにしていればいいですからね!目立とうとしたり、いつもと違う動きをしないように!いいですね!」
オオカミのお千代さんの声が、太陽に届くくらい牧場に広がりました。
「お千代さん、いつもより吠えてますね」
ちえちゃんさんが山田さんに言いました。ちえちゃんさんは、私たち動物の言葉がわかりません。お千代さんの言葉は、ちえちゃんさんには、吠えているようにしか聞こえないのです。
「気合入ってんだよ。主演女優だからね」
「え・・・?主演、女優?」
「あれ?聞いてない?これから撮る動画って、あい・・・あちらの方が、主役なんですよ」
「へ、へえ・・・。それじゃあ、気合が入りますよね」
「ちえちゃん、気を付けな!ここで喋ってんのが見つかったら、上の方に、社会的距離を取れって怒られちゃうよ!」
「あ!ああ・・・そうでしたね」
ちえちゃんさんは、慌てて山田さんから離れました。
「社長!お千代さん!ちょっといいですかぁ!」
山田さんが、牧場主とお千代さんに大きく手を振りました。
よく見ると、山田さんも牧場主さんもちえちゃんさんもメリーさんも、みんな口の前に白い布みたいなものをあてています。
「こっちの動物さんたちが、撮影中かどうかがわからないと、撮影に支障をきたす可能性があるので、おれか、ちえちゃんのどちらかが、テイクワン、テイクツーって動物さんたちに声かけていいですか?」
牧場主さんとお千代さんが話し始めました。お千代さんの怒った声が聞こえてきました。
「早く決めてください!撮影できる時間が短くなりますよ!」
山田さんの声に、牧場主さんが大きく手を振り、大きな輪を作りました。
「いいぞ!そっちで合図してやれ!」
「それは、私が!」
「カメラまわしてる山田が、あいつらに撮影の合図を伝えた方が効率的だろ?」
「・・・わかりました。それが効率的なら・・・」
お千代さんがくるりと、牧場主さんに背を向けました。
「お千代さん!撮影の合図は、おれたちに任せて、今日は、演技に集中してください!」
山田さんの言葉が、お千代さんに魔法をかけたようでした。
お千代さんは、急に顔をあげ、ぴきーんと音が出そうなほど前後の足を伸ばしました。ゆっくりとした足取りで、山田さんのところへ歩きました。
「山田、やるなあ」
モー太郎さんが感心しながら言いました。
「食べ物で羊を操り、言葉でオオカミを操る。山田、すげえなあ」
「モー太郎さん。私は食べ物だけでは操られません」
「さあ、どうかなあ?」
モー太郎さんはそう言って、鼻先で山田さんの立っている方向を指しました。
「みんな!集中して、早く撮影を終わらそう!撮影が遅れたら、お昼ごはんが遅くなるだけだからね」
「がんばりまーす!」
「シープちゃん、いいお返事だ!」
モー太郎さんが小さく笑いながら「食べ物に釣られてんじゃん」と言いました。
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