◆第八章◆ 砂塵とともに(8)

 砂漠を進む二つの馬影。やがてその一つの動きが緩やかになり、そして止まる。

「ん……? どうした、痛むのか?」

 ニールの足を止めたディーンに、ホークが振り返る。

「何日たったと思ってるんだ? そんなにヤワじゃねぇよ」

 軽く腕をふり、ディーンが穏やかな表情を返す。

「保安局に戻るんだろ? だったらこの辺りだと思ってな」

「ああ。仕事をごまんと溜めこんじまったからな。それに……始末書の一枚でも書いてやらないと上司も上に示しがつかなくて困ってる頃合さ」

 腕を開き、やれやれといった調子でホークは首を振る。

「ははっ、そうか。アタシはアタシで、まだやることが残ってるんでな」

「なら……ここでお別れ、だな」

 ホークは静かにそう言い、少し顔を落とす。

「最後まで……何も――聞かねぇんだな」

 ディーンがホークを見つめ、しばしの間、視線が絡む。

「聞いて欲しい事があるなら聞くが――最も大事なことは、お前さんがその行動で示してくれたろ? それで十分だ」

「はっ……確かに。つい、らしくもない事を言っちまったな。忘れてくれ」

 少し顔を逸らし、決まりが悪そうにディーンは言った。

「じゃあ……達者でな。お前さんと出会えて――そうだな……楽しかった。縁があればまた会おう。――ディーン」

 帽子を深く被り直し、ホークが言う。

「ああ。アタシもだ。ま……酒代にでも困ったら、そのうちたかりに行くから覚悟しときな。――ホーク」

 軽く鼻で笑い、ディーンが返した。

 ホークが笑みを浮かべる。去り際に指を立て、キザな仕草で軽く会釈する。

 褐色の海の上を白馬が駆け、やがてその背は揺らぐ陽炎の中へと消えて行った。

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