◆第八章◆ 砂塵とともに(6)

「やった……!! やったぞ! バッチリ決めてやったっ! オレたちの勝ちだ、ディーン!」

 ホークが狂喜するが――それを遮るかのように主を失った大蛇が咆哮する。

「な……なんだと!? あの機構獣、自分だけでも動けるのか!?」

「そうみてぇだな。単体の機構獣としても自立してるらしい」

「そうか――って、おいおいどうする! それこそあんな化物、倒す術がないぞ!?」

 焦りの色を隠すことなくホークが声をあげた。

「――方法はある。アタシに一〇秒くれ。その間ヤツの注意を引きつけてほしい」

「本当なのか!? だが、果たしてオレ一人で時間を稼げるか――」

「ナリはデカくたってオルムが操ってない以上、単純な行動しかできないさ。そこらの機構獣と同じだ」

「同じ――。とてもオレには同じには見えないが……。やるしかねぇか――お前さんの言った事、全て信じてるぜ?」

「――ああ。期待してくれていいぜ」

 ディーンが親指を立てて笑みを見せる。

「わかった、こっちは任せろ。――いくぞ、シルビア!」

 手綱を強く引くと、シルビアが前腕を上げて嘶く。リボルバーを構え、ホークは毒蛇へと向けて突貫する。

 …………

 ディーンはニールの正面に背を向けて立つ。

「仕上げといこうぜ、ニール。アタシたちの選んだ道を。アタシたちの生き様を――真直ぐ進むために」

 その声にニールはわずかに首を振った。そして――

 胸部の外殻が左右に展開し、奥に覗く巨大な結晶の青い光が溢れだす。

 軸をずらしながら頸が後方へと倒れ、折れ曲がっていく。

 そこから一本の砲門が伸び、ディーンの手の中のフギンとムニンが連結された。

 思考と記憶、そして心。

 ニールの全てが一つへと戻り――魂の結晶が強く輝きを放つ。

 輝きが血脈となって全身を巡り、そして砲門の中に光を灯す。

 光は魂の唸りをあげ、激しい閃光を放ち迸る。

 …………

 彼方から己を狙う輝きを双眸に捉え、毒蛇は眼前の獲物から狙いを変える。

 口を開け――熱波の種火を蓄えながら、巨体を揺らし新たな獲物へと迫り寄る。

 右腕を引き絞り、ディーンは標的に照準を合わせ――


 今ここに、王女オリヴィア・ディーン・ヴァルハの名の下に命ず。

 我が信念と歩みし強き者――

 我が覚悟と進みし猛き者――

 我が魂と共に、其の勇武を以って――

 眼前のてきを撃ち破れ!

 穿激の勇将グァン‐グ・ニール


 ――二つの引金に力を込める!

 漠土だいちを削り、疾風かぜを裂き、陽光ひかりを超え――

 砲門の輝きが、一筋の光槍こうそうとなって突き進む!

 閃光が凶獣の頸を穿激! 頭部を破断する――直前、毒蛇が身を捻った。

 狙いを僅かにずれた光槍が貫通。その半身を砕くに留まり――空へと消える。

 機構獣の口から熱波が漏れ、獲物を狙い死の波動が大気を揺らす――その刹那。

 光槍が分散。神光が天を覆いつくし――熱線の雨となって降り注ぐ!

 外殻にくを斬り、機構ほねを断ち、その全てを焼きつくし――

 凶獣は閃光の残滓とともに塵となって、消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る