◆第八章◆ 砂塵とともに(3)

 大蛇が高く首を掲げ、咆哮を上げる。

 すると幅広い胸部にびっしりと並ぶ外殻がめくれあがり、数十門の機銃が現れた。

「その機構獣、随分とスピードには自信があるようだが――」

 玉座に座るオルムの声が上空から響く。その間にも銃口が各々狙いを定めて動き――

「果たしてこれを避けられるかのう!」

 オルムの声と共に、各々の機銃が一斉に火を吹いた。

「くっ……ニール! 頼むぜ!」

 空を薄黒く染めながら迫る鉛の群れを見上げ、ディーンが手綱を握る。

 ほどなく、銃弾の豪雨が辺り一帯を埋め尽くす。

 大気を震わせ、岩を砕き、砂を巻き上げ、砂埃を裂き――撃音が終わることなく鳴り響く。

 立ち込める砂塵の中、ディーンが銃身の動きから軌道を読み、ニールが培った経験と反応速度を駆使して僅かな隙間を掻い潜る。巧みに緩急をつけ、蛇行して走り、ときに大胆に足を止め、卓越した馬術で何とか避け続ける。

「くそっ――コイツはキツいぜ……!!」

 反撃はおろか、射程から逃れることもままならない。このままでは被弾するのは時間の問題。少しでも状況を変えなくては死を待つのみだ。

「今はこれしかねぇ! 行くぞニール!」

 勝機に繋がる有効策ではないが、現状でとれる最善策。

 ディーンは決断し、動きを変える。ニールが大蛇へと向かって疾走を始めた。

 銃身の可動域の関係上、距離を詰めるほど高い位置にある機銃の射線から逃れることが出来る。現実的に全て無効化することは不可能だろうが危険は減り、かつ機銃を完全に機能させるためにオルムは下がるしかない。少なくともこの危機的状況は打開できる。

 慎重に速力を上げ、段々と毒蛇との間合いを詰める。

 果たして。

 ディーンの予想通り降り注ぐ銃弾は減り、次第に回避がラクになってきた。

 しかし――予想以上に状況が好転している。

 ニールの動きに、距離を合せてくると睨んだ毒蛇が微動だにしないためだ。

 完全に攻守を変える好機――ディーンは更に速度を上げる。すると――

 唐突に左前方の地面が動いた。膨大な量の砂を払い――中から大蛇の尻尾が現れる!

「――! しまっ――」

 咄嗟に回避を試みるが、すでに時遅く――

 鞭のように振るわれた巨大な尾がディーンたちを薙ぎ払う!

「――――が……ッ……!!」

 全身に衝撃が走り、世界が横転する。ニールの外殻の砕ける音が耳に届き、そして自分の骨の砕ける音が芯に響いた。そして――

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