◆第八章◆ 砂塵とともに

◆第八章◆ 砂塵とともに(1)

 朱く染まったマントが風になびき、紅に燃える髪が熱波に揺らぐ。斜陽に照らされた二つの銃口が鈍く光を照り返した。

 朽ちた大地に伸びた斜影を踏み、そこでディーンは足を止める。

「ちっ……傀儡の分際で妾に抵抗するとは――下らぬ茶番を演じおって――!」

 肘置きを叩きつけ、オルムが歯を軋ませる。

「民には反旗を返され、神を気取ったところで誰一人従わせる事は出来ない。これが亡国の女帝の成れの果てか――惨めなもんだな。だが――テメェにはお似合いだ」

「黙れ……! 忌まわしきヴァルハの血族めが……神を冒涜し続けた大罪、絶対に――絶対に許さぬぞ! 脆弱な人間らしく醜くその血肉を散らし、懺悔せよッ……!!」

 オルムが激昂し右腕を伸ばす。指先から火を吹かせ、数多の弾丸を撃ち放つ。

「許さねえ――だって? それは――」

 迫る凶弾を前に、ディーンの両腕が動き――

「こっちのセリフだぜ! オルム!」

 白銀と漆黒、二つの拳銃が幾度もその身を震わせ撃発する。

 瞬時、一帯に目も眩むほどの火花と、耳を破るほどの残響がほとばしった。

 弾け合った弾丸が雨粒のように地に降り注ぐ。

「なッ――何だとッ!? 人間にそんな真似が――」

 全ての銃弾を相殺され、その信じがたい光景にオルムが目を見開く。

「この程度で驚いてるようじゃ――神ってのも存外、大したことねぇな。欲望と驕りに塗れて重ねた罪、しっかりと清算してもらうぜ。これがテメェへの免罪符だ。遠慮なく――受け取りなッ!」

 一声と同時にフギンとムニン、二つの大口径銃が絶え間なく撃音と発砲炎を吐き――瞬時に銃弾の嵐を巻き起こす。

「くっ……おのれっ……!!」

 視界を埋め尽くすほどの弾丸。オルムは素早く狙いを定め、次々とこれを撃ち落とすが――狙いが僅かに逸れ、その眼前に一発の銃弾が迫る。

 色白な被膜はだのその鼻先に弾着する――

「――!? ぐうっ……!!」 

 寸前、オルムが上体を反らす。弾丸は標的を掠め――彼方の石壁を破砕し塵の中に消えた。

 捉えきれなかったか――。ディーンが舌を打ち、反撃に備え素早く弾倉マガジンを交換する。

 しかしオルムは上体を反らしたまま微動だにせず――

「なるほど――どうやら妾は、礼節を欠いていたようだ」

 顔に左手を添える。

「これまでの不相応なもてなしを詫びようではないか。そして――」

 そのままゆっくりと起きあがり――

「しっかりとこの礼もしてやらねばならぬな……!」

 左半分を覆い隠していた手をおろした。被膜が裂け、髑髏のような外殻を露わとした顔が現れる。

「この所業、安くは済まさぬぞ――小娘……!」

 憎悪と怒りに満ちた表情を浮かべ、白磁の仮面に灯る瞳が鋭く光を放つ。

 オルムの両手から青い光が溢れだし、椅子へと流れ込んでいく。

 一帯の砂が細かく震えだすと、足元が揺らぎ始める。

 地中から駆動音が唸り、次第にその咆哮が高まっていき――

 大地がせり上がり、一気に間欠泉のように巨大な砂柱が立ち上る!

「はっ……ようやくメインディッシュのお出ましってわけかい」

 マントで顔を庇いつつ、細めた目でディーンが砂煙の向こうに見たのは、幹のような身体をうねらせ、そそり立つ大蛇の影だった。

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